歪な再会
久しぶりの更新。読んでいただければ幸いです。
五百の悪魔を倒し、洞窟を抜けたところで耳元でポーンとシステム音がなった。
徹夜明けのようなだるさを感じつつそれに意識を傾けると、ステータス画面が開く。その際、称号の欄が変更されていた。どうやらこれを知らせるためのシステム音だったらしい。
「『虚空の化身』……?」
それを読み上げつつ、なんとなく内容を確認すると、こんなことが書いてある。
一つ、虚空の化身はあらゆるプレイヤーの敵となる存在である。ただし、生命樹と味方となるわけでもない。
一つ、能力値に効果はない。
一つ、この称号解除には状態異常回復の処置が必要である。ただし、自力での解除は認められない。
なんて、こんなことが書いてあって。
「なんかやば――」
危機感を言い終わる前に、全身を包む漆黒のローブと幾何学模様の仮面が勝手に装着される。
「……」
試しに外そうとするも、無意味だったようで。
「……前途多難だぞ、おい」
俺はため息を吐いて空を仰いだ。
本当に前途多難だった。
昨日のことである。
俺は洞窟から出た後、まず感じる空腹感を解決しようと、アインへ戻った。
戻ろうとした。
しかし、待っていたのは、住民NPCの怯えた視線とプレイヤーの敵意だった。
「人型のモンスターだと……?」
「しかもコイツ、ランク表示がないぞ!」
「なに!? じゃあ、ユニークか!?」
アインの門を警護しているプレイヤーが、そんなことを言う。
ユニークモンスターは、再湧出しないモンスターのことを言い、その強さは押し並べて強いことが知られている。
それと、俺が間違われているのだ。
「待て! 俺はプレイヤーだ!」
俺が大きな声でなんとか自分のことを伝えようとするが、
「コイツ、なんか叫んでやがる!」
「威嚇しているのか!」
などと、どうやら伝わらないらしく。
どんどんと戦力を揃えていく門番の様子を見て、俺は逃走を余儀なくされるのだった。
そんなこんなで、俺が帰る場所は限られてくる。
自分の家、戦場の一軒家は使うことができた。
久しぶりに帰ってきた家に入って、気が抜ける。
「……とりあえず、寝るか」
問題の先延ばしであることは理解しつつも、俺は自室のベッドに倒れこんだ。
とは言いつつも、昔のどうでもいいことを思い出したせいか、深くは眠れない。起きて、どうしたものかと首を巡らせると、居住空間から続く工房へと視線が辿り着く。
「……なんか作るか」
俺は暇を潰せるかと思い、工房へと移動する。
特に目的もないので、趣味の刀を作ろうとして素材のロングソードを取り出した。炉に火を入れて、それを放り込む。
充分熱したと判断したところでロングソードを取り出して、同時にストレージからつなぎ石を取り出した。
「別の金属と階層構造にして……」
俺はこの1年で覚えた工程を辿り、《練成》を繰り返した。
この1年何度も繰り返した工程。
そのはずだった。
「……うん?」
手元の刀の様子がなにやらおかしい。
普段なら《練成》時の輝きこそあれ、普通の物質が生まれるはずである。出来上がった刀身に柄を合成して、出来上がった品をタップすることで性能を確認するのが常だ。
けれど目の前の刀は、うっすらと黒いオーラが漂っていて。
「……」
恐る恐る柄まで合成した後のそれをタップすると、こんなことが書いてあった。
『黒鴉』
その刃はどこまでも昏く、鋭い太刀。
天使の障壁を無効化。
俺はそれを見て、
「……天使に攻撃が効きにくいのは障壁のせいなのかね」
なんて的はずれなことを考えた。
その時。
『あれ、入口が、空いてる……?』
と声が聞こえてきた。
あどけないような懐かしいその声は、俺の親友のもので。
直後に聞こえてきたものも、知っているものだった。
『まさか……!』
生きていたかと安堵すると同時に、俺は焦りを感じていた。
◇◆◇◆
《生命樹》での前線と同じレベル帯のフィールドでの狩りの後、私、ミンちゃん、シュリさんはレンくんの家へと行くことにした。
「たまに掃除してあげないと、汚くなるしね~」
そう言うミンちゃんは少し寂しそうな顔をしていた。
データの世界であるここでは、掃除の必要性なんて無い。ただ、行きたいだけなのだ。楽しい思い出の場所に。
「アタシもついてっていいのか……?」
シュリさんは行ったことがないらしい。『愚者の盾』としてずっと活動していた彼女はすこし遠慮しているのだろう。
「大丈夫だよっ。ボクたちもう友達じゃんっ」
ミンちゃんが明るくそう言う。
私もそれに首肯した。
それならいいけど、とシュリさんも連れて戦場の一軒家へと向かう。かつては苦戦したこのフィールドも、今ではモンスターの方が私たちを避けるようになっていた。
やがて辿り着くと、ミンちゃんが扉に手をかける。それと同時にミンちゃんが首を傾げた。
「あれ、入口が、空いてる……?」
私はそれを聞いた時、目を見開いた。
「まさか……!」
レンくんが。
そう思うと、私はミンちゃんをも押しのけて中に転がり込んだ。見慣れた店内、そこには誰もいなかった。
がっかりする私は、しかし奥の工房で物音がするのを聞いた。
「ユウナちゃん!」
制止するミンちゃんを気にせず、私は工房へ続く戸を開く。
そこにいた人影に、迷わず声をかけた。
「レンくんっ!」
工房が明かりに照らされ、私の目に入ってきたその人影はしかし妙な格好をしていた。
全身を覆う黒い外套。顔を隠す幾何学模様のお面。
そして、その頭上に現れた、赤いゲージ。
それはモンスターを表す表示で。
「ユウナ、そいつから離れろ!」
追いついたシュリさんが拳を構え、その黒い人に突撃する。
その黒い人は、その攻撃を難なく躱すと、工房から逃げ出そうと駆けた。
「させないよっ!」
魔法を同時発動させたミンちゃんが風を纏い、ナイフの切れ味を上げて斬りかかった。
その対応に一瞬速度をゆるめた相手は、突如その場から消えた。
速度を急に上げたのか、と理解するより速く、相手は逃げ出してしまった。
慌てて店からでて周りを見渡すも、そこには何もなくて。
「何だったんだ、今のは」
シュリさんがそうつぶやくのを耳にしながら、
「……レン、くん」
どうしてか、私はそんなことを口からこぼしてしまった。




