プロローグを少しだけ
いつか描くであろう本編に想いを馳せつつ……高校に入学したての沙耶の様子を描写。かわいい
これがそのまま、本編のプロローグになる予定です。
詳しくは、筆者のプロフィールをご覧ください。
みなさま、本日はご多忙の折、私立桜花女学園にお越しいただき、誠にありがとうございます。
本公演は、三つの世代にわたる物語。乙女たちの、情熱の軌跡。
長編の物語となっておりますので、どなた様も、ご遠慮なくおくつろぎいただきながらご観覧くださいませ。
それでは、さっそく本公演の主人公をご紹介いたしましょう。
天川沙耶ちゃんです。
沙耶ちゃんは、ご両親にも恵まれて、すくすく育ちました。すくすくのびのび育ちすぎたせいで、ちょっと変……、いえ、自由奔放な性格になりました。それはもう、ご両親や友人たちが心配するほどの自由人に成長しました。
そんな沙耶ちゃんは、身長が高いことと、ボーイッシュで中性的な顔立ちをしていることもあって、気の毒なくらいジャージ姿が似合う女の子でした。
「アタシの舞台衣装はジャージだ!」
と言わんばかりです。
ポケットに両手を突っ込んで歩く姿も、男らしくて絵になっていますけど、沙耶ちゃんは女の子なんです。
長いまつ毛に高い鼻、瑞々しくて、ぷるんとした唇。そんな顔のパーツたちが、絶妙な位置関係に配置されて、日本人離れした、整った顔立ちになっています。
学園の女の子たちの中には、ひそかに沙耶ちゃんに想いを寄せている子がいるとかいないとか……。
スポーツシューズに履き替えた沙耶ちゃんは、校舎の裏口から外に出ました。
時刻は放課後です。
学園の裏側は、運動部のための活動スペースが設けられています。
みんな、活発に動き回って、気持ち良く汗を流しています。まさに青春の1ページですね。
沙耶ちゃんは、小さな丘になっている、林の中に入っていきました。
坂道をのぼっている途中、沙耶ちゃんは立ち止まります。
ポケットに突っ込んでいた右手を抜くと、ジャージの上から、ぼりぼりとお尻をかきます。
どんな美人でもイケメンでも、お尻がかゆいときくらいありますよね。
もしかしたら、お尻をかいているところを誰かに見られるかもしれませんけれど、沙耶ちゃんは自由奔放なので、そんなことは気にしません。
ポケットの中に右手を戻した沙耶ちゃんですが、数歩あるいたところでまた立ち止まり……。
「ぶえっきしょぉい!」
しゃみをしました。
沙耶ちゃんの豪快なくしゃみが、林じゅうに響きわたります。
もしかしたら、沙耶ちゃんのファンに聞かれたかもしれませんけれど、沙耶ちゃんは、そんなことは気にしないのです。
いまの沙耶ちゃんには、ある目標を達成すること以外は、頭にも眼中にも無いのです。
ひとつのことに、とんでもない熱量をかたむけることができるのは、沙耶ちゃんの長所で、熱量をかたむけていること以外には、まーったく興味を示さないのが、沙耶ちゃんの短所なのでした。
丘を登りきって下り坂に入ると、広々とした平地が見えてきます。
そこは、ソフトボール部のためのグラウンドです。
グラウンドは、なんと二面球場。大勢の選手が、様々な練習を行うことができるように配慮されています。
その他にも、選手が着替えをするための部室。道具をしまうための倉庫。グラウンドに水を撒くための水道……。いっさいの不便を感じること無く、選手が練習に打ち込むための施設が、すべてそろっていたのでした。
グラウンドの面積といい、他の運動部とは、あきらかに待遇が違います。
それもそのはず。
この世界では、ソフトボールは、プロリーグが作られるほどの人気競技なのです。
学生スポーツとはいっても、その盛り上がりは、他のスポーツとは一線を画しています。
そして全国大会ともなると、インターネット放送による中継が行われるほどです。
みんな、そんな夢舞台を目指して、多くの学校で、選手たちは精力的に練習に打ち込んでいます。桜花女学園もそのひとつで、全国大会出場をねらえるほどの強豪チームでした。
しかし……。
「話には聞いてたけど、思ってた以上にさびれてるわね」
二面球場を仕切っているフェンスはぼろぼろ。せっかくの広大な練習場は、ただの野原と化してしまっています。部室も倉庫も、外からみただけでも老朽化していることがわかりました。
用務員さんが手入れしてくれているらしく、グラウンド内に雑草はありませんが、グラウンドの周りは、草が伸び放題というありさまです。
学園内で、この場所だけ時間が止まっているようでした。
そして、活気に満ちていた他の運動部とは違い、このソフトボール場は、静まり返っています。
活動している選手がいないからです。
かつて、数十人の選手が所属し、全国大会もねらえるはずだったチームは、いまは活動を停止しています。
ソフトボールをしたいという生徒たちが、たまにボール遊びをすることはありますが、試合に出場できる人数がそろうことはありませんでした。
そして10年の月日が流れ、若い子たちの間では、桜花女学園がソフトボールの強豪であったことも、ソフトボール部があることすらも忘れさられていき、せっかくの立派なグラウンドも、月日の流れとともに風化していったのです。
この、おんぼろでさびしいグラウンドが、沙耶ちゃんの、いえ、彼女たちの舞台です。
「上等、上等。そうこなくっちゃね」
活気のかけらも無いグラウンドを前にしても、沙耶ちゃんの瞳は、宝石みたいに輝いています。
「すんませーん。一緒に遊ばせてもらっていいっすかー?」
このひと声。
沙耶ちゃんのひと声が、すべてのきっかけでした。
「天川沙耶です。よろしくお願いします」
でも、このときは誰も、時計の針が再び動き出したことに、気づいていなかったのでした。




