12.デンドリスの樽と新しい蒸留酒「ドリス」
ギルドの酒場は朝からざわついていた。
「おい、ケンイチ!この酒、すごいな!」
ギルドの冒険者が皆喜んでいる。
「そうか、それならよかったでも度数が高いから、朝に飲むのは禁止らしいぞ。」
昨日、ケンイチが初めて作ったブランデーをギルドの酒場に提供したところ、冒険者たちの間で大好評だった。
だが、あまりの度数の高さに、朝から飲んで潰れる者が続出し、ギルド長が「午前中のブランデー・ワインスピリッツ禁止令」を出す羽目になったらしい。
「で、今日は何をしてるんだ?」
「ちゃんとした蒸留酒を作るには樽が必要でな。新しい樽の素材を探してるんだ。」
冒険者たちからの情報を集めると、森に生息する木の魔物の特殊個体「デンドリス」が持つ材木が、いろいろな道具の素材にするのに適していると噂を耳にした。
「デンドリスって、普通の魔物だよな...」
「いや、ごく稀に特殊個体がいるらしい。そいつの木材は道具に使うと飛躍的に能力向上するらしいぜ。きっと酒にも...」
考えた末、ケンイチはすぐに森へ向かうことを決めた。
同行するのは三姉妹。
だが——
「今回は私もついていきます。」
セラフィーナが強く主張した。
「いや、と言われましても...危険ですし、子供達もいますし...」
「何度私を置いて行くんですか!もうついていきます!」
彼女の表情からして、止めることはできなさそうだ。
「…じゃあ、短時間だけ」
こうして、一行はデンドリスの棲む森へと向かった。
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森の奥へ
森の中は静寂に包まれ、時折、枝葉がざわめく音が響く。
「デンドリスって、どんな姿をしてるんだ?木の魔物としか聞いていないが。」
「普通の木と見分けがつきにくいそうですが、風が吹いていないのに葉が揺れているものは要注意だそうです。まぁ、見ればわかりますよ」
注意しながら進むと、突如として木々の間から巨大な影が動いた。
「何か来る!」
3メートル程の木が生き物の様に動いている。
「でた!!」
「私たちに任せろ!」
三姉妹の連携で木の魔物を次々間に倒して行く。
「ケンイチさん、毎回この様な冒険を...」
セラフィーナさんがこちらをジッと見つめている。
酒バフを活かし、できる範囲で俺も戦闘に加わる。
疲れや傷はセラフィーナさんが魔法で回復させてくれている。
しばらく戦っていると、
どん...どん。
と、大きな物音。
一本の大木がゆっくりと根を引き抜き、まるで生き物のように動き出している。
その全長は5メートルを超え、全身が絡みつく蔦で覆われていた。
「……人間よ。我が森に何の用だ?」
「喋った!?」
木の魔物は落ち着いた声で語りかけてきた。
どうやら、知性を持つ特殊な個体、デンドリスらしい。
「俺たちは、あなたの木材が必要なんです。蒸留酒を作るために、ぜひ分けてもらえませんか?」
「……酒を造るために、我を切ると?」
「いや、違う!生きている木を傷つけるつもりはない。もし倒れた枝や、不要な木材があれば譲ってほしいんだ。」
デンドリスはしばし沈黙し、やがてゆっくりと動いた。
「……ほう、人間のくせに話が通じるとはな。よかろう、試してやる。」
すると、大地が震え、デンドリスの根元から一本の枝が切り落とされた。
「これを使え。我が力を持つ材木は、酒の味を深めるだろう。」
「ありがとう!すごく助かる!」
ケンイチが礼を言うと、デンドリスは満足そうに微笑んだ。
「人間よ。酒が完成したら、またここへ持ってこい。我も味を見てみたい。」
「もちろん!」
こうして、ケンイチたちは貴重なデンドリスの材木を手に入れ、修道院へと帰還した。
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修道院に戻ると、さっそく新たな酒造りに取り掛かった。
三姉妹に木の加工を頼む。
「ケンイチ見てくれこの樽...」
完成した樽を見てみると、薄く青いラインが入っており、まるで生きている様に鼓動している。
早速、デンドリスの木材で作った樽に、ワインスピリッツを入れ、熟成させる。
数日後——
「うおっ!香りがすごい…!」
「木の香りがさらに加わり、ブランデーよりも強い臭い...!今までのお酒よりも凄いです!」
セラフィーナさんも目を輝かせた。
こうして、デンドリスの名前から取った、新たな酒 「ドリス」 が誕生した。
ギルドでさらに潰れる者が現れたのはいうまでも無い。
そして午前中ドリス禁止令も増えた。
デンドリスとの約束を守るため、ドリスを持ち再び森へ向かうことを決めた。
「さて…次はデンドリスにも飲ませてやらないとな。」
今回はセラフィーナさんと子供達と向かった。
木の魔物は全く襲ってこないどころか他の魔物から守り、デンドリスがある所に誘導する様にトンネルが出来ている。
「デンドリス、言っていた酒ができた。これを良かったら飲んでくれ。」
「我のところに。本当再度来るとは、酒は受け取ろう。お主は気に入った。また必要ならば取るに来るが良い。」
新たな酒と、新たな繋がりを手にしたケンイチ。
その酒が、後にギルド以外の、多くの人々を驚かせることになるのは、また別の話である——。




