表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/79

中枢任務

 中枢区画に足を踏み入れてから、まだ半日も経っていない。


 外縁の街並みと比べて、この区域は静かだった。人の数が少ないわけではない。むしろ通行量は多いはずなのに、どこか整然としている。搬送ドローンは一定の高度を保ったまま規則的に通過し、道路脇の機械設備も無駄な振動や騒音を出していない。


 都市全体が、意図的に調整された環境のように見えた。


 テラは通路の端に立ち、視線だけで周囲の構造を確かめる。


 壁面に埋め込まれた情報端末。

 搬送レールの分岐。

 巡回機兵のルート。


 外縁で身についた習慣は、場所が変わっても自然と働いていた。


 視界の端に、任務通知が出現した。


 テラは歩みを止め、内容を確認した。


《都市設備異常対応》


発生位置:中枢区画・輸送補助設備

任務内容:設備異常の原因調査

危険度:低〜中

推奨人数:単独可


 珍しい内容ではない。


 都市が巨大である以上、設備の異常はどうしても発生する。外縁でも似た任務は何度も経験していた。搬送ドローンの制御遅延や搬送レールの誤作動など、原因の大半は単純な機械トラブルだ。


 だが中枢の場合、それが長時間放置されることはほとんどない。


 都市管理側がプレイヤーに任務を流すのは、人の判断が必要な場合に限られる。


 テラは任務を受諾し、表示された座標へ向かって歩き出した。


 通路は広く、天井も高い。照明は白く安定していて、外縁で見慣れたちらつきもない。整備状態の違いが、そのまま区域の格差を示しているようだった。


 指定地点は、輸送補助設備が並ぶ通路区画だった。


 搬送ドローンや小型輸送機が通るための分岐通路で、人通りは少ない。巡回機兵が一体だけ、一定の速度で通路を往復している。


 テラは壁面の情報端末に手を触れ、設備ログを確認した。


 表示された記録を順に追う。


 搬送ルート異常。

 制御信号遅延。

 短時間のシステム停止。


 内容だけ見れば、ありふれた設備トラブルに見える。


 しかし数秒ほどログを眺めているうちに、違和感が浮かんだ。


 停止時間が短すぎる。


 制御系統が一度落ちているにもかかわらず、復旧が異常に早い。普通の故障なら、ここまで即座には戻らないはずだった。


 まるで――


 誰かが意図的に信号を遮断し、すぐに戻したような挙動だった。


 テラは端末の操作を止め、通路の奥へ視線を向けた。


 設備異常のログは、この通路の奥側に集中している。搬送レールが曲がり、整備用通路へ接続している部分だ。


 足音を抑えながら、ゆっくりと歩き出す。


 奥へ進むほど、人の気配は薄くなっていった。巡回機兵のルートも途中で終わっているらしく、このあたりには機械の巡回もない。


 レールの脇を通り過ぎたところで、テラは足を止めた。


 床に擦れたような跡が残っている。


 最近ついたものだった。


 しかも一人分ではない。複数の足跡が奥へ向かって続いている。だが戻った形跡はない。


 テラは数秒だけ考え、そのまま跡を追った。


 通路は途中で細くなり、整備用の側路へ分岐している。普段は閉じられているはずの小型シャッターが、わずかに開いたままになっていた。


 内部の照明は落ちている。


 テラは壁に身体を寄せ、隙間から内部を確認した。


 暗い通路の奥で、わずかな光が揺れている。


 携帯端末の画面のような光だった。


 そして次の瞬間。


 金属を叩くような音が響いた。


 甲高い衝撃音が通路に反響する。


 工具の音だ。


 誰かが設備を解体している。


 テラは呼吸を落とし、音の方向へ注意を向ける。


 暗闇の奥で、影が動いた。


 人影は二つ。


 そのうち一人が、壁面に埋め込まれた制御装置を開いている。もう一人は周囲を警戒するように立っていた。


「急げ」


 低い声が聞こえた。


「巡回が来る前に終わらせる」


「分かってる。だがこの都市の設備は厄介だ」


 金属を外す音が続く。


「構造が複雑すぎる」


「だからこそ価値があるんだろう」


 短く笑う声が響いた。


「この技術を持ち帰れれば、あいつらは――」


 言葉は途中で途切れた。


 工具の音が再び鳴る。


 今度は何かが外れる音だった。


 その直後、設備の内部から小さな火花が散った。


 制御装置の一部が引き抜かれている。


 破壊ではない。


 だが明らかに正常な整備作業でもなかった。


 部品を取り外している。


 持ち帰るつもりなのだ。


 テラは目を細めた。


 設備異常の原因は、ほぼ間違いなくあれだった。


 都市設備から重要部品を抜き取れば、当然システムは異常を起こす。


 つまり――


 これは事故ではない。


 意図的な破壊行為だった。


 再び金属音が響く。


「もう少しだ」


「急げ」


「分かってる」


 端末の光が揺れ、通路の奥の影がわずかに動いた。


 テラは静かに息を吐く。


 このまま報告して引くという選択もある。


 だが。


 設備の破壊を見過ごせば、都市側の被害は広がる可能性がある。


 そして何より――


 ここは中枢区画だ。


 この区域の設備を狙う理由は、一つしかない。


 都市の技術だ。


 テラはゆっくりと姿勢を落とした。


 影の位置。


 距離。


 退路。


 通路の構造を頭の中で組み立てる。


 戦うかどうかは、まだ決めていない。


 だが、状況はすでに把握した。


 奥では、再び金属音が響く。


 設備の固定具が外れたらしい。


「取れた」


 小さな声が聞こえた。


「これが制御核だ」


 その言葉を聞いた瞬間、テラの視線がわずかに細くなる。


 次の瞬間。


 通路の奥で、端末の光が大きく揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ