10 第四夜
夢の中で過去を変えようと試し始めて四日目。
俺は、準備を整えて、眠りについた。
――俺は車を走らせていた。
流れる車のテールライトの赤い列。
目の前の時計は、18:56。
時間を無駄にすることはできない。
素早くハザードランプをつけ、車を路肩に寄せる。後座席のバッグから携帯を取ると素早くメッセージを打った。
《しず》
送信を押して時計を見ると、時計は18:57。
すぐに五十八に変わる。
雫、気づいてくれ。
俺は、返事が来るのをじっと待った。
腕時計の秒針が三十秒を過ぎる。
わずかな時間で打てるようにと考えて《しず》とやってみたが……
四十秒を過ぎた時、携帯の画面が変わった。
来た!
その言葉を見た。
《なに?》
その時、ラジオから流れていた天気予報が終わり、十九時の時報が鳴った。
続いて、アナウンサーの声がニュースを読み始める。
遠い国の戦争の話だった。
え、夢が終わらない……?
時計の文字は19:00、ニュースは続いている。
俺はその時、目にし、耳にしていることが信じられず、フリーズしてしまう。
……そのまま、夢は途切れた。
――目が覚めた。
瞼を開けると、暗がりの中、変わらぬ自分の部屋。
目を閉じて最後に見た記憶をもう一度確かめる。
それは確かにまだ瞼に残っていた。
《なに?》
雫からの言葉だ。あいつの澄んだ笑顔がよみがえる。
たった一言だったが、雫と話すことができた。
「やった……できた!」
思わず声が出る。
でも、なにが起きたんだ?
俺は、体を起こすと枕元のペットボトルのお茶を一口飲み、興奮した頭を少しでもクールダウンさせようとした。
卓上ランプをつけようと思ったがやめた。灯りをつけたら全部消えてしまいそうな気がした。
俺は、ふうーっと息をゆっくり吐き出し、今みた夢をもう一度思い返す。
夢がまた変わった……、しかも、返事がきた。
……夢が延びた。
たった二分。
それでも、その二分は八年前には存在しなかった時間だった。
これはどういうことなんだ?
……もしかして俺は、この夢を通して、あの時間、八年前をもう一度体験しているのか。
異様といえるほどリアルな感覚、あれは夢というよりも現実となんの遜色もないものだ。俺は自分で考え、過去と違う行動をとることができた。
《なに?》この一言の存在は、俺の心の中、気づかなかった渇望を目覚めさせてしまっていた。
もっと雫の言葉に触れたかった。
もうこの世界にいないはずの彼女がそこにいて、俺に言葉をくれた。
それが、とてつもなく嬉しく、切なかった。




