↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラグノアの魔女 〜竜約の少女と果ての空〜  作者: inami。
第一章 アリステラの魔女達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/19

第12話 望む結果は、望んだ者の前にしか訪れない

 夕暮れの箱庭に、一組の影が舞い降りた。

 

「いやー、ボクの幻に翻弄されるグローサときたら! 最後はどれがボクだか分からなくなって、地面に頭から突っ込んでさぁ!」

 ミザリィが、手を大袈裟に広げて戦いの一部始終を再現してみせる。その横で、フリルが小さく頷いた。

 

「うん。……ミザリィ、強かった」

「でしょでしょ!? もっと褒めていいよ! なんならボクの英雄譚として後世に語り継いでいいよ!」

「それは、また今度」

「えぇー」

 

 あっさりと断られ、ミザリィががくりと首を垂れる。フリルの手が、そっと角を撫でた。

 

「でも……ありがと。楽しかった」

「……ふふん。やっぱりフリルは分かってるねぇ」

 

 ミザリィの尾が、上機嫌に揺れた。騒がしい竜と、無口な少女。初舞台を終えた二人の間に流れる空気は、どこまでも軽やかだった。


 

 同じ夕暮れの空を、少し離れた場所で見上げる影があった。

 スカーレットは、箱庭の丘の上に一人立ち、茜色に染まる空を仰いでいた。つい先刻まで、あの空を、二組の魔女と竜が駆けていた。ルーシェとフリル。竜の背に乗り、風を切り、竜を相手取ったのは、昨日まで横に並んでいた同級生たちだった。

 そして自分は、その光景を、ただ地べたから見上げていた。

 

「アタシは、何であそこにいない……いや、二人が特別なのは分かってた筈だろ」

 

 ルーシェには、竜の声を聞く力がある。フリルには、既に関係を築いた竜がいた。頭では分かっている。あれは、今まで幾度となく見てきた差。役割を持って生まれて来た者の特権。

 

「でも、もしかしたら自分もそうなれるかもって、努力すれば近づけるかもって」

 

 口にした途端、弱音の湿り気が自分でも分かって、スカーレットは強く頭を振った。夕陽が、赤い髪を一層赤く照らす。

 

「ダメだ! 弱気になるなスカーレット。望む結果は、望んだ者の前にしか訪れない」

 

 幼い頃から、そうやって積み上げてきた。知識も、魔法も、全部。生まれ持った才の差を嘆く暇があるなら、その分だけ前へ進む。それが、スカーレットのやり方だ。

 暮れゆく空の下、眼下には広大な箱庭が広がっている。このどこかに、自分を待つ相棒も、きっといる。

 

「待ってろよ、ルーシェ、フリル。アタシは必ず追いついて見せるからな!」

 

 夕空に向かって放った宣言は、誰に聞かせるでもなく、しかし確かな熱を持って、茜色の彼方へと溶けていった。



 ————————◆————◇————◆————◇————◆————————


 

 翌日。ルーシェとディアナは、学長室に呼び出されていた。

 書架に囲まれた重厚な部屋の奥で、ライゼン学長が二人を迎える。

 

「よく来たね。ルーシェ君。そして——ディアナ君」

 

 学長は机の前まで歩み出ると、二人を見て、どこか懐かしむ様子を見せる。

 

「まずは開放日の騒動を収めてくれて感謝する。そして、その日のうちの契約。近年でも稀に見る、見事な門出だ」

「珍しいですか? やっぱり!」

 

 ルーシェが、身を乗り出す。

 

「うむ。初日の契約は、毎年一人居るかどうかといったところだ。それが今年は二人だ。アカデミーの歴史の中では初めてだよ」

「やった! でも、ディアナが待ってた私って、ちょっとズルじゃない?」

 

 はしゃぎかけて、ふと首を傾げるルーシェ。その隣で、ディアナが静かに首を振った。

 

「そんな事ないよ。君に素質が無ければ、こうはなっていない」

 

 待っていたのは事実だ。だが、あの空で共に戦い、相棒にと決めたのはディアナ自身だった。その言葉に、ルーシェの顔がほころぶ。

 学長がルーシェの目を見る。部屋の空気が、すっと引き締まった。

 

「ではルーシェ・アイオライト。アリステラ・アカデミー学長ライゼンの名のもとに、一つ星の位を授ける」

 

 差し出された小さな星章が、ルーシェの制服の胸元に留められた。窓から差す光を受けて、銀色の星がきらりと輝く。

 

「ほ、本当に私が魔女に……えへへ、やったよディアナ!」

「おめでとうルーシェ。だが、これでやっと私達はスタートラインに立ったんだ。大事なのはこれからだぞ」

「その通り。一つ星となった君が次の星を獲得する為に必要なのは、他の魔女とチームを組む事だ」

「チーム……ですか?」

 

 ルーシェが目を瞬かせると、学長はゆっくりと頷いた。

 

「2つ目以降の星獲得に必要なのは実績だ。基本的には、魔物の討伐を始めとした、日々各地から届く依頼をこなしていく事になる。複数人であれば、それだけ大きな依頼が受けられるという訳だ」

 

 学長の声が、わずかに低くなる。

 

「そして、我々が真に見据えるべきは竜人への対処。強力な竜人には、複数の魔女魔法使いによる連携が必須になる。そこで、学生の内からチームを組んで行動する事が推奨されている」

「なるほど。日々の問題対応の効率化と、有事の際の訓練を兼ねているのか。合理的だな」

 

 ディアナが顎に手を当てて頷く。契約したての竜が学長の説明を平然と分析する様に、ライゼンは面白そうに片眉を上げた。

 

「君達であれば、同じ一つ星だけでなく、更に上の星のチームからでも歓迎されるだろう」

「でも、そういうことなら私、決めました」

 

 ルーシェは、迷いなく言い切った。脳裏に浮かぶのは、赤い髪の友人の顔。

 

「友達が、すぐに一つ星になります。だからチームは、その時に組みます」

「ふむ。それも良いだろう。……先程、フリル君も同じような事を言っていたよ」

 

 学長の言葉に、ルーシェとディアナは思わず顔を見合わせた。あの無口な少女も、同じ答えを選んでいた。ルーシェの頬が、自然と緩んだ。

 

「では、ルーシェ君、ディアナ君。君達がこのアカデミーで、その先で何を成すか、楽しみにしているよ」

 

 話は終わり——そう告げる学長に、しかし、二人は動かなかった。

 昨日の雪原からずっと、胸の中で渦を巻いていた問いがある。二人は、目を見交わした。先に口を開いたのは、ディアナだった。

 

「学長、1つ質問が。学長は私の母、ミラドーナを知っていますね? 母が残した言葉は『ここでルーシェを待て』というものでした。知っている事があれば、教えてください」

「あの、私がアカデミーに入るよう手紙を送ってきたのは、学長ですよね?」

 

 ルーシェも続く。辺境の村に届いた、一通の入学案内。あれがなければ、自分はここにいない。

 

「私のお母さんも、魔女だったと聞いています。教えてください、お母さんの事」

 

 二対の視線を受け、学長はしばし目を閉じた。そして、白い髭の奥で、小さく息を吐く。

 

「ふむ、やはりこうなるのは必然か」

 

 その響きには、驚きよりも、覚悟を決めたような静けさがあった。

 

「よかろう。この話をするに相応しい場所がある。ついてきなさい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。