果たす役目
ボクは焦っていた。
「ミンちゃん? どうかしましたか?」
「早くレンを見つけないと……!」
「そうですね。……でも」
そう言って、ユウナちゃんは少し悩んだような顔をする。
ボクはその理由を察しつつも、確認のために問うた。
「でも?」
「レンくんは強いですから。私たちの助けは必要としていないのではないかと思って。きっと映像が途絶えたのは、バグかなんかです」
それを聞いて、やはりと思った。
レンは強い。おそらくプレイヤーの中でも最強クラスだろう。それもシステムスキル抜きで。
そう、システム抜きで。
だからこそ、ボクは心配だった。
「……」
レンの強さはプレイヤースキル、つまり現実から持ち込んだレン自身の力だ。おそらくレンは現実世界でもそれで生きてきたんだろうと思う。ボクには想像もできないが、レンは普通とは違った経験をしているだろう。それこそ、対人戦のような。
そして、この世界は現実ではない。
急所を突いたからといって、HPがあるために即死はありえないのだ。
「心臓突いたからって、油断してないといいけど……」
変わらずこちらを不思議そうな、それでいて早くレンを見つけたそうに焦っているユウナちゃんの姿を見て、ボクは急いで解決を図ろうとするのだった。
◇◆◇◆
その頃俺は、
「あれ……?」
荒くれ者どもに、見事に捕まっていた。
残り三人の得物を破壊するまでは良かったものの、仕切り直しとして間をとった瞬間、背後から腹にナイフを刺した女に斬られたのだ。
油断していたことを認識して身体を動かそうとするも、そのときには麻痺毒によって動きが封じられていた。
そして、生け捕りにされた俺は、現在護送中である。
「なぁ、どこに行くんだ……?」
「ユアン様に連れて来いと言われている」
「報酬は?」
「五千リル」
「安っ」
五千リルは、前線でモンスターを十体も狩れば手に入る金額である。
少しばかりショックを受けていると、暗い通路から一転して明るい場所へ出た。一体どこかと周りを見渡せば、そこははじめにオレンジが集まっていた広場であった。
そして目的地もここであるのか、俺を護送していた連中は足を止め、豚の丸焼きのように運ばれていた俺をそのまま地面に落とした。
「いてっ」
両手足が結ばれており、受け身をとれずに腰を打つ。俺はゴロゴロ転がった。
――十七人。見張りというより、戦力か。
転がりながら周りを伺い、推測する。広場には十七人の敵がおり、各々がそれなりの実力者であるようだった。
そして。
「あれ? 君、もう捕まったのですか?」
嗤い声。
そこにはモノトーンの男がいる。そのとなりには赤い女、メルファが控えている。きっとこの広場に他の色もいるのだろう。
俺は敵の陣地へと連れられ、そして、身動きの取れない状態とされている。
歯ぎしりしつつ、俺は呟いた。
「ユアンか」
そう言うと、ユアンは不思議そうな顔で俺を見た後、なぜだか失望したかのように肩をすくめた。
「君がこんなに早く捕まるなんて、予想外でした」
そう言って嗤う。
俺は心底こちらを馬鹿にしているそいつを見て、もう悔しそうな顔をするのはやめた。
そして、笑った。
「だって捕まってないし」
その言葉を聞いたユアンがバックステップしようとするより早く、俺のナイフが喉をかっさばこうと迫り――
ギィン!という音とともに、槍の穂先によって妨げられた。
「あらあらーユアン危ないわぁ?」
「助かりました、メルファさん」
失敗か。
俺は近くにいる敵が我に返る前に、
「――“グレイブバインド”」
錬成した魔法を放つ。足元の土が多くの槍となり、近くの者を串刺しにして動きを止めた。
しかし、予想通りユアンたちにそれは当たっていない。
直後、
「フレイムスピア~」
メルファの緩い声とともに、荒れ狂う炎に包まれた槍が突き出される。俺はあえて、それを寸前で避け、そのまま前に出た。肌が焼ける。しかし無視する。
そのままナイフを突き出すも、メルファに届く前にユアンがそれをナイフで弾く。
「おかしいですね。麻痺状態となっていますけど」
「知るか」
麻痺毒は、身体の動きを強烈な痛みによって妨げる状態異常だ。現に俺の身体には電流が走っているような激痛がある。
しかし、身体が動かせないわけではないのだ。
「無痛症患者は病院に行ってください?」
「おまえも精神病院行ってこいよ」
俺がナイフを振るう。
横薙ぎのそれをメルファが仰け反って避けたところを、俺はそのまま手を離して投擲に変える。ユアンがそれを弾く。
「……なんて男だ、二人がかりじゃないと闘えすらしない」
「二人ならなんとかなると思ってんのか?」
俺は心外だと言わんばかりに目を丸くすると、
「じゃ、やろうか」
ギアを一段上げた。
メルファが反応を示せないほどの速度で、ナイフが彼女の喉元に迫り、
「くっ」
ユアンがそれを弾く。
俺は笑った。
「あ、ぐ……!」
メルファの心臓に別のナイフが突き立っている。真似をして、麻痺毒を塗ったナイフがだ。
「……いったい何が」
「余所見の暇ないぞ?」
俺のナイフが、ユアンの腹部へと迫る。
「く……《葬刃》!」
「パクリは良くないな」
瞬間的にトップギアとなった斬撃が、俺のナイフを弾き飛ばす。それと同時に、俺はユアンの懐へ潜り込み、肘鉄を首に見舞う。そのまま裏拳を顔面に叩きこむ。
「ガ……ッ」
「レン式ラリアットストライクっ」
俺はラリアットを相手の首に続けて決めると、そのままユアンを地面にたたきつけた。
ここまで十数秒。ユアンは気絶状態、メルファは麻痺状態。周りには土槍に射抜かれた雑魚と、広場の離れた場所にいる他の“色”たち。
離れたところにいた敵がこちらの様子を知り、増援としてこちらへと向かってくる。
それと同時に、広場の正面入口が大きな音を立てて大人数が乗り込んでくる。
それを聞いて、俺はやっとかと思った。
「レンくん!」
「レンっ!」
何故か前線にいるユウナとミン。そして、攻略組の者たち。
これを以て、俺の仕事は終わった。




