14 第八夜
その日の朝、職場に着くと同僚に何かあったのかと心配顔をされた。
続いて課長が、何か心配事あるなら相談にのりますよと、こっそり囁いてきた。
ここんところ、夢のことで頭がいっぱいだった。そのため仕事の方が相当まずいところまで来ていたのかもしれない。なんとか目の前の仕事に集中しないと。
机の整理から始め、遅れていた各項目を整理して現状でやらなければならないことを確認する。そうこうしていると、新たに一件ややこしい電話がかかってきて、午前中その対応にかかりっきりになった。
昼過ぎ、その案件がやっと片付いた時には、久しぶりに夢のことを忘れている自分がいた。
その日は、これまでの遅れを取り戻そうと、少し残業をした。
自宅に帰ったのが二十一時。
簡単に夕食をすますと、すぐに夢についてまとめたノートを広げた。
夢のことばかりだった頭から、今日は一度離れて、少し冷静になれた気がする。
改めて今わかることを整理する。
日曜に二分、火曜にさらに四分。そして、ゆうべは19:11、六分の延び。最初と比べて十二分の時間ができた。
この十二分は過去にはなかった新しい時間だ。その中で俺は全く新しい行動をとっている。
新しい時間が進んでいる!?
延びたのは三度。なぜ延びたんだろう?
このひと月、寸分変わらず繰り返されてきた夢が、なぜ変わったのか。
二分。四分。六分。
きれいに二分ずつ増えている。
偶然なのか?
これも何か意味があるんだろうか。
いくら考えても、それ以上わからなかった。
情報が少なすぎる。
今はできることをやってみる。それしかないか……。
俺は混乱し、もつれた思考をリフレッシュしようと、熱いシャワーを浴びてからベッドに入った。
――俺は車のハンドルを握っていた。
まずは昨日のところまで、きっちりとトレースしていく。
「慣れてきた頃にミスをするもんです。暁月さん、気をつけてくださいよ」
課長の目を細くした視線がこんな時に思い出される。
そうだ、焦ってミスをしてしまえば、昨日のところまでたどり着けない。
俺は素早く、かつ慎重にやるべきことをこなしていった。
携帯で送信《駅で待って迎えにいく》、その後のUターン。
車は渋滞の赤いテールランプの流れに乗って、昨日と同じ時の中を流れていく。
雫からの返信。
《何かあった?》
《話あるから待って》
《ここでじゃだめ?》
昨日と同じところまできた。
道は相変わらず、少し進んでは停まるの繰り返しだ。
右手に津競艇場の丸い看板が見えた。
もう半分以上来たことになる。
昨日と同じように前の車が黄信号で停まった。
ここで停まることがわかっていた俺は、すかさず念押しの言葉を打つ。
《一生のお願い》
信号が変わり、車が動き出す。
雫からの返事はすぐに来た。
《わかった待ってる》
車は、やがて左手にボウリング場が見える緩やかな右カーブにさしかかる。
中学の頃、ここで七人で遊んだっけ。
珍しく雫も参加したからよく覚えている。雫はガーターばかりで、彼女と組んだ大輔が、やたらはしゃぐのを内心羨ましく見ていたっけ。
気づくと、ラジオのニュースは終わり、音楽番組が始まっていた。
時計は、19:16。
今日も時間が延びている。
車がスムーズに流れだした。広い道路を赤い光の列がゆったりと流れていく。
雫とほんとうに会えるかも……。
俺の期待はますます膨らんだ。
だが、次の瞬間夢は途切れた……。
――いつもの部屋、いつもの夜に戻った。
でも、気分はいつもとは違う。この着実に雫に近づく感覚は、俺を昂らせた。
今回もまた延びた。今日は19:19。
後十分ほどの距離だ、そこまで近づいたことになる。
俺は胸の高鳴りに震えながらも、少し落ち着こうと夢のノートを出して書き込んだ。
今日は八分の延びだ。
俺は変わりだした、この一週間の時間の変化を並べてみた。
この延び方には、何か規則がある。
金曜日 〜18:59
土曜日 〜18:59
日曜日 〜19:01 +2
月曜日 〜19:01
火曜日 〜19:05 +4
水曜日 〜19:11 +6
木曜日 〜19:19 +8
なんだろ、この変化の仕方は。分単位で動いていることからして、何かが作用していると思うんだが……。
俺は、数字の横に俺の行動やあったことを書き足してみる。
う〜ん、今のところ、二分ずつっていうのが、シンプルな答えなのか。
だとしたら、増えるためのキーみたいなのがあると思うんだが……。月曜が増えなかったのは、俺の行動に何か足りないものがあったからか。
とにかく試してみるしかない。雫のいる駅まで、あと十分ほど。
このペースで次に十分延びれば、雫に会える。
もう手の届くところにある。その事実が俺を浮足立たせた。




