46話 結果発表
陽が落ち、空には群青のベールがかかり始めていた。
広場の灯籠が一斉に灯され、まるで星が地上に舞い降りたような光景が広がる。
日中よりもさらに多くの観客が集まり、会場は熱気と期待に包まれていた。
「それでは……お待たせしました!」
司会の声が響くと、静まり返った広場に緊張が走る。
「本年、王都酒祭りにおいて、最高評価を得た酒――金賞の発表です!」
広場に風が吹き抜ける。
星空の下、審査員たちが一人ずつ登壇していく。
「評価は、味、香り、創意工夫、そして“飲んだ人の心を動かしたか”――それらの総合点で決められました」
ゴルバルドが手元の札を掲げる。
「第三位――銅賞は、ミード部門・農村の主婦チーム!
『野いちごと蜂蜜の果実酒』!」
会場から拍手と歓声。
素朴な笑顔の主婦たちが感極まりながら壇上に上がる。
「第二位――銀賞は、ベルグ家ワイン工房!
『五年熟成の赤葡萄酒』!」
ここでも、観客からどよめきが起きる。
老舗の名に恥じぬ堂々たる味わいだった。
そして、いよいよ――
「第一位、金賞……!」
司会者の声が一段と張り詰める。
「**修道院代表・ケンイチ殿の“白酒”と“ライスビール”**に決定いたしました!」
その瞬間、会場が爆発するような歓声に包まれた。
「やった!」
フェリシアが跳び上がり、ベアトリーチェとエスメラルダも笑顔を浮かべる。
セラフィーナは涙ぐみながら、ケンイチの背中をそっと叩いた。
「ほんとうに……ここまで来たのね」
ケンイチは壇上に呼ばれ、三姉妹と共に上がっていく。
審査員のマダム・レイナが、黄金のメダリオンを手渡しながら言った。
「あなたの酒は、伝統を持ちながらも未来を感じさせたわ。
まるで、時を超えてやってきた人のように」
「ありがとう。でもこれは、僕だけの力じゃない。修道院の皆と、三姉妹と……この国があったからこそです」
ケンイチは賞杯を高く掲げた。
観客たちから、祝福の声が次々と飛ぶ。
「飲ませてくれー!」
「また作ってくれ!」
「ケンイチ万歳!」
夜空に星が瞬き、拍手が途切れなく続いた。
ケンイチはそっと夜空を見上げ、心の中でつぶやく。
――この世界に来て、よかった。
宴は、まだ終わらない。
⸻
酒祭りの夜。
金賞を受賞したケンイチたちのまわりは、歓喜の渦に包まれていた。
「ケンイチ様、もう一杯! 白酒、もう売り切れちゃいますよ!」
屋台で働く修道院の若者が、息を弾ませながら叫ぶ。
「すごいな…」
ケンイチは、湯気の立つ酒器を手に取りながら周囲を見渡した。
街のあちこちで修道院の白酒やライスビールを求める行列ができていた。
普段は質素な修道院の酒が、今や“王都の味”としてもてはやされている。
「ふふ、もう高級酒よね。庶民の味だったのに」
エスメラルダがくすりと笑いながら言うと、
「ま、これがケンイチの力だ」
とベアトリーチェが腕を組んで得意げに言い放つ。
「みんなのおかげだよ」
ケンイチは照れくさそうに頭をかくと、セラフィーナに酒を勧めた。
「一杯どう? 今日は特別な日だし」
「じゃあ…少しだけ」
セラフィーナは照れながら酒器を受け取り、頬を赤く染めた。
そこへ、一人の衛兵が慌てた様子で走り込んできた。
「修道院長ケンイチ殿!」
「ん? なんだい、こんな時に」
「王宮より直々の招待状です。
ケンイチ殿を王が謁見されたいとのこと――すぐに、と」
場の空気が一瞬で張り詰めた。
ケンイチは眉をひそめ、酒器を置く。
「このタイミングで……? 急だな」
「なにか問題でもあるのか?」とベアトリーチェ。
「いや、たぶん――いや、確実に“依頼”だろう」
ケンイチは小さく息をついて、皆の顔を見回す。
「せっかくの宴なのにね」
フェリシアが頬を膨らませるが、セラフィーナは静かに言った。
「王の呼び出し…無視はできないわ。私たちも付き添う」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
ケンイチは軽く笑うと、王の使者と共に広場を後にした。
――
王宮の謁見の間。
金と白で装飾された大広間に、王が悠然と座っていた。
「ケンイチ殿。お前の酒は見事であった。心から祝福しよう」
「恐れ入ります、陛下」
王はしばし沈黙し、それからゆっくりと言葉を紡ぐ。
「実は一つ、頼みがあるのだ――この国の北方にある“霧の谷”にて、原因不明の病が広がっておる。
その地の水に問題があるとも、何かに呪われたとも噂されておるが、真実はつかめぬ」
「その解決を……私に?」
「あの地には修道院もあり、農村もある。
清らかな水を求めて、民は苦しんでいる。
――お前の“酒造り”と“水を清める技術”が必要なのだ」
ケンイチは少し目を細めた。
「……わかりました。行かせていただきます」
王は深くうなずき、命じた。
「この国の未来のために――頼んだぞ、酒聖よ」
ケンイチは深く頭を下げた。
再び、新たな地へと旅立つことになるとは思いもよらなかったが、
胸の奥が不思議と熱くなっていた。
(水……そして病……今度の旅も、簡単ではなさそうだ)
だが彼の背には、頼れる仲間と信じる者たちの笑顔がある。
霧に包まれた谷から始まろうとしていた――。




