オレンジ
アインから南。しばらく離れた場所にあるダンジョン『虚空の淵』。岩石でできた建物のようなそこは、平屋の王宮といった外観だった。
その入口には『虚空の淵』メンバーであるのだろう門番と、加入希望者が並んでいた。
周りから聞こえる話に耳を傾ければ、やはり加入希望者は保身を第一として『虚空の淵』の傘下に加わろうとしているようだ。
一列に並んだ人々が次第に中に入っていき、やがて俺の番がやってきた。
「名前、所属、得意なことは」
「ロイド。所属はねぇ……ただ、武器が作れればそれでいいってことよ、ひひ」
「ああ……オレンジか。分かった、これを持って入って右にいけ」
そう言われて整理券のようなものを受け取ると、俺は侵入を開始する。
ちなみにロイドと名乗ったのが俺である。この世界では自分から明かさない限り名前を知られる手段はない。結構な人数の加入希望者全員の名前を正確に確認することはしないだろう。
入るといきなり左右に道が分かれている。言われた通り右へと進むと、たどり着いたのは、酒場のような雰囲気の場所だった。
テキトーに置かれた木の机と椅子に荒くれ者たちが座り、酒を呑んで騒いでいる。
俺は中央に近い場所に座ろうと近づきつつ、腕輪を起動した。これを再び止めれば、攻略組の奴らが突入するはずだ。
とりあえず俺は、近くで集まっている男どもに声をかけた。
「おいあんたら、何の話してんだ?」
「あぁ? 誰だよ?」
「ロイドってんだ。ここに来れば好きなだけヤレるって聞いたんでなぁ」
「コロシか?」
「少しならヤクもあるぜ」
『虚空の淵』は掲示板で一般の加入を促進させるとともに、犯罪者共を集めているという話だった。犯罪者共をオレンジ、一般をグリーンと呼称している。一般はこのことを知らない。
俺が会話に加わると、面白いように男どもは自分の犯罪歴を語る。自慢をしているつもりなのだろう、やれここを破壊した、やれこんな女を犯したなどと言っては集団で耳障りな笑い声をあげていた。
この世界では、赤の他人には手を出せないよう、干渉は許可制となっている。つまり目の前の男どもの話が本当ならば、人の信頼を踏みにじったということになる。
よって犯罪者共は、赦されるべきものたちではなかった。
しかし俺はそれを顔に出すこともなく、その輪の中に溶け込んでいく。
ちなみに、そのとき作り話を語った俺が一番ウケを取った。
「そこでよ、俺はそこをつねって潰したわけよ」
「ギャハハハ、ロイド、おめぇとんだ鬼畜だなぁ!」
「あんたには負けるぜ?」
「いやいや充分キチガイだっての」
そう言ってスケルトンのような顔をした男と親睦を深めた所で、俺は近くで何も知らずに給仕をしていた女の尻を鷲掴みにした。
「きゃ!」
「……はぁ、やっぱ年増じゃ駄目だわ」
「わ、私はまだ十九ですっ」
「おいおいロイドぉ。おめぇ偉大すぎるだろ」
「六歳越えたらマジ年増ってあれ、マジだわ」
「ギャハハハ! 鬼畜なうえにロリコンかよぉ。大物だなロイドぉ?」
周りの違和感がないように振る舞いつつ、一目置かれて情報を引き出しやすいようにする。それが俺の与えられた役割である。
俺は少し興が乗っているのを感じつつ、懐かしい感覚に身を委ねたのだった。
◇◆◇◆
その頃、酒場の攻略組たちは、
「「「……」」」
絶句していた。
かなり長い間その場を満たした沈黙の中で、アルヴァがボソッと口を開く。
「……演技、だよね?」
周りはなんとも言えない空気となっている。
原因は目の前で流れる荒くれ者たちの映像と、それに馴染んだ様子のレンの声。そのあまりに違和感のない振る舞いは、遠くにいる攻略組たちにも効果があった。
「演技……だと、思う」
その場の全員が視線を向けた先には、現実世界からレンを知っているというミン。
ミンもまた、自信がなかった。現実世界でのレンのことを考えても、ありうることだと思っていたのだろうか。
そして、その隣。半年以上レンと共に過ごしたユウナは、一人、決意を固めていた。
「……更生、させないと」
周りの者たちはそれを笑い飛ばそうとして、失敗する。
そんな微妙な雰囲気のまま、その場の者は合図を待ち続けたのだった。




