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11/20

11 第五夜

 月曜日、三日振りの職場で俺は明らかにハイだった。

 そんな俺を見ていた課長が声をかける。

「暁月さん、ゆっくりできたようですね。いつもより元気じゃないですか?

 やっぱり、ライフワークバランスは大事ですね。これからも自分の体調しっかり気をつけてくださいよ」

 俺はなんとも言えず愛想笑いを浮かべる。まさか、昔の好きだった人の夢を見たからです、なんて言えるわけもない。

 遅れていた仕事を早めに済ませると、定時過ぎに県庁を出た。

 頭の中は、雫にどんな言葉を送るか、そればかりだった。


――俺は車を走らせていた。

 流れる車のテールライトの赤い列。

 目の前の時計は、18:56。

 時間を無駄にすることはできない。

 素早くハザードランプをつけ、車を路肩に寄せる。後座席のバッグから携帯を取ると、素早く打って送信した。

 結局、昨夜と同じ《しず》の二文字。

 他に短時間で返事を期待できる言葉は思いつかなかった。

 同じでもいい、南が丘駅のプラットホームで携帯を見ている雫が、携帯の向こうに存在している。

 俺にはそれだけで十分すぎるほどだった。

 時計が18:58、昨日と同じ40秒過ぎに返事が来た。

《なに?》

 天気予報が終わり十九時の時報が鳴った。

 続いて、アナウンサーの声がニュースを読み始める。

 俺はすぐに返事を送る。

《駅で待って迎えに行く》

 時計の文字は19:01、……夢は途切れた。


――目が覚めた。

 見慣れた白い天井がぼんやりと目に映る。

 雫の言葉が欲しくて送った二度目の送信。

 でも、送っただけで返事はもらえなかった。

 時間が圧倒的に足りない。

 夢はゆうべと同じ19:01まで続いていた。

 そこまで夢が続くとわかっているのなら、初めにもう少し時間をかけられるってことじゃないのか。

 よし、次やってみよう。

 俺は暗闇の天井を見上げながら、すっかり目覚めてしまった頭で夢について考え続けた。

 夢が延びるというのは、どういうことなのか。

 最後に見た時計は確かに19:01。ゆうべと同じだ。

 あの延びた二分は、八年前には全くなかった現実だ。

 これまでなかった新しい夢の続き……。

 なぜ変わった? 

 自分の意志で動けるということはわかった。だが夢の長さ自体は変わらなかった。

 夢の長さが変わる。ゆうべと今日は同じだった。その前と何が違った?

 俺の行動は、この四日間、少しずつ変わっていたが夢が延びたのは日曜に二分。

 今日も同じ時間まで続いた。

 俺の行動か?

 だとしたら、何をした? 

 わずか二分……だが、あの八年前にはなかった新しい時間が生まれた。

「新しい時間ができる」

 それは俺の頭を痺れさせ、興奮した脳内をさまざまなものが激しく駆け巡った。

 俺は、「あの時間」をもう一度体験し直しているんだろうか。

 ……タイムリープ、SFに出てくるそんな言葉が頭に浮かんだ。

 過去になかった「新しい時間」をつくることが本当にできたのだとしたら……、過去を変えることができるということになりはしないか。

 時間が変われば……、それって、もしかしたら雫を助けることもできるんじゃないのか。

 俺はその考えに自分でも驚き、ベッドを飛び起きた。

 言いようのない、今の俺の閉塞感、何も先が見えなかった頭の中に、眩しいほどの光が見えた気がした。その光の中に何かがいる。

 よし、やってやる。その可能性が一ミリでもあるなら、やってやる。

「雫を助ける」

 俺は、その言葉を頭の中で繰り返した。

 夢は一日に一度しか見ることができない。しかもわずかな時間だ。だが、それまでに十分考え準備することはできる。しっかり考えろ。この夢がいつまでも続くという保証なんかないんだ。一回を有効に使わないと。

 そんなことを考え出すと、世界が一気に違って見えてきた。

 ふと、子供の頃好きだった『アリス』を思い出した。アリスは理由も分からないまま白うさぎを追いかけた。今の俺も同じだ。

 理由なんかない。ただ、追いかけたい。

 赤いテールランプの向こうに見える、雫の後ろ姿を。

 その「時」の尻尾を。

 毎夜、わけもわからず追いかけていた。それが、はっきりと雫の後ろ姿となって見えた気がした。

 そのために何ができるだろう。

 そんなことを考えている間に、気がつくと朝陽が部屋に差し込んでいた。

 窓のカーテンを開けると、眩しい朝陽が部屋の中に差し込む。見上げれば、空はどこまでも青く高かった。スズメの鳴き声がし、東の空の雲は朝焼けの紫を残している。

 もうすぐ太陽が登ってくる。

 俺は窓を開け、けだるく血の巡りの悪かった体に朝の空気をしっかりと吸い込んだ。

 あの向こうまで、いけるかもしれない……。

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― 新着の感想 ―
 ゾンビのような生活をしていた人が 自分で見つけた目標があると 別人になれるのですね  日々の中に小さな幸せを探して 過ごしたいものです
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