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やるべきこと



 俺は駆ける足を緩めぬまま、慌てて逃げ出してきた家を振り返る。そして叫ぶ。


「危ねえよっ!」


 容赦なく攻撃してきたシュリとミンのことを思い出す。接敵した際の正しい反応ではあるが、実際に相対するとは思っていなかったのだ。


「やっぱりあいつらにも俺がモンスターに見えるんだろうな……」


 確認できたことをよしとしつつ、それでも少し残念に思いながら、俺は草原を駆けていく。後を引く黒い残像に辟易とした表情をしながら、今後のことについて考えていた。

 街には入れない。

 家にも帰れない。

 プレイヤーの目に触れられない。

 そんな場所はあるのか。


「……あー。あそこならいっか……」


 俺はふと思いついた場所に向けて、足を向けた。ユウナやミン、シュリと出くわさないように気をつけながら、素早く駆けていく。

 そして同時に俺は思う。

 なにか他にも制限がかかっているかもしれない。

 その検証をするためにも、俺は急いで目的地へと向かった。

 たどり着いた先で。

 多くのモンスターがこちらをギラついた目で睨めつけている中で。


「お招きいただき、ありがとう」


 俺は眼光を鋭くして、


「どうぞよろしく、実験動物たち」


 目の前の獣たちに襲いかかった。






「いろいろ制限あるもんだなあ」


 俺は今まで確認した事項を頭のなかでまとめながらそう愚痴った。

 まず、武器の制限。

 なにも使えず。


「まあ、困らないけど」


 そう言って、襲いかかるネコのようなモンスターの首を足で刈り取る。

 次に、腕に纏う黒い靄の正体。


「貫通力、かね」


 そう言って、人型のモンスターを展開される障壁ごと胸を貫く。そのモンスターは堕天使とか言う天使属性を持つ個体である。

 天使に有効な攻撃であるということだろうか。

 ただ、この靄は普通のモンスターにはあまり効果が無い。それどころか、少し回復させてしまっているらしい。

 首をへし折れば特に問題はないようだが、殺しきれない場合があるようで、面倒臭さから普通のモンスターには脚で攻撃している。

 そして、装備。

 黒衣と仮面という変更できない仕様であるが、これには追加効果があるようで。


「うへ。集まる集まる」


 周辺のモンスターが、こちらを視認するとすかさず襲い掛かってくる。

 ヘイトを高める、といったところか。

 俺は少々疲れたので、その場を駆け出した。襲いかかるモンスターを躱して、何もいない場所へ。

 幸いなことに、一定以上離れるとモンスターも追いかけてこなくなる。

 俺は素早く岩陰に身を隠し、一つ息を吐いた。


「これからどうしようかね」


 俺のやるべきこと。

 やらなくてはいけないこと。

 使命感なんて似合わないと思いながら、しかし、しなくてはいけないことはあって。

 あんなことを思い出したら、俺は。


「怜美……」


 ガキ共の世話をしなくては。

 それが、アイツの最後の「お願い」なのだから。

 まずは地方のエリアボスだろうか。そろそろ【世界タヴ】の再湧出かも知れない。それから「生命樹」の攻略をやるか。


「一人は、厳しいか……?」


 それでも。

 やるしかない、と俺はまた一つため息を吐いた。






  ◇◆◇◆




「みなさん、集まってくれてありがとうございます」


 私はそう言って目前の人々を見渡す。

 そこには『愚者の盾』の面々が一堂に会していた。

 一番近いところに、ミンちゃんやシュリさんもいる。こちらを決意の眼差しで見ている。


「皆さんにはこれから、エリアボス【世界タヴ】の討伐へと参加していただきたいと思います」


 エリアボスの討伐。

 私にとって初めての経験だ。それはここにいる大多数にも同じことが言えるだろう。

 彼が、ずっとやってきていたこと。

 私が、やるべきこと。


「詳しい注意事項は、以前別のエリアボス討伐に参加したことのあるシュリさんから聞いてください。……シュリさん、お願いします」

「おう」


 壇上にいた私に代わって、シュリさんが壇上へと上がる。

 その説明には、チームワークや相手の予想される弱点についての話もあったが、なにより無茶をしないことを重要としていた。

 無茶。

 死なないこと。


「怪我や欠損は帰ったら治せる。けど、命は治せない! 絶対に無茶するな! 攻撃を受けたら、すぐ下がれ!」


 『愚者の盾』の面々も、真剣にそれを聞いている。レンくんの教えを受けていた精鋭の人たちだって変わらない。なにより、ここにいる人々は全員レンくんに救われた人たちだ。それを無駄にしようとはしないだろう。

 私を含めて。

 士気を上げてく人々とともに私も決意を固めていく。そんななか、ミンちゃんが私の傍までやってきた。


「ユウナちゃん、その……大丈夫?」


 小さな声で聞いてきたミンちゃんに頷いて返そうとしたが、ミンちゃんは続けた。


「総長さんには何も言ってないんでしょ?」


 兄さん。その名前が出てきたが、私は構わず頷いた。兄さんに言っても、私を心配するあまり邪魔をするだけだろう。

 私の返事に微妙そうな顔をしたミンちゃんだったが、やがて「よし」と言うと、


「ユウナちゃん、ボクと組んで行こうね!」

「ありがとう、ミンちゃん」


 友達の心配する言葉に嬉しくなりながら、私は再び頷いた。

 私の第一歩。

 レンくん、見ててくださいね。




 再び、相まみえるのも、そう遠くない。



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