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尋問

エネルギー設備区画を離れたあと、テラはすぐに別の任務へ向かう気にはならなかった。


通路の脇に立ち、都市管理端末に残っているログをもう一度確認する。設備停止はすでに復旧処理が進んでおり、現在の機能状態はほぼ正常に戻っていた。しかし、異常が発生した時刻の記録だけは当然ながら消えない。


表示された数字を改めて見直す。


やはり差はほとんどない。


先ほどの制御核破壊未遂が発生した時刻と、エネルギー設備が停止した時刻の間隔はわずか数分だった。


都市の規模を考えれば、同時刻に複数の設備異常が起きる可能性自体はゼロではない。だが、あの事件の直後に同じ中枢区画で別の設備が停止するというのは、偶然にしては出来すぎているように思えた。


テラは端末の表示を閉じ、ゆっくりと歩き出す。


向かう先は都市管理施設だった。


捕縛された諜報員たちは、すでにそこへ移送されているはずである。尋問を担当するのは都市の管理機構だが、プレイヤーが接触すること自体は禁止されていない。むしろ現場に関わった者の観察は情報として扱われることが多い。


中枢区画の奥へ進むにつれて、人の姿は徐々に少なくなっていった。


ここは都市の管理機構に近い区域であり、一般プレイヤーが訪れる理由はあまりない。通路の広さは外縁よりも整然としており、壁面には監視端末や通信装置が一定間隔で設置されている。


その代わり、巡回機兵の数は明らかに増えていた。


人の目よりも機械の監視が優先されている区域らしい。


しばらく歩くと、目的の施設が見えてきた。


都市管理施設。


外観は派手な建造物ではない。むしろ機能重視の無機質な構造で、厚い金属壁と直線的な通路が組み合わさった建物だった。入口の前には二体の巡回機兵が配置されており、周囲の動きを常時監視している。


テラが近づくと、機兵のセンサーがわずかに動いた。


短いスキャンが行われ、視界の端にアクセス許可の表示が現れる。


直後、重い金属扉が静かに開いた。


内部に入ると、空気の質が少し変わる。


外の通路よりも温度が低く、機械設備の作動音がかすかに響いていた。壁面には複数の管理端末が並び、中央には簡易的な拘束区画が設置されている。


捕縛された諜報員たちは、その拘束区画の一室に収容されていた。


透明な隔壁の向こうに、二人の男が座っている。


両手は金属拘束具で固定され、装備はすべて回収済みだった。逃走の余地はほとんどない状態である。


しかし、二人の様子は妙に落ち着いていた。


テラが隔壁の前に立っても、慌てる様子も警戒する様子もない。ただ静かにこちらを見返してくるだけだった。


その視線に、わずかな違和感を覚える。


捕まったばかりの人間が見せる表情ではない。


恐怖も焦りもなく、むしろ状況を観察しているような目だった。


テラは壁面端末を操作し、隔壁越しに通信を開く。


「いくつか聞きたいことがある」


声は淡々としていた。


問いかけられた男の一人が、ゆっくりと顔を上げる。


「……都市の犬が何の用だ」


低い声だった。


それだけ言うと、男は再び沈黙する。


テラは反応を観察しながら質問を続けた。


「都市の設備を狙った理由は何だ」


返答はない。


もう一人の男も口を開かない。


視線はわずかに動くが、互いに合図を送るような仕草もなかった。まるで最初から沈黙することを決めていたかのような態度だった。


テラは特に苛立ちも見せず、次の質問へ進む。


「制御核を持ち出そうとしていた。あれは何に使う予定だった」


やはり答えはない。


ただ、完全に無反応というわけでもない。


二人の視線は常にテラを観察している。


質問の意図を測ろうとしているような目だった。


普通の尋問なら、この段階で何らかの反応が出ることも多い。否定や嘲笑、あるいは沈黙の中にも感情が混じる。しかしこの二人は、まるで決められた役割を演じているかのように落ち着いていた。


テラは少しだけ考え、それから質問の方向を変えた。


「都市の設備を止めたのは、お前たちか」


その瞬間。


男の視線がほんのわずかだけ動いた。


ほとんど気づかないほどの変化だったが、テラは見逃さない。


続けて言葉を重ねる。


「エネルギー設備が停止した。数分前だ」


男の目がわずかに細くなる。


それは驚きというより、確認するような反応だった。


つまり、この情報は想定外ではない。


テラの頭の中で仮説が一つ固まる。


「制御核を壊す必要はない。騒ぎが起きれば、それで十分だった」


静かな声で言う。


「その間に、別の場所で作業ができる」


男は沈黙したままだった。


しかし、先ほどまでの完全な無反応とは違っている。視線の奥に、ほんのわずかな揺れがあった。


否定ではない。


肯定でもない。


だが、少なくとも完全な見当違いではない反応だった。


テラはそこで追及を止めた。


それ以上聞き出せる情報はないと判断したからだ。


通信を切る。


隔壁の向こうで、男は再び視線を落とした。


まるで役目を終えたかのように。


その様子を見て、テラは小さく息を吐く。


最初の事件は、やはり本命ではなかった。


囮。


あの二人は捕まることも計算に入れて行動していた可能性が高い。


問題は、その間に何が行われたのかだった。


テラが管理施設の出口へ向かおうとしたときだった。


通路の壁面端末が、短い警告音を鳴らす。


赤い表示が画面に浮かび上がった。


《設備異常検知》


《中枢区画:通信制御ライン異常》


テラは足を止める。


表示された座標を見る。


場所は先ほどのエネルギー設備とは別の区域だった。


しかも中枢区画のさらに奥。


都市の通信網を管理しているラインの一部らしい。


テラは数秒だけ考える。


制御核。


エネルギー設備。


通信ライン。


それぞれ設備の種類も場所も違うが、都市機能として見ればどれも基盤に近い部分だった。


つまり――


個別の事件ではない。


都市全体の機能を揺らすための行動。


「……まだ終わってないな」


そう呟き、テラは表示された座標へ視線を向けた。


もしこれが同じ作戦の一部なら、次の異常も偶然ではない。


そして、おそらく――


本命はまだ別にある。


テラは歩き出す。


中枢区画の静かな通路を、今度は少し速い足取りで。

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