運命か否か
余裕がなくて、短いまま更新しました。
陰気な廃墟群、鼻につく腐臭、目障りな視線。
もはや日常となったこれらを肌に感じながら、俺は住処に帰ろうとしていた。
国に見捨てられたこの地域では食料すら満足に得られない。周囲の視線の主がその日の糧を得るためになんでもする気でいる中、俺が必死でない理由は俺の活動にある。
「おい」
そんな声に俺は振り向く。そこには三人組の厳つい男どもがいた。
そいつらは俺が手にしている、少しの食料が詰まった袋を見ていた。
「それ置けや」
俺は素直に地面に袋を下ろした。
それにニヤリと笑うと、「長生きできるな」と男どもは嗤った。俺も愛想を返す。
三人ともがゆっくりと俺に近づき、止まり、足元の袋に手を出そうとした時、
俺は袋に手を伸ばした男の顔面に、膝を叩き込んだ。
「あ、がぁ……!」
「っ!? ヤロウっ!」
即座に迫る別の男の拳を受け止め、その肘に手を添え、逆方向に曲げる。
響き渡る苦しみの声を聞き流しながら、最後の男を見ると、
「わ、わかった……悪かった……俺ぁ帰るからよ……」
何やら開く口を抉るように殴った。その時に何本か歯が折れる。
すべてが終わって。
俺は瓦礫とともに地面に這いつくばる三人を見て、
「何か置けや」
そう言った。
もはや使い道のない通貨とわずかな飲み物というシケた戦利品を袋に入れ、俺は住処に足を踏み入れた。元は豪華であったであろうマンションの地下、作業員の休憩スペースのような場所である。マンション自体の部屋は、全て黒焦げだった。「火花」のせいである。
俺は外に気配がないことを確認してから、扉を開いた。
ここが異界になって五年。これからもこうして生きていくのだろうと当然のように思っていた。
しかし、ここで俺は大きな転換を迎えることになる。
住処に入った俺は、
八人ほどの未熟な幼児とも言えるガキどもと、十代後半であろう女と邂逅した。
目の前の事態に思考を一時停止させながらも俺が足を踏み入れると、ガキどもが「ひっ……!」と恐れた反応をした。構わず俺は足を進め、充分近づいた所で、拳を振り上げた。
そこで、年長の女が腕を広げて俺の前を塞いだ。
「なに、するつもりですか」
「邪魔だからどかす」
そして、振り上げた拳をそのまま叩きつけた。正面にいた女がそれを頬に受けた。俺の一撃は重く、女は倒れ、少し転がった。周りから恐怖に息を呑むのが聞こえる。
「いった……!」
「失せろ。次は殺す」
感情の乗る余地など無い、冷たい声で紡がれる言葉。
そこに、女が言った。
「あなたが柊一郎さんですか」
「だからどうした」
俺が次の拳を叩きつけようとした時に、女は俺を見据えて強く言った。
「『依頼があります』」
その言葉を聞いて、俺は拳を止めた。
「……誰から聞いた」
「及川鈴という名の初老の女性です」
俺は、ゆっくりと瞼を開閉すると、拳を下ろした。
「言ってみろ。聞いてやる」
それが、俺とその女――怜美の出会いだった。




