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13勇者とノンアルコール

ある日、街では


「勇者が国からの依頼を失敗したらしい」


という噂が広まっていた。


「まさか伝説の勇者様が失敗するなんて…」

「何でも、戦いの最中に動きが鈍ったとか…」

「いや、俺が聞いた噂では、最初っからフラフラだとか...」


その様な噂を耳にしていた。


修道院には噂の二人の人物がいた。


「……あの時の二人がどうして?」


勇者は険しい表情のまま詰め寄ってくる。


「お前が作る酒が美味すぎるせいでうまく戦えないんだ!!それに、この世界ではエール以外の水分補給が見つからないじゃ無いか!」


男は何故か、とても怒っている...

普通の水が飲めないのは俺のせいでは無いのでは...


この修道院では水は普通に飲めるが、隠しておこう。


「俺は酒に弱い! なのに、エールばかりのこの世界じゃまともに戦えやしない!」


「はぁ、確かに、ナオ君はエールを一口飲んだだけでフラフラになってしまうものね...だから、戦闘中に水分補給ができず、結局敗北してしまったし...」


大賢者の女はいたって冷静のようだ。


「いやまてまて!そんなの俺のせいじゃないだろ…」


「黙れ! お前が余計なものを作るからこうなったんだ!」


剣を抜きかける勇者。


「おいおい、そんなことで戦いになるのか?」


「ナオ君...流石に落ち着いて...確かにこの問題は深刻だけど、力づくで解決する話ではないわ」


「じゃあどうしろって言うんだよ!?」


考えを巡らせた。ただ追い出すのは簡単だが、流石に可哀想だ...


「アルコールを含まないエールを作ればいい。水の代わりとしても飲めるし、味はそのままだから満足できるんじゃないか?」


「そんなことが可能なのか?」


「もちろん。発酵を途中で止めればアルコール度数を抑えられるし、他にも工夫のしようはある。まぁ、試してみるか?」


「……まあ、試してみる価値はあるか」


少しは冷静になってくれて助かった。


「挨拶が遅れた、俺は酒井 健一」


「僕は、佐々木 直人 一応勇者だ。」


「私は、安藤 紗奈 大賢者よ」


日本人の名前を聞くのは何ヶ月ぶりだろうか。

少し安心する。


「ということで、まずは、材料は自分たちで集めて来てくれ」


「はぁ!? なんでそんな面倒なことをしなきゃならないんだ!」


「当たり前だ。ここにあるものは修道院の物だ。それに、材料がどんなものか知るのも大事だろ? 文句があるなら帰っていいぞ」


「行こう、ナオ君」


渋々ながら、ナオトとサナは材料集めに奔走した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


数日後、二人が戻ってきたころには泥だらけになっていた。


「ぜぇぜぇ…やっと集まったぞ…」


「よし、それじゃあ作るか」


こうして、ケンイチ、ナオト、サナの3人は一緒にノンアルコール飲料の作成に取り掛かる。


ーーーーーーーーーーーーーーー




ケンイチ、ナオト、サナの3人は、修道院の広い台所に集まり、巨大な鋳鉄製の大釜の前に立っていた。


アルコール発生を抑えた「ノンアルコールエール」を作る。


通常、発酵が進めばアルコールが生じるが、ケンイチはこれまでの経験と、特殊な『酒聖』の魔力を応用し、発酵プロセスを途中で止める方法を考え出していた。


まず、ケンイチはハチミツを準備、さっきナオトとサナが集めてきた素材達、そして修道院で濾過した清水を用意する。


「これらの原料が、この飲み物の風味の基礎になる。まずは、麦芽を丁寧に砕いて粉末にする。ここでの粒の粗さが、後々の味わいに大きく影響するんだ。」


ナオトは、汗をぬぐいながら手伝い、ハチミツを計り、用意された大釜に投入する。


「こんなに繊細で大変な作業が必要なのか……。普段の戦闘での血しぶきと比べると、これもまた一苦労だな。」


サナは、ケンイチの指示に従いながら水を計量して加える。


「これで全ての材料が揃ったわね...」


3人は作業を進める。


だが、この状況をセラフィーナはよく思っていなかった。


「……私の.......に剣を向けておいて、よくものうのうと一緒にいるわね」


彼女の視線は冷たい。


「いや、それは……すまないと思っている」


「謝って済む問題じゃないわ」


三姉妹も、セラフィーナと同じくナオトに対して敵意を隠さなかった。


「私たちの家族に手を出したら許さない」

「そもそも、勇者なら勇者らしくしていれば?」

「ま、せいぜい役に立ってもらうわ」


ナオトは居心地が悪そうに目を逸らし作業に取り掛かった。


「フフ、人気がないわね勇者様?」


「うるせぇ…」


ケンイチは、魔法陣が刻まれた木製の杓子を手に取り、大釜の中で材料を均一に混ぜ合わせる。


杓子は少し前に三姉妹に作って貰った。

デンドリスの木材から余った素材から作った。

とても使いやすい。


「今回の造酒は混ぜる際の温度管理が命だ。適温は約40℃。これなら酵母が働くけど、アルコールが生成される前に止めることができるはずだ。」


大釜の中は、湯気とともに麦芽とハチミツの甘い香りが立ち込める。


「これが完成できれば水分補給にもぴったりだな。きっと僕も飲める気がする…」


「ナオ君もこれで戦闘中にふらつかずに済むかもしれないわね」


ケンイチはさらに、『酒聖』の力を微調整するための魔力結晶を溶かした液を大釜の中にそっと注ぎ込む。


「よし、ここで、『酒聖』の魔法を活性化する。これで発酵プロセスをわずかに促進しつつ、アルコール生成を途中で止める。理論上は、この温度と魔力のバランスで、エール本来の風味は残しつつ酔わない飲み物ができるはずだ。」


サナは杖を取り、大釜の上に小さな光の輪を描くように呪文を唱える。


光が大釜の表面を覆い、まるで薄いフィルムのように輝く。


「この魔法陣が、発酵の進行を緻密にコントロールする。アルコールが過剰に生成される前に、酵母の活動を弱めるのです。」


ナオトは眉を上げながらも、興味津々で様子を見守る。


「ふむ、まるで時計の針を止めるような感じか。これなら僕たちも安心して飲めるだろう。」


数十分の混合作業と魔法調整が経った後、ケンイチは大釜の蓋を静かに開ける。


中からは、透明感のある淡い琥珀色の液体がゆっくりと輝いていた。


「完成だ。これが、俺たちの作ったノンアルコールエール。香りは麦とハチミツが絶妙に調和しているな」


サナが慎重にグラスに注ぎ、ナオトが一口試飲する。


「……おお、これは…本当に美味い! 普段のエールの風味はそのままに、アルコールのキツさがない。これなら戦闘前にも安心だ。」


ケンイチはほっと笑みを浮かべると、再び大釜を見つめながら呟いた。


「これで、酒に弱い勇者でも水分補給と戦闘前のリフレッシュができる。俺の酒造りの力が、また新たな可能性を広げるな。」


台所に響く、かすかな笑い声と感嘆の声。


「ケンイチさんは、造酒と魔法の融合を本当にできたんですね。無能と言われていたのに...」


「……これなら、今後もこの飲み物を旅の必需品にできそうだな。」


こうして、三人の努力と魔法の力で、ノンアルコールエールの新たなレシピが完成した。


その味は、まるで普通のエールのように心地よい風味を保ちながらも、決して戦闘に支障をきたすことのない、理想の飲み物として生まれ変わったのだった。



ナオトは感動し、ケンイチに向き直った。


「ケンイチ、お前の酒造りの力はすごい。このノンアルコール飲料ももっと広めるべきだ!」


彼は真剣な表情で言葉を続けた。


「俺と一緒に旅をしないか? もっといろんな土地で酒を造り、広めていこう」


「悪いが、それはできない」


「なんでだ!? これだけの才能を持ってるのに!」


ケンイチはセラフィーナや子供たち、三姉妹を見渡し、微笑む。


「俺は、ここでみんなと一緒にいたいんだ」


「……ケンイチさん」


三姉妹も安心したような顔をする。


ナオトはしばらく沈黙した後、ため息をついた。


「……そうか。なら仕方ないか」


「フフ、最初から分かっていたんじゃないのか?」


「...」


こうして、ノンアルコール飲料は完成し、ケンイチは自分の大切な場所を守るためにここに残ることを選んだ。


勇者ナオトと大賢者サナは、再び旅へ向かった。

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