込めた想い
なんだか書く余裕が……が、がんばりますっ!
「あれ、俺の《錬成》なんだ」
「……はい?」
わかんないかー、と俺は、首を傾げたままのユウナに説明を開始した。
FOの《錬成》の概念は、ある一つのものを別のものに変えること。二つのものを一つの上位物質にしたり、一つのものを二つに下位変換したり、その使用方法は多岐にわたる。
そして、《錬成》の材料についての記述には「もの」としか書かれておらず、物質限定ではないのであった。つまり、魔法も《錬成》出来るのではないか。
「たぶん、俺しか気づいてないんじゃないかな。常識になってないみたいだしさ」
「つまり、あの魔法は魔法どうしの《錬成》によって生まれたもの?」
「そ。正確には広範囲烈風と範囲指定結界の魔法を足した」
それによって得られた効果は、『局所的に斬撃効果のある旋風を起こす』こと。
ユウナの絶句している姿に、俺はニヤリと笑ってみせた。
「そして重要なのが、《錬成》するものされたものは、例外なくアイテムとして扱われること」
「アイテムとして?」
「つまり、アイテムストレージに保管されるんだよ」
物質ではない魔法が、物質のようにアイテムストレージに保管される。
それは思いつきもしないことだろう。
俺もふざけ半分にやってできたことなので、全くの偶然だった。
「それで保管された魔法の項目を選んで……」
「事前に目標を補足して取り出すだけ、ですか」
「そうそう。詠唱もいらないし便利だろ? 効果時間は短いけどさ」
俺の自慢気な表情に、しかしユウナは呆れた表情を向けた。
「……ちなみにミンちゃんは大丈夫だったんですか?」
「あ、気づいたか」
俺が風系、炎系、雷系の魔法を《錬成》した後、奴はあまりの精神酷使にグロッキーになっていた。素材となる《魔法》を使うのは、ミンなのである。
ユウナが呆れの色を濃くする。それに俺は肩をすくめた。ユウナがため息をつく。
「……その魔法に頼ることがないように、頑張りましょう?」
「そうだな、それは思う」
「いざとなれば、私が守りますし……」
上目遣いにそう言った彼女を見つつ、「でも守られ続けるのも男としてなぁ」と苦笑。それと同時にユウナはがっくしと肩を落としていた。
「どうかしたか?」
「いえ、レンくんらしいなと思って」
そう言ってふぅ、と息をつくユウナを見て、俺はそっと目をそらすのだった。
「ってあれ?」
「どうかしましたか?」
俺の疑問を感じ取り、言葉に出すよう催促するユウナ。そんな彼女に俺は周りを見渡しながら言った。
「いや、いつのまにか一周していたみたいだ」
俺たちが回っていた大商店街はアインの中央、《生命樹》の周りに円を描くように存在している場所だ。そこをとりあえず回ろうと言って歩いていたのだが、いつのまにか回り終えていたらしい。そこには、踏み入れた場所と同じ景色が広がっていた。
そしてそれ相応の時間も経っていることに気づく。既に仮想の空は茜色に染まり、視界端の時計は五時過ぎを示していた。
「いつのまに……」
「楽しい時間は、過ぎるのが早いですね」
そんなことを言い合って、二人で大商店街を抜けた場所にある食品市場へと向かう。そこで最後に買い物をして、ユウナの家で飯を食う事になっていた。そのまえにミンに連絡しなくてはならないのだが、それはユウナが《コール》することになっている。……このブルジョワめっ。
俺たちは大商店街に背を向けた。
「ユウナ、ちょっといいか?」
しかし、俺はここでユウナを呼び止めた。
はい? と意味がわからないという表情で俺の方を向いた彼女に、俺はアイテムストレージからあるものを取り出して、渡す。
ユウナの手のひらに乗ったそれは、濡羽色のシュシュ。
「こ、これは……?」
「その、な……ミンがさ『デートなんだったら女の子になにか買わないといけないよ』って言ってたんだけど――」
「……っ!」
「別にデートじゃないけど、何か買うのはいいなと思ってさ。さっきのアクセサリーショップで買ってきた」
「……」
「俺からの日頃の感謝の印ってことで、受け取ってくれると、助かる」
不安に思って、顔を逸らしつつユウナを盗み見るようにしてしまう。彼女はシュシュを手のひらに乗せたまま俯いてしまっていて。
俺はたまらず口を開いた。
「い、嫌だったら別に捨てても――」
「……です」
「え?」
聞き逃して言葉を止める。ユウナは手に乗せられたそれを優しく両手に包みこみつつ、呟いた。
「……嬉しいです。大事にします」
「あ、ああ」
このとき俺がどもったのは、仕方がなかった。
それだけユウナの笑顔が美しかったのだ。
なんだか馬鹿みたいにぎこちなくなってしまった顔面筋を必死に操り、俺は「そろそろ行こう。ミンが腹空かせて待ってるはず」とユウナを促す。
ユウナが俺の促しに頷き、踵を返して大商店街に再び背を向ける。そのままその場を後にしようとした。
そのときだった。
――ピロピロ。
「……ん?」
視界を確認すると、メールが来ている。俺は確認するために立ち止まってから、それを開いた。
『明日の昼前から狩りに出る。アインの正門に集合してくれ』
「……そういえばそんなこともあったな」
「どうかしました?」
ユウナが不思議そうな表情で見上げてきたため、それに答えるために可視状態にしたメール本文を見せる。
すると、ユウナの目が丸くなった。
「《豪剣》のエンケさんですか。レンくん……またすごい人と知り合いですね」
「そんなにすごいのか?」
「はい。攻略組の代表格『解放軍』『鉄鷲』『フラッシュアーク』。そのうちの『鉄鷲』のユニオンマスターですよ」
「……まじか。あの人、自分たちのこと「パーティ」って言うもんだから、てっきり下っ端なのかと思ってた……」
「不敬罪で処罰かもしれませんね?」
「え、マジっ!?」
焦りそのままユウナの方を向くと、そこにはくすくすと口元に手を当てて笑う少女。「た、謀ったな……!」と言いながらがくっと肩を落とすと、少しいじけたような表情をしてみせた。
それにユウナはさらに笑う。その自然な笑顔を確認すると、俺はうん、と伸びをした。
「疲れました?」
「うん? あーまぁ、少しな」
心配要らないと言う意味で手をひらひらと振ると、理解してくれたのか、余分な言葉は言わずにいてくれる。
相変わらずいい子だ、と感心すると同時に、ふと気づいて俺はユウナに感謝を重ねた。
「それ、いきなり使ってくれてるんだな。ありがとう」
「い、いえっ。私にはもったいないくらい……大切にしますっ」
ユウナは慌てたようにその美しい黒髪を手で触れる。それを留めている濡れ羽色のシュシュ。それらは混ざり合って一つの神秘的な色合いとなっていて美しかった。
グッジョブ俺、と自画自賛しつつ、その姿で目の保養とする。効果は抜群で、精神的な疲れがほとんど感じられなくなったのは、本当に不思議な事だった。……ただ目を逸らしたいだけかもしれなかったが。
「……そ、それでは行きましょう」
「おう」
暑い日差しのせいか顔をほんのり赤く染めた彼女を見て、俺は意識せず聞いていた。
「ユウナ、さっきの狩りの件……一緒に行くか?」
俺のその一言にユウナはパッと嬉しそうな顔をする……が、その顔はすぐに曇った。
「明日は私の方も『解放軍』の経験値上げなんです……」
「あー……なら仕方ないな」
申し訳なさそうに謝る彼女に心配無用と告げ、この話は終わりとする。ユウナは意外と謝りたがりなのだ。
「んじゃ、行くか。ミンが玄関前で倒れてそうだ」
「そうですね」
まだ申し訳なさを引きずりながらも明るく笑うユウナの脇に立つと、
「お帰りはあちらですよ。お嬢様」
そう言って、帰り道を大げさな仕草で指し示す。
「あら、ご苦労さまです」
そこにユウナも乗っかり、互いに朗らかな笑い声を上げた後、先を歩くユウナに付いて行くようにして、俺はその場を後にしたのだった。




