19 第十三夜
雫は一晩考えさせてと言った。
俺は、
「わかった。ただお願いだ。もう少しだけ、九時ギリギリまででいいから、話させて」と頼んだ。
ゆうべの時点で、夢の終了時刻は19:36。
そこから今日の雫との会話で、どこまで延ばせるか。
俺は雰囲気を変えるべく、砕けた話をし、雫の言葉を聞いた。いろんなことを教えてくれと言った。
なんともわけのわからない顔だった雫も、最終的に、
「今日のコタ、なんだかわたし知ってた頃のコタと違うね。でも、なんだかすごく面白いよ」
と言ってくれた。
俺たちは時間の許す限り話をした。
二人には話すことはいくらでもあった。
九時前。
「じゃあね」
と言って帰っていった雫は、笑顔だった。
そして、残された俺は……。
一晩、車内で一人、苦悶の時を過ごした。
最後の一時間ほどで雫の言葉をたくさん聞くことができた。とはいえ、それがどこまでもつかわからなかった。だから、もし寝てしまって、そのまま夢の終わりを迎えてしまったらと思うと寝ることもできず、まさしくこれが一日千秋の思いというやつだろうか。じりじりと過ぎる時の中で一人夜明けを待った。
夜が明けてきた。
俺は海岸線まで出て、堤防沿いに車を停めていた。
東の海から太陽が昇ってくる。
きらりと雲を光らせ、薄紫の雲と深い緑の海があった。
堤防に腰掛けそんな海を眺めていると、ポケットの携帯が振動した。
雫からのメッセージだ。
震える指でタッチすると文字が現れた。
《わたしなりに真剣に考えた。自分のこと、いつも嫌いだったんだ。けどね、コタといるとそうじゃなくなるって思った。わたし、いろんなことに、ちゃんと向き合ってなかったのかもしれない。コタの言葉でなんか色々考えさせられたの。
だからね、もう少しだけ時間ください。もう一度ちゃんと考えたいから》
――俺は認められたのか!?
まだわからない。でも、今はそれでいい。
また雫の言葉、もらえた。
それだけで、胸の奥が熱くなった。
その時、太陽の光が差し込み、俺の全身を照らした。
あたたかい光の中で、俺は、この“時”を全身で感じていた。
それからの道のりは、やはり想像以上に大変だった。
なんといっても一日に六十分×二十四時間。
合計すると、千四百四十音の雫の言葉が必要になる。
これがなければ俺はここで生きていけない。それは空気と同じなのだ。
俺は、SNS、電話、時には会いにいってそれを確保した。
でも慣れれば、それは、ただ楽しい時間だった。
なんたって雫と話をし、会うことができるのだから。
雫が心を決めてくれるのに、そう時はかからなかった。
そうなると、雫の方と、俺の方、それぞれの“始末”をつけるということが、まず第一の、そして最大の関門となった。それは双方ともに一番苦しくて辛い時間だった。だが、もうこの心に嘘はつけなかった。雫の方も、相手が泣き出して大騒ぎになるという事態を招いたが、その後の人生のことを考えると、二人にとってここは頑張るところだった。
次の関門は親の説得だったが、一つ目を二人で協力し、なんとか乗り切った俺たちには、もう関門ではなかった。
俺としてはできるだけ雫の両親にも認められたかったが、雫のことを考えると、実家とは距離をとったほうがいいと思っていた。
それから一年、俺たちは長い時間をかけて、それぞれの人生を整理した。
簡単なことではなかった。傷つけた人もいた。
それでも、もう自分の心に嘘をついて生きることはできなかった。
そして、一年後、俺たちは一緒になった。
長い長い夢の中で、ずっと追い求め続けた俺のうさぎの尻尾、それをついにつかまえたのだ。




