↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラグノアの魔女 〜竜約の少女と果ての空〜  作者: inami。
第一章 アリステラの魔女達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/19

第9話 だってもう、私たちバディでしょ?

 

 次の瞬間、地面が一気に遠ざかった。

 

「わぁ……っ!」

 

 風が、全身を打つ。ディアナが一打ちで宙へ駆け上がり、箱庭の緑が、みるみる眼下へ落ちていく。ルーシェの胸は 高鳴っていた。果ての空。母の待つ場所。今、自分は確かにそこに近づいた。

 

「それで、どうやって二人を止めるの?話し合いでなんとかなりそう?」

 

 風に負けじと、ルーシェは前方の二頭へ目を凝らしながら問いかけた。争いながら飛ぶジェイリーンと、もう一頭。その姿は、まだ遠い。

 

《それは難しいな。特にジェイリーンみたいなタイプであれば、力を示すしかない》

 

 ディアナの声が、風の中でも涼やかに届く。

 

「うーん。何とも厳しい竜社会……」

《多少の怪我ならすぐ治るから、手荒になるのも仕方ない。 しかしこの先は……》

 

 ディアナの言葉が、途中で止まる。ルーシェも、前方の変化に気づいた。

 二頭の竜が向かう先——空気が揺らいでいる。熱気だ。陽炎立つような大気の歪み。そして、その源にあるものを見て、ルーシェは声を上げた。

 

「火山だ!」

 

 噴煙を上げる、箱庭の火山エリア。赤黒い岩肌と、立ち上る熱。争う二頭は、まさにその真上へと、もつれ込んでいくところだった。

 

《ジェイリーン……私が追ってくると分かっていて、ここを選んだな》

 

 ディアナの声が、わずかに硬くなった。氷の力を操るディアナにとって、灼熱の火山は不利な戦場。ジェイリーンは、それを承知で、この場所へ逃げ込んだのだ。

 熱気が、早くもルーシェの肌をじりじりと炙り始める。ディアナの鱗からも、冷たさが少しずつ奪われていくのが、跨る体に伝わってきた。

 

「ディアナ、大丈夫?」

 

 ルーシェは、思わず彼女の首筋に手を添えた。

 

《私は私の正義で動くだけだ》

 

 ディアナは、前を見据えたまま、静かに答えた。

 

《それでも、着いてくるか?》

 

 それは、最後の問いかけだった。これから飛び込むのは、ディアナにとって分の悪い戦い。竜同士の、容赦のない力のぶつかり合い。ルーシェ自身も、無事では済まないかもしれない。

 しかし、ルーシェは迷わなかった。

 

「もちろん!だってもう、私たちバディでしょ?」

 

 風の中で、はっきりと言い切る。ディアナの背に乗ると決めた時から、答えは決まっていた。

 

《それは——この後の結果次第だな》

 

 ディアナの声に、ほんのわずか、笑うような響きが混じった気がした。だが、確かめる間もなく、その身体が加速する。熱の渦巻く火山へと、白銀の竜は迷いなく突っ込んでいった。

 


 二頭の竜は、火山の火口を見下ろす岩場の上空で、なおも睨み合っていた。

 ルーシェを乗せたディアナが追いつくと、片方の竜が、嘲るように牙を剥いた。

 

《来やがったな、ディアナ!苦しいだろうよ、この火山は!》

 

 ジェイリーン。人間への拒絶を剥き出しにした、あの竜。灼熱を味方につけ、勝ち誇るような気配を放っている。

 対するもう一頭——ミラドーナを英雄視していた竜が、苛立たしげにルーシェ達へ向き直った。

 

《どうして水を差す!こいつはミラドーナも人間もバカにしている、箱庭に居ちゃいけないんだよ!》

 

 二頭は、ディアナが割って入ってもなお、互いへの敵意を収めない。痛みから始まった諍いは、もはや止めどない憎しみの応酬になっていた。

 

《どちらも頭を冷やせ。英雄譚は、我々の中に亀裂を起こす為にあるのではない》

 

 ディアナ自身もミラドーナの英雄譚に思うところがあるはずだった。それでも、その名のもとに竜たちが争うことを、彼女は良しとしない。

 だが、二頭の竜は、聞き入れなかった。

 

《面白れぇ!火山で頭を冷やすのは誰か、決めようじゃねぇか!》

 

 ジェイリーンが、爪を構える。

 

《結局あんたも、15年前を知らない子供って事だね》

 

 もう一頭が、吐き捨てる。その矛先は、ジェイリーンではなく、止めに入ったディアナに向けられていた。

 

「うえぇ!なんか、2対1になってますけどディアナさん!」

 

 ルーシェが、慌てて周囲を見回す。いつの間にか、二頭の竜の敵意が、こちらへ集まっている。仲裁に入ったディアナが、両方から狙われる格好になっていた。

 

《問題ない。君と私——こちらも、2人だ》

 

 ディアナは、動じなかった。翼を広げ、迎え撃つ構えを取る。

 

《来るぞ!》

 

 ディアナの声と同時に、二頭の竜が、左右から襲いかかってきた。

 灼熱の中、ディアナが身を翻して躱そうとした、その時だった。

 

 何の前触れもなく、二頭の竜の眼前に、極彩色の光がぱっと弾けた。

 

《なっ……!?》

 

 虚を突かれた二頭が、空中で動きを止める。その光の中から、軽やかな声が響いた。

 

「悲劇と喜劇の立役者、ミザリィ様の登場だー!」

 

 弾けるような名乗りと共に、一頭の竜が割り込んできた。あの夜、洞窟で見た竜。当然その背には——

 

「おまたせルーシェ……助けにきた」

 

 無口な少女が、静かに跨っていた。表情こそ変わらないが、その手は確かにミザリィの首に添えられている。

 

「フリルちゃん! それにその子も!」

 

 ルーシェが目を輝かせた。あの洞窟の竜が、今はフリルを背に乗せ、堂々と空を舞っている。二人は——いや、一人と一頭は、ついに正式なバディになっていたのだ。

 ルーシェには、その竜の声が、はっきりと聞こえた。賑やかで、自信に満ちた、楽しげな声が。

 

《ミザリィ、悪戯しか頭に無い君に助けられる日が来るなんて思わなかった。それに、人間と契約しているとは……》

 

 冷静なディアナも、流石に驚いているようだった。

 

「エンターテイナーのボクには、そろそろこの庭が狭く感じていたってワケだ。それに、その子はフリルの友達だからね」

 

 ミザリィは悪びれもせず、得意げに胸を反らした。狭い箱庭に飽き、新しい刺激として人間との契約を選んだ。いかにも、面白いこと好きのこの竜らしい理由だった。

 

《とにかく、感謝する。 ついてこいジェイリーン、君の相手は私だ!》

 

 ディアナが、ジェイリーンへと狙いを定め、翼を翻す。挑発を受けたジェイリーンがその後を追って、真っ直ぐに向かってくる。

 残されたフリルとミザリィはもう一頭の竜を見る。

 

「さてと、グローサ。キミの相手はボク達ってワケだけど、随分と怒っているみたいだね」

 

 ミザリィの賑やかな声音の裏に、戦いを前にした竜の鋭さが、ちらりと覗く。

 

《ミザリィ。折角人間と契約したんだ、変な事に首突っ込まず、とっとと帰りな》

 

 グローサが、低く唸る。だが、ミザリィは応じなかった。長い尾を、ぴんと立てる。

 

「ふぅむ。聞いての通りだフリル。ボク達の初舞台、準備はいいね?」

「いいよ」

 

 フリルが、短く頷く。それから、ぽつりと付け加えた。

 

「でも、私は他の竜が何を喋ってるか分からないから」

《悪戯好きの子供は、叱ってやらなきゃねぇ!》

 

 グローサが、空を蹴った。ミザリィとフリルが、それを迎え撃つように身構える。

 

 遠ざかるフリル達を、ルーシェは心配そうに見つめる。ルーシェ達は、既にジェイリーンを引き連れて火口の反対側へと駆けていた。

 

「ディアナ、フリルちゃんたちは……!」

《心配ない。あの2人なら、後れは取らないさ》

 

 ディアナは前を見据えたまま、言い切った。その声に迷いはない。ならば、自分たちは自分たちの相手に集中するだけ。ルーシェは前へ向き直り、杖をぎゅっと握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。