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EXクエスト

少し長めです



「出口はあちらですよ? それとも畑に沈んでくれるんですか?」

「おにいちゃんが畑に入ったら、作物も育たなくなっちゃうよっ!」

「……もうやだ……」

「あはは……」


 相変わらず辛辣過ぎる言葉をこの身に受け、俺は泣きそうになるのを堪える。先程から困ったように笑うだけのミンに俺は非難の目を向ける。


「多分おまえが飛びかかって来てからだぞ? こんなに態度が変わったのは」

「そう、だね……うん、ごめ――」

「人のせい、ですか……」

「みっともないねっ!」


 ミンの言葉を遮るようにして紡がれる毒に、俺は精神のライフが削られていく。思わず膝をついてしまうような状況の中、母娘は留まることを知らない。


「それでも盗賊の方が非道ですけどね。中途半端ですね」

「ちゅーとはんぱーっ」

「あー……確かに中途半端かも」


 ついにミンまで納得したような声を出すことに俺は地面にのの字を書きそうになる、が、何やら引っかかったことがあった。


「盗賊、ね……」


 その言葉が何かの鍵だったのか、俺のつぶやきを拾った母店員が俺の方を向くと、先程までの冷たい表情を引っ込めて、真面目な表情をした。

 ――そのとき。


「おらッ! 今日の分を回収しに来たぞ」


 突然入り口が乱暴に開け放たれたかと思えば、三人組の男たちが入ってくる。不清潔に伸びた頭髪や顎髭が、まるで山賊のような印象を抱かせる者たちだった。

 その三人組は俺達の方をちらっと見るも、すぐに視線を道具屋母娘の方へ意識を向けた。


「さっさと今日の分の徴収金出しな。それでこの店が助かるなら本望だろ」


 おそらくリーダーらしい真ん中にいた男が母店員の目の前まで行く。娘は怖がって母の足の後ろへ隠れた。言葉の内容からして、この男たちが例の盗賊か。どちらかと言えばヤクザのようなものらしい。


「……もう、やめてください。このままではお店を維持できませんっ」

「んじゃ、身体で払うか? そのほうが儲けはいいぞ?」


 母の必死の懇願を汚い笑いで返す盗賊たち。母は唇を噛み締め、口を開いた。


「もう、あなた達に払うお金はありませんっ。ここから出ていってください」

「あぁ? なんだと?」


 勇気からの意思表示によって一転、三人組の顔が険しくなる。そのまま脇にいた手下らしい一人の男が口を開いた。


「甘く見ておけばそんな口をききやがって……」


 そうして、母店員の胸ぐらをつかむ。娘は怯える。俺はミンがじっとしていることに違和感を感じながらも、その光景をじっと眺める。

 カウンター前まで来たその男は、そのまま下衆な笑みを浮かべて、舌なめずりをする。


「こうなったらこのままここで犯してやる」


 その言葉を聞いた途端、


「そのための身体が残ってたらいいな?」


 俺は腰に下がっていた『翠雨』を振り下ろしていた。ここは街中でダメージは入らないだろうが、予期せぬ斬撃を受けて前に出てきていた男は壁際まで吹っ飛ぶ。

 それにしばらく呆然としたものの、すぐに他の盗賊たちが俺の方を睨んできた。


「て、てめぇ……」

「腰骨でも砕いておけば、犯すなんて言えないかね?」


 挑発の言葉。それの返事として、俺の視界に一つのウィンドウが浮かび上がる。


【 圏内対戦を了承しますか? YES/NO 】


 俺はいつものように面倒臭がったりせず、その表示に迷わず了承する。それによって現れた盗賊たちのHPゲージ。

 これで、俺は街中でも死ねる状態となってしまった。それに盗賊たちが嗤う。


「男前だな。これなら男娼として売れるぞぉ?」


 この世界に男娼という末路も用意されているのかは甚だ疑問だが、どちらにしろ無事では済まなそうだ。そんな種類の恐怖を表情に浮かべて、俺は盗賊たちを見る。すると、そいつらは機嫌を害したかのような顔をした。


「なに笑ってやがるッ!」


 そう、俺は笑っていた。

 俺の笑う理由を問う目の前の男たちを可笑しそうに見て、俺は『翠雨』を握り直した。


「そりゃ、おまえたちも殺せるから、じゃないのか?」


 敵が身震いした。そう感じた時には、俺は飛び出していた。


「な――」

「終わりっと」


 そう言うと、俺は『翠雨』を鞘に収める。キンっと心地よい音を奏でた。

 そのときにはすでに、盗賊たちは用意されていたゲージを全損している。全身が切り裂かれているように衣服がずたずたになっている。

 しかしそこで盗賊たちはポリゴン片とはならずに、その場でガクガクと震えだした。そのまま俺の方を恐ろしいものでも見るような目で見る。


「お、おお、覚えてやがれッ」


 なんとかそうとだけ絞りだすと、盗賊たちは入口の場所まで後退りして、そして、

 ダダダダダッッ!

 慌ただしい音を立てて、道具屋から出ていった。

 それをぼんやりと見送って、俺は嘆息した。


「なんか疲れた……」

「あ、ありがとうございました」


 背後から掛けられたおずおずとした声に振り向くと、声の主はどうやら道具屋母娘のようだった。

 礼を無視するのも何だったのでとりあえず返事はしておくと、にこりと微笑まれる。


「お優しいのですね。私たら勘違いして……本当にごめんなさい」

 お、この流れは?

 以前の蛆を見るような目から一転して、恩人へとランクアップしたようなその様子に、俺はホッと安心する。

 そこで、俺は後ろを振り向いた。


「レンっ」

「ミンか。今までなにしてたんだ」


 さっきまで姿を消していたミンを見つけて俺は再三ほっとする。しかしその後に続いた言葉からして、ミンはどこかおかしいままだった。


「それがね、さっき急に身体が動かなくなって……そのまま意識だけが保って第三者的視点だったというか……」

「……金縛りか?」


 どうやらシステム的なものらしいと結論がついたが、謎である。二人して首を捻るが、どこか納得いかないような状態だった。


「……ん?」

「どしたの?」

「いや、なんか視界に出てきた」


 視界の上部を流れる青い文字列。脈絡なく流れたそれを意識して、ミンに聴かせるようにして読んだ。

 そこにはこんなことが。


「クエスト『かよわい母娘を救え』をクリアしました……?」

「え、もしかしてEXクエストっ!?」

「なんだそれ?」


 聞き覚えのない言葉に俺は首を傾げる。この世界に来てしばらく経ったためにそれなりの知識は付いていると思っていたが、どうやらまだまだらしい。

 そんな俺を、まったく、といった様子で見ながらミンはため息を吐いた。俺はたまらずデコピンしようとするが、躱される。どうやら学習はしているらしい。


「EXクエストっていうのはね、条件を満たさないと受注すらできないクエストのこと。クエストはやったことあるよね?」

「ああ、採取とかだろ?」

「うん。それのレアバージョンみたいなもののこと」


 なるほど。俺がそう理解すると同時、ミンも納得したように頷いた。

 詳しく聞いてみると、先ほどの金縛りの件らしい。


「EXクエストを受注してたのはレンだけみたいだったから、部外者のボクは余計なことをしないように制限がかかってたってことだと思う」

「なるほどな……まるで幽霊みたいになるわけだ」

「臨死体験だねっ!」

「それはどうなんだろうな……」


 珍しい体験に元気良く言うミンと、それに苦笑する俺。二人でしばらく笑い合うと、当初の目的を果たすことにした。


「それじゃ、会計をお願いします」

「わかりました。あ、私はイレーネと言います」

「あ、丁寧にどうも。俺はレンです」


 愛想よく対応してくれる母店員イレーネに、NPCであることも忘れ自己紹介をしてしまう。てっきり流されると思っていた言葉は、予想外の結果を生み出した。


「レンさん、ですね。お礼に少しだけお安くしますね」

「え、いいんですか?」

「はい。その代わりこれからもご贔屓くださいね」


 少しいたずらっぽく笑うイレーネさんに俺は少しときめいてしまった。すかさず俺の足を踏んでくるミンも気にならない。

 そこで反対の足に何かがくっつく感覚。

 見下ろしてみれば、娘のほうだった。


「おにいちゃん、ありがとうっ! わたし、エリンっていうの」

「どういたしまして、エリン。怪我はなかったか?」

「おにいちゃんかっこよかった! ねえねえ、おにいちゃんは剣士さんなの?」

「あれは魔法だよ」

「まほー?」


 首を傾げる幼子に和みつつ、俺は説明する。


「お兄ちゃんは一瞬ですごい魔法が発動できるんだ。すごいだろ?」

「すごいすごいー! みせてみせて!」

「ごめんね。一日に一回しか使えないんだ」

「えー!」


 短時間ですっかり娘店員エリンを手懐けた俺は、イレーネさんの温かい目にくすぐったい思いを感じながらも、エリンの頭をなでる。すると彼女は気持ちよさそうに目を細めた。まるで猫のような子だ。NPCとはとても思えなくなった。

 そのとき背後で、


「その魔法はボクが入れたんだけどなぁ……」


 とミンが一人呟いているのは、スルーさせてもらうことにした。









 すっかり友好的になった道具屋母娘に見送られて、店を後にする。どうやらクエストのクリア効果として、今後も少し割引が効くらしい。俺はほくほく顔である。


「……レン、通りすがりの女剣士が震えてたよ」


 どうやら、鋭すぎる三白眼にはネガティブにしか表れないらしい。少し落ち込む。

 そこでミンが俺の名前を呼ぶ。「うん?」と少し引きずった様子で答えると、ミンは言った。


「ホントに魔法で倒したのっ?」

「ああ、風の錬成した魔法な。じゃないとあんなに切り裂けるわけ無いだろ?」


 俺が笑いながら言うと、ミンはどこか納得のいかないような表情をして唸った。しかし十秒もすると、


「まぁいいやっ」


 と切り替わる。

 相変わらずの様子に俺は苦笑を堪えきれない。しかしミンの話は終わらなかった。


「それで、報酬は何だったのっ?」

「報酬? あの割引じゃないのか?」


 俺が不思議そうにそう言うと、ミンは呆れたように俺を見て言った。


「たしかにそれもだろうけど、アイテムかなんかがあるはずだよ?」


 そんな言葉に、俺はストレージを開いて新しいアイテムを確認する。すると、そこには「New」のタグが付いたものが一つ入っていた。

 ウィンドウを可視モードにして、ミンと二人で覗きこむ。

 そこには――



 『イレーネ、エリンの信頼』



「「アイテムっ!?」」

 続けて――



 『エリンの恋心』



「「なんでやねんっ!」」


 なんだか疲れてしまった俺とミンは、すこし近くの店で一服してから帰ることにしたのだった。




 後になって気になって調べてみると、先ほどの二つは貴重品アイテムとして扱われていた。


「「……」」


 なんだかな、とそう思った。





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