会議
チリーン。
しばらくして、そんな音が鳴った。玄関のベルだ。
「はいはい、何の御用ですか」
仕事後のだるさ全開で、俺は客の応対に当たる。しかし、直後に絶句する。
「……ずいぶんとまぁ、お揃いで」
俺が呆けた声を出すと同時、客たちの先頭にいたミンが声を張り上げる。
「お揃いで、じゃないよっ! 緊急なんだよ? なにしてるのさっ!」
「レンくん。ここに戻るのは久しぶりですね」
懐かしそうに目を細めるユウナ。その美しさに感心しながら、俺はその後ろに目を向けた。
アルヴァにユン、マーロウ、カイム、イズミ、エンケといった俺のこの世界での知り合いを集めましたというようなそのメンツに、非常に暑苦しい。
俺のその感想に同感なのか、アルヴァが苦笑しながら用件を言った。
「『虚空の淵』に襲撃をかけるように決まったよ。作戦会議に参加して欲しいんだ」
「急だな」
「一刻を争うからね」
その言葉を聞くと、俺はニヤリと笑った。
「たんまり武器は作ってある。お代は攻略組で割り勘してもらうぜ?」
俺が作った武器を全員のアイテムストレージに分けて入れて、俺たちはアインへ戻る。街に被害というものはないが、やはり住民の不安が雰囲気として出てきてしまっていた。
「しかし、あれだけの時間でよくこれだけの武器ができたものだね」
「材料だけは馬鹿みたいにあったからな。エンケとの狩りでのドロップも全部使っちまった」
感心したように言うアルヴァに、俺は応える。
こいつらのように一品物の装備を使っているのならともかく、攻略組といえど武器はプレイヤーメイドの方が性能も良くなるだろう。
新しい武器ではまずいかとも思ったが、攻略組はゲーマー。一つの武器に固執することも無いだろうと考え、俺は大量に武器を作ったのだった。
少し静かになってしまった町並みを歩いて、俺たちは『解放軍』の本部へとたどり着く。周りの空気に感化されてなんとなく黙ったまま、俺たちは建物内の会議室へとその足を踏み入れたのだった。
「それでは皆、自由に座ってくれ」
アルヴァが着席を促す。大きな円卓と椅子だけのその空間で全員が着席したことを確認してから、アルヴァが口を開いた。
「僭越ながら僕、アルヴァが進行役をやらせてもらうよ。作戦会議を、始めよう」
そこからは、意見の飛び交う論議の場だ。
各攻略ユニオンの代表が、そのユニオンの総意としての意見を口にし、同調、反駁され、ある程度形になれば、アルヴァによって簡潔にまとめられていく。
その中でわかったことは、攻略組共通として『虚空の淵』をどれだけ被害少なく潰せるかということに主眼をおいていることである。
そして、情報公開の段階で、ユンが口を開く。
「『虚空の淵』の本拠地は、おそらくアインから南に離れた場所にあるダンジョン『虚空の淵』でしょう。ユニオン名もここからとったと推察されます。このダンジョンは、他の場所より《継承者の証》というアイテムを必要数揃えることで所有者となることが出来るらしく、おそらく『虚空の淵』のマスターはこの所有者ではないかと思われます」
ユンの説明は、つづいて犯罪者ユニオン『虚空の淵』についてに移る。
「総数は不明。しかし幹部は色で呼称されることが判明しており、現在確認されているのは『紅玉』、『蒼海』、『紫電』、『碧風』、『無彩』です。色に見合う属性の魔法を使用することが推測されます。そしてその枠にはまらない『無彩』がマスターであると考えられるでしょう」
以上です、と報告を終えるユンに続くようにして再び論議が行われそうになる所で、シュリが大声を上げた。
「オレたちからも報告だ。おまえら、掲示板を開いてみろ」
シュリの突然の指示に、少しもたつきながらも会議に出席している者たちはウィンドウを開き、そして驚愕する。
そこには炎上と言って差し支えないような、攻略組への誹謗が書かれている。
「《騎士》、《影》、《戦巫女》、《銀閃》という有名所が一人の女に苦戦している。そんなスクショを撮られ、掲示板にあげられている。攻略組の実力不足を謳い、『虚空の淵』は加入希望者を受け入れ、拡大している」
「し、しかし、あんな犯罪者ギルドになぜ人が……!」
理解できないといった声に、シュリは珍しく理性的に答えた。
「非攻略ユニオンとはいえ、奴らは今まで特に表立って迷惑行為を行なっていない無名の組織だ。大衆が知らないのも無理はない」
人々が恐れるのはプレイヤーキラー。そしてそれらは『解放軍』が管理する牢屋へ幽閉されている。
『虚空の淵』というユニオンは、いままで表舞台へ出てきたことはなかったのである。
「計画的な行動か……」
行動しやすくなるまで無名で通し、場を整え、壇上に上がる。攻略組に代わる、人々の心の支えとして。そして、大衆を、仮想世界の存続へ利用する。
アルヴァの呟きに、場が静まる。
彼は一つ決意すると、口を開いた。
「早急に対応しなければならない。作戦としては、何人かを加入希望者として潜入させ、情報を得、しかるのちに制圧行動ということになる。……誰か、やってくれる人はいないかな」
しん、と静まり返る。が、そこに元気よく挙げられた手があった。
「レンがいいと思いますっ!」
「おいぃぃっ!?」
声の主はミン。しかしそれは俺を推す推薦の声だった。
「……やってくれるのかい?」
アルヴァの尋ねに思い切り首を横に振ろうとして、
「よし、決まりだ。というか、レン一人でいいね」
「おかしくね? ねぇ、おかしくね?」
俺への無茶ぶりが、一つの流れになっている気がしないでもない。
そしてアルヴァの隣から向けられるユウナの尊敬の視線。逃げられない。
周りから向けられた明るい色の視線に逃げ場を潰されていき、
「……わかった。情報集めでいいな?」
そう言って、俺はその場から退出する。早く帰って自棄酒をしようと思っていた。リアナに慰めてもらおうと、酒場へ移動する。
俺は言葉ほどには悲観していなかった。
レンが出て行き、ユウナもそれを追っていった会議室で。
アルヴァたちは、
「ウィットに富んだ冗談のつもりだったんだけどな……」
と、自分たちが生み出した状況に追いつけず、
「……♪」
ミンは成功を疑っていない様子で鼻歌を歌っていた。




