かしましリユニオン
「それじゃ、とりあえず紹介するぞ? 俺の親友で攻略組やってる《銀閃》のミンと《戦巫女》のユウナだ」
はじめまして、とそれぞれ口にする二人に、怖ず怖ずといったように返事をする男ども。給仕の女性たちは気になっている様子ながらも既に仕事の方に戻っており、女将のリアナだけがこの状況を落ち着いて見ていた。
「お、御頭。そのお二人とはどういった縁で……?」
「まぁ、なんつーか……もともとミンとはリアルでの知り合いでな。ユウナとはミンを通じて知り合った感じだ」
俺が簡潔にそう言うと、「さすが御頭だぜ……」と男衆が頷いていた。それの意味は分からないが、俺は話を進めることにした。
「ところで、俺が抜けてた間は誰が指揮してた? シュリか?」
「はい。シュリの姐さん、今は南方支部に視察行ってます」
「……南方支部っていうのは?」
報告を遮るようにして口にしたユウナの疑問を聞くと、男衆は我先にと口を開いた。
「俺たち『愚者の盾』は、今はアインの東西南北四カ所に活動拠点を置いてるんです。本部は北にあるこの酒場で、シュリの姐さんは南の方にいらっしゃると、そういうことです」
「そうなんですか……ありがとうございます。その……?」
「イオルといいます」
「イオルさん。ありがとうございます」
綺麗な笑顔を見せるユウナ。それに照れた様子を見せたイオルは、他の男衆にその場を連れ出されると、ボコボコにされた。
「……ど、どうかしたんですか?」
「いえいえ、気にしないでください、ユウナの姐御」
「あ、あねご……」
「おい、ユウナは組の一員じゃねぇぞ?」
「そうなんスか? すいませんッ」
自然とユウナのことを姐御と呼ぶ男衆に、俺は釘を差しておく。『愚者の盾』では姐御やら旦那やらは同組織の者を指す言葉だ。
それを鑑みるに、男衆はなにやら勘違いをしているようだった。
そして、それに気づいたのは俺だけじゃない。
「ユウナちゃんっ。なんか『愚者の盾』の人たち、ユウナちゃんのことレンの彼女と思ってるみたいっ!」
「え、えぇっ!?」
「また余計なことを……」
面白そうに言うミン、驚きながらも顔を朱に染めるユウナ、嘆息してしまう俺。
そんないつも通りの役割を果たす俺達を見て、ようやく周りもわかってきたらしい。
「よかったー。リーダー、まだフリーなんですね?」
「今度私とデートしましょ!」
「俺はいいから、アイツらと行ってやれ」
「えー……だって無神経ですよーあの男たちは」
「んだとー! てめ、乳揉むぞ!」
「おまえ、胸好きだな……」
湧き上がる笑い。そこには男女の垣根など存在しない。
『解放軍』ではありえない光景だろう。しかし、俺はこの雰囲気が気に入っていた。半年ほど前にすべてをシュリに任せて出てきたが、やはり俺にはこの空気が合っているようだ。
「聞いてますよ。ユウナさんってものすごく強いんでしょ?」
「え、え、え?」
「攻略組の中でもトップって話だから、怖い人かなって思ってたんですけど……可愛いですね!」
「え、ちょ、抱きつ――!」
給仕の女の子たちは噂として有名なユウナのもとに絡みに行っている。ユウナの性格もあってか、どちらかと言うと気の強い集まりである彼女らに圧倒されているようだ。
そしてミンは早速いろんな人に話しかけて楽しく談笑しているようだ。そんな人懐っこいところは少し羨ましくもある。
俺は俺で久しぶりということもあって、『愚者の盾』で交流のあった者たちが話しかけてきていた。カウンターに腰を落ち着けて、話をする。
「お久しぶりです、御頭」
「お、キルム。AMは使いこなしたか?」
「一応、連続技まで作ってみました。後ほど見て頂けませんか?」
「おう、いいぞ。……ん、リナか? なんか少し美人に近づいたか?」
「う、うん……久しぶり、です」
「よしよし、身長も伸びたか……ってこの世界じゃそれはないか」
「うん……ふふ」
「頭領? うちの妹を口説き落とさないでください?」
「相変わらずシスコンだな、リアナ」
「あら、褒め言葉ありがとう。ところで今までどこへ行っていらしたの?」
「聞いて驚け……俺、今鍛冶師やってるんだ」
「刀鍛冶ですね?」
「……さすがにわかってるな」
多くの人と代わる代わる話していく。その誰もが、希望に満ちた明るい顔をして談笑している。
目の前で最近のことを話すこの者たちは、かつて生きる希望を失いかけていた者たちだと誰が信じるだろう。
「ほんと、元気そうでよかったよ」
俺は素直にそう思った。
そんな話をしていると、集まりの中からユウナがこちらにやってくる。しかし、何故か彼女は給仕の女性陣に背中を押されていた。
「……」
「? ユウナ、どうしたんだ?」
「ユウナさんはこちらのほうがいいかと思いまして!」
そう言うと『愚者の盾』女性陣はユウナを俺の隣の椅子へと押し込んだ。少し押されてたじろぐ俺に、その場の全員はニヤニヤと笑みを浮かべる。
そして張本人のユウナは顔を朱くして俯いている。
「なんなんだ、一体……」
「まったく、リーダーも隅に置けませんね~。このことをシュリさんが聞いたらどうなることやら……」
面白くてたまらないという表情で俺に言う『愚者の盾』の女の子たち。それに何度も頷いている男衆。
そんな空気の中、居心地が悪くなった俺はその視線から逃れるようにして視線を酒屋の入口の方へ向けた。
そこに立つ、一人の女。
俺は思わず目を瞠った。まだ他の者は気づいていない。その事実に、俺は嬉しく思うと同時に、苦笑を浮かべてしまう。その女の顔がすごく怒っているようだったのだ。
「? 御頭? どうかなさったんで――」
男衆の一人が俺の視線を追って、絶句する。
それを境に他の者も気づき始めたようだった。
そして入り口に立つ女を見て、
「シュリ、姐さん……」
そう呟いた。




