錬成鍛冶師の企み
進みが悪いような……?
ご意見をよろしければお願いします。
『解放軍』への出頭。
それはPK行為やその他犯罪行為に触れた犯罪者プレイヤーに対して行われる『解放軍』のもう一つの仕事である。民間のボディガード専門の『愚者の盾』に対して、『解放軍』は様々な仕事をしているのだ。
街中では犯罪行為はちょっとした窃盗などですら不可能な仕様となっている。しかし、フィールド上のセーフティエリアなどではその限りではなく、盗難などが行われているのも事実だ。
そこで、『解放軍』は現実世界での警察のような行動までしているのだった。
「……それで、理由は?」
「悪いな。俺らも知らねぇんだわ」
衝撃の依頼内容発表の後、俺はハーブティを全員分出して、三人と言葉を交わしていた。
カイムと名乗った曲刀遣いの男が人付き合いの良さそうな人格をしていたため、詳しい内容を聞かせてもらうこととなったが、驚いたことにその内容とは、
解放軍の長が俺に出頭要請を出している。
それだけである。
十中八九、『氷原』での出来事が原因だとは思われるのだが、あんなわけの分からない立ち回りで『解放軍』に入れなどと言われることもないはずだ。
それならどんな用件か。それは全く想像もつかなかった。
「戸惑ってるのは俺たちだって同じさ。今日の訓練に励もうとしていたら、いきなり武器職人レンを連れてこい、らしいぜ? しかも職人業に用があるわけでも無さそうだしよぉ」
「……レン自身に興味があるのでは?」
壁に背をもたれさせているくノ一、イズミ。先程から変わらないクールな口調と立ち姿が格好良い。
「それはイズミが?」
「……ふ、そうかもしれませんね」
先程から度々仕掛けている俺のおふざけにもクール。……これは本格的に気に入ってしまったかもしれない。俺はそのままイズミの方に話を振ってみた。
「その総長はなんて言ってたんだ? さすがに命令だけして終わりじゃないんだろ?」
大規模な『解放軍』をまとめている長は穏健派とも言うべき性格にもかかわらず、その戦闘面でも運営面でも卓越した手腕で、かなり信頼が厚いらしい。
攻略の際にも自らが第一線で命をかけて戦っているという、まさに指導者の鏡とも言うべき人物だそうだ。
そんな大人物が、一介の錬成鍛冶師に用があるとは思えない。
そんな俺の考えを理解しているようにイズミが頷くと、視線をある場所に留めて口を開く。
「『危険状態から全員を脱出させた人物。その実力を見なくてはなるまい。その上戦闘職ですら無いそうだな。大いに興味がある』と仰っていました」
「そっか……半額でどう?」
「……いいのですか? それでは買いましょう」
心なしか嬉しそうに、イズミが商品棚に並んだ小ぶりの忍刀を手にする。俺はそれを確認してトレード画面を開き、定価の半分で取引した。
イズミは自分のものとなったその忍刀を手にして情報を見ると感嘆の息を吐いた。
「『鴉羽』……業物ですね。貴方の作品ですか?」
「そうだよ。でも売れなくてさ……。やっぱパラメーターも低いからかな」
「そんなことはありません。忍刀の中ではかなりの上位です」
ありがとう、とくノ一らしくない弾んだ声でそう言ったイズミを見て、
「じゃあ結婚してくれ」
そう言うと、
「お友達で」
すげなく返された。
「おうおうおう? レンの兄ちゃん、イズミに惚れたのか? 顔も見せてくれないのに?」
「性格が気に入って。俺のどストライクだよ」
「まじかよ。コイツ色気も何もあったもんじゃ――ゲブゥッ!」
少し口を滑らせすぎたカイムが吹っ飛んで、店の壁に激突。破壊不能オブジェクトである空っぽの棚に当たったため、店に被害はないことに、俺は安堵する。
そんな俺の様子に「心配ぐらいしても……」とカイムが転がったまま呻く。
その様子を一瞥して、イズミは抜いていた『鴉羽』を鞘にしまっていた。店内はセーフティエリアのために、ダメージ判定はないのだ。
そしてイズミは一言。
「いい刀です」
「俺からの結婚指輪ということで」
「あまり言うと、ああなりますよ」
そう言って死屍累々の体のカイムを指すイズミに、俺は肩をすくめて口を閉じるのだった。
そうやって和気藹々とすっかり打ち解けていた俺たち。しかしそれを見て、額に青筋を立てている男がいた。
「そろそろ本部へついてこい」
マーロウである。
「ああ、そういえば花の蜜から作ったシロップを使ったパンケーキが……」
「諦めろ。いかに長く引き伸ばしたところで、総長の意向は変えられない」
「……そうかよ」
自分の企みが見透かされていることに落ち込みつつも、大人しく店を閉める準備をする。
カイムやイズミが「ん?」と突然殊勝になった俺を見て首を傾げていたが、何もおかしいことはない。
カランカラン。
「たっだいまーっ! 今日もいっぱい素材が……ってあれ? どなたですかー?」
「マーロウさん……それにカイムさんにイズミさん? どうしてここに……」
なぜなら、俺の企みはきちんと実を結んでいたのだから。
狩りから帰ってきたユウナとミンにも渋々と言った様子でマーロウが説明する。最初はただ驚いた様子で話を聞いていた二人だったが、話を聴き終わった後、ユウナは興奮した様子で俺を見た。
「すごいですっ! 総長の目に留まるなんて!」
「いや、それ言ったらおまえらだってそうだろ。てかおまえらの方が凄いんじゃないか」
ジト目で見る俺を黙殺、というよりもただ気にしていないように賞賛の言葉を口にし続けるユウナに、
「そんなに俺を見つめるなよ……本気にしちまうぞ?」
「ッッ!?」
顔を赤くして固まるユウナを確認して、俺はキメ顔を解く。隣で爆笑しているミンにチョップをかまし、黙らせる。そして静かになったところで顔を上げると。
「……軟派野郎」
イズミが引いていた。
それに俺は精神に深い傷を負う。それをカイムが馴れ馴れしく慰めているところで、
「行くぞ」
マーロウがそれまでの茶番を強制閉塞。俺たちは一転して真面目な顔をして店を出るのだった。
「……少し、離れてください」
「イズミっ!? 本当に引いてたのかっ!? 冗談だ! さっきまでの全部!」
「じょ、冗談だったなんて……」
「……え、なんでユウナががっかりしてんの?」
「ユウナを泣かせたら許さん。決闘だ」
「マーロウ、おまえそんなヤツじゃないだろっ?」
「レンの兄ちゃんよ。実際のところ誰が好みなんだ? 気になるだろ、お二人さん?」
「気になる気になるっ!」
「そ、その……気には、なりますけど……」
「な、なんなんだこの流れは――!」




