望まぬ訪問者
ついにストーリーが展開される…!
その日は唐突に訪れた。
カラン、と音を立てて開いた扉に、午睡直前の面倒くさそうな瞳を向けて俺は声を発した。
「いらっしゃいませー……」
もうそろそろミン特製の結界魔法石の出番のはずだが、来客なら仕方ない。俺は渋々応対の態度に出て、
「……」
「あ」
後悔した。
店奥につながるカウンターに座る俺の視界を埋めるようにして佇んでいたのは、先日俺もともに行った《氷龍》の時の男だった。
俺は十年来の親友にあったかの如き笑顔で、声をかけた。
「マーリン、だったか?」
「マーロウだ」
「すまん」
名前間違いは失礼だったので即座に謝る。それによって嫌味を言う機会を失ったのか口を噤むマーロウ。彼はそのまま店の内装をキョロキョロと見渡しながら、なお黙ったままでいた。
そしてようやく俺を向いての一言。
「ユウナはいないのか」
「今頃狩りでもしてんじゃないかな。ミンと一緒に洞窟に潜ってると思うぞ」
その言葉にそいつは眉をひそめると、一つのキーワードで疑問を表した。
「……ミン?」
「あーそっか。なんて言ったっけな……あ、そう《銀閃》だ」
必死に思い出した本人に似合わなさすぎる二つ名を思い出した俺。その偉業をマーロウは褒め称えるかと思いきや、黒目をさらに小さくして驚きを示していた。
「ユウナだけでなく、《銀閃》まで知り合いか……!」
「ま、リアルの方でな」
俺はそう言いつつ、視線をマーロウの後ろへと向けた。その先には、マーロウの後ろに控える二人の人物がいる。
一人はマーロウと同じ剣士。しかしこちらは曲刀遣いのようで、脇に差してある一振りのかなり大きめな曲刀が目を引く。長らく攻略組を相手に武器を売ってきた俺から見ても、マーロウに迫るような遣い手のようだった。身に着けている白銀の装備を見るに、こちらも『解放軍』の幹部クラスだろう。
そしてもう一人。その人物はかなり謎だった。
「……忍者?」
全身に纏っている黒装束。簡素で同色の手甲と脛当て。そして顔には装飾などはないが、道化を模した白面で顔を隠している、そんな人物だった。肉体的な特徴も何もなく、どんな人物なのかは外見から窺い知れない。
ついでにその人物は、俺の言葉に頷いている。
その姿形に違和感以外のものを読み取るのは難しいことだったが、そんな困惑の目にも反応することなく、その人物はその場で俺を見つめていた。どこかで見たことあると思えば、いつかの『氷原』での経験値上げの時にいた斥候職だった。ろくに姿を見せもしないで雑魚狩りを担当していた人物だった。
その姿に俺は、少し冗談を言ってみる。
「どうかしたか? 俺に惚れでもした?」
そう言って忍者装束の人物を見ると、その人は肩を持ち上げて驚いた様子を見せた。そしてそのままこちらを興味深そうに見る。
「……どうして私が女だと?」
喋った! 思わずツッコみたくなるのを抑え、俺はとっさに口を開く。
「なんとなく。伊達に武器屋やってないよ」
自分でもわけの分からない理由に内心ツッコミ。同じように思ったのか、そのくノ一もフッと笑って、俺への質問を取りやめた。
そこが話の区切りと見て、俺はマーロウに向かった。
「まぁ、何日かぶりだな」
「……そのようだな」
「……あー。大丈夫だったか?」
「問題ない。貴様が馬鹿をやらかさなかったからな」
「そっか」
俺はあえてその言葉を額面通りに受け止めた。そんな様子に再びマーロウが気分を害したような表情を向けて何か言おうとしたところで、
「マーロウ、今回は個人的な話で来たんじゃないぜ?」
そんな言葉に、むぐっと口を噤んだのだった。
諌めたのは後ろに控えていた曲刀遣い。燃えるような赤い髪に、同色の荒々しい印象を与える顎髭。年齢は二十半ばか。その男は顎髭をさすりつつ、こちらを見て笑顔を見せた。
「悪いけど兄ちゃん、ちょっと聞いてやってくんな」
そう言う口調はいい加減なようでもあり、友好的でもある。そんな言動に、結構面白い人かもしれない、と自分勝手にプロファイリング。
俺がひとしきり観察し終えるのを待っていたのか、マーロウは、俺が視線を戻した時に、その用件とやらを口にした。
「今回は依頼があって、来た」
「はぁ……で、どんな?」
『解放軍』のメンバーからの依頼というのはなかなかに珍しいことだったが、全くないことでもない。俺はとりあえず依頼書を書いてもらおうとまっさらな紙を取り出そうとしたのだが、それをマーロウが手で制する。
「え、でもこれないと俺要望に答えられないぞ?」
依頼への圧倒的な物忘れの激しさを暴露する俺の言葉に、後ろのくノ一がくすっと笑う。曲刀遣いもニヤリと唇の端で笑みを作っていたが、マーロウだけは相変わらず仏頂面のままだった。
「依頼というのは、武器のことではない」
「武器屋に対して、武器以外の依頼って……」
これはもしかしてアレだろうか。ただの便利屋としか思われていないのだろうか。
俺がそうやって少しばかり落ち込んでいると、後ろの二人が可笑しそうに笑うなかでマーロウは依頼の内容を口にする。
「依頼というのは」
「うん」
俺はどうせ面倒くさいことだろうとぼんやり聞いていたが、次の瞬間耳を疑った。
「『解放軍』本部への出頭だ」
「……え?」




