12 第六夜
火曜日、新しい可能性について考え出した俺は、夜になるのが待ち切れなかった。
仕事もそこそこに、今日も定時で帰宅する。横の同僚が不思議そうに「どうしたの? まさか彼女でもできた?」と聞かれ、俺はただ笑ってやり過ごした。
帰宅した俺は、早めに夕食を終え、灯りを消してベッドで横になる。
だが、さすがに色々考え過ぎて寝付けない。頭の芯がずっと興奮したままなのがわかる。変に早く寝ようとしたのもいけなかった。
その夜、もう何度目になるか、暗い部屋の中、瞼を開けた。
ほの暗い部屋の中にぼんやりと浮かぶ家具や壁、天井のほの白い輪郭を見上げていた。
もう何時だろうと思ったが、時計は見ないようにした。
ここんところ、仕事に集中できてない分、職場でのやることは溜まっていた。それを思い出してしまうと、余計に寝れそうになくなってきた。
そのまま俺は何度も寝返りを打って長い夜を過ごした。
そして、明け方近く、ようやく夢を見た。
――俺は車を走らせていた。
流れる車のテールライトの赤い列。
目の前の時計は、18:56。
時間を無駄にすることはできない。
素早くハザードランプをつけ、車を路肩に寄せる。俺は後座席のバッグから携帯を取ると、素早く《しず》と打った。
ここまでは同じ。さらに、
《駅で待って迎えに行く》
新しくできた時間があるから、ここで焦らなくてもいいはずだ。素早くそれだけ打って送信した。
携帯をハンドルの側に置いて、よく見えるようにすると、すぐにウインカーを出して車を出した。
車が連なる速い流れの車線に多少強引に割り込んだ。大きなクラクションを鳴らされる。
雲出大橋を渡った次の交差点でUターンし、今来た道を戻る。
雫のいる南が丘駅まで、この時間だとどのくらいかかるだろう。
ただもう一度、雫の顔が見たかった。
あいつに会えるかもしれない。それだけで脳内がカッと熱くなっていた。
だが、津へ向かう上り車線は混んでいた。車はすぐに渋滞、なかなか前に進まなくなった。赤いテールランプの列は遥か向こうまでびっしりと続いている。
18:59
《何かあった?》
返事がきた。
新しい雫の言葉だ……。
俺は、ちらりと携帯の画面を確かめ、「よし!」と声に出した。
車は、少し進んでは止まるを繰り返した。
ラジオのアナウンサーの低い声が、東京で起きた地震の話をしているのに気づく。
あれ?
時計を確かめると、19:02の文字。
時間が進んでいた。
前の車が動き出したので、俺は慌ててアクセルを踏み込む。
また新しい時間に入った。
車はノロノロながらも、着実に前へ進む。
交差点を一つ、二つ越えて雫の待つ駅に近づく。
もう一つ、次の信号を……、
そこまでだった。
――目覚めた俺は、思わず「やった」とつぶやく。
夢が延びた。最後は確か、19:05。
四分延びた。
雫の言葉が変わった。ちゃんと言葉を交わせるってことだ。
彼女はあの時間の中で、まだ生きているんだ。
俺は拳を固く握りしめた。
会いたいという思いが熱を持って膨れ上がってくる。
でも、あの先をどうすればいい?
会うにも遠い、あの短い夢の中で。




