9 第三夜
今日は土曜日、少し運動をした方が眠りやすいかと夕方にランニングに出た。
走りだして数歩で体が重く、自分で思う以上に動かないのがわかる。まともな運動など久しくしていない。筋力がすっかり落ちていた。ただ、走っているうちに頭の中が空白になる気がして、俺はキツくなっても走るのをやめなかった。自分の体を追い込んでいけばいくほど、心が軽くなる気がした。
その夜は、二十二時過ぎに眠りについた。
――俺は、また車を走らせていた。
やるべきことは何度も考えていた。あとはどれだけ無駄なく動けるかだ。
まず、ハザードランプをつけて車を路肩に停める。車が急ブレーキのタイヤ音を立ててとまる。すぐに携帯を後ろからとる。
ここまでは昨日と同じだ。
俺はSNSを開けることはせず、雫に電話した。今、ここで彼女と話ができれば、何か変わるかもしれない。いや、なんとか結婚を諦めるよう説得してもいい。急にそんなこと言ってもそんな大事な話を聞いてくれないだろうが、それでも何か変わるかもしれない。
俺は、そう思っていた。
携帯は、しばらく呼び出し音が響く。
時計は、18:58になっていた。
俺はギリギリまで鳴らし続けた。
だが、雫は携帯に出なかった。
そして、「おかけになった電話は現在通話に出ることができません。もう一度おかけ直し……」メッセージを最後まで聞くことなく、夢が終わった。
――目覚めた俺は起き上がるとすぐに枕元のノートにペンを走らせる。
とにかく全部忘れないうちにと書き殴った。
車はうまく停められた。後続車にクラクションを鳴らされることもなかった。
ただ、どう言おうかと自分のことばかり考えて、雫の方のことを考えていなかった。電車の中だったら電話に出るのは難しい。
電車の時刻表を調べてみると(もちろん八年前の)、電車が高茶屋を出たのが五十四分。彼女が降りる次の駅、南が丘まで四分かかる。
電話をしたのは、ちょうど駅に着く頃だ。やはり出られないか……。
あれだけ時間があったのに、そんな簡単なところを考えていなかった。
日曜日、その日一日俺は細かく計画を練り直した。
次こそ雫とのコンタクトを成功させたい。
生きている雫の言葉を、ただ聞きたかった。




