第37話 心拍数測定
【萌真視点】
「え、瑛……?」
私が不思議に思って名前を呼んだ瞬間。
瑛がガシッと私の両肩を掴み、そのままの勢いで私をベッドの上へと押し倒した。
「きゃっ!?」
ドサッ、と背中が柔らかいマットレスに沈み込む。
一瞬の出来事に、私の視界がぐるんと反転した。
見上げると、上から瑛のがっしりとした身体が覆い被さり、私の逃げ場を完全に塞いでいた。
「えっ、ちょ、瑛!?急に何……っ」
驚いて抗議しようとした私の声を遮るように、瑛はこれまで聞いたこともないような、抑揚の全くないロボットのようなトーンで口を開いた。
「……ワレワレハ、宇宙人ダ」
「…………は?」
「コノ体ヲ乗ッ取ッタ。地球人ノメス、萌真ヲ捕獲シタ。コレヨリ、人体実験ヲ開始スル」
ピッ、ピッ、と機械的な瞬きを繰り返しながら、瑛は恐ろしいほど真顔でそんな突拍子もない宣告を下したのだ。
「なっ……!ちょ、ちょっと待って!今までの幽霊縛りはどうしたのよ!?」
私は顔を真っ赤にしてパニックになりながら、シーツの上でジタバタと両足をバタつかせた。
「心中塚の若旦那とか、花魁とか、吸血鬼とか、心霊路線で攻めてたんじゃないの!?急にSF路線に設定変更とか、意味わかんない!何の実験する気よ!」
「……黙レ、地球人ノメス」
瑛は私のツッコミを完全に無視し、機械的な動作で私との距離をジリジリと詰めてきた。
「コレハ、地球人ノ愛情表現ニヨル心拍数ノ変化ヲ測定スル、重要ナ実験ダ」
「し、心拍数の測定……っ!?」
「ソウダ。オ前ノ心臓ノ鼓動ヲ、直接確認サセテモラウ」
瑛の顔が、私の顔のすぐ近くまで迫る。
至近距離で見つめ合う形になり、瑛の熱い吐息が私の頬をかすめた。無機質なフリをしているくせに、その瞳の奥には、私をからかって楽しんでいるような、隠しきれない意地悪なSっ気がメラメラと燃え上がっているのがわかる。
「ま、待って、瑛、ストップ!実験なんてしなくても、私の心拍数なら手首で測れば……ひゃあっ!」
私が言い終わるよりも早く、瑛の大きな手が、薄手のピンクのキャミソール越しに、私の胸元へとペタリと当てられたのだ。
「〜〜〜〜っっっ!!」
全身の血が一瞬にして沸騰し、顔から火が出るかと思った。
キャミソール一枚という薄着のせいで、瑛の手のひらの熱が直接肌に伝わってくるような感覚に陥る。
心臓が破裂しそうなほどの勢いで跳ね上がり、その激しい鼓動が、瑛の手のひらを伝って確実に向こうにバレてしまっている。
「……フム。地球人ノメスノ心拍数、異常ニ上昇シテイルナ」
「あ、当たり前でしょ!急にこんなことされたら、誰だって……っ!」
「モット詳細ナデータガ必要ダ。実験ヲ続行スル」
瑛は無機質なトーンを崩さないまま、胸に当てていた手を、ゆっくりと、そして意図的に動かし始めた。
柔らかい膨らみを確かめるように、親指と手のひらを使って、じんわりと、優しく揉んでくる。
「っ……あ、んぁっ……!」
口から、自分でも信じられないような甘い声が漏れた。
普段なら恥ずかしさで突き飛ばしているはずなのに、瑛の『宇宙人の実験』という冗談めかした設定のせいで、なぜか抵抗する力が抜けていく。
ゆっくりと、じっくりと揉まれるたびに、キャミソールの生地が擦れて、敏感な感覚が脳をダイレクトに揺さぶってくる。
「え、瑛ぇ……だ、だめぇ……っ」
「黙レ。コレハ実験ダ。オ前ハタダ、我ニデータヲ提供スレバイイ」
涙目で懇願する私を見下ろしながら、瑛の唇の端が、ニヤリと吊り上がった。
ドクン、ドクン、と。
自分の心臓の音が、耳の奥でうるさいくらいに鳴り響いているのがわかる。
瑛の大きな手が、薄手のキャミソール越しに私の胸をゆっくりと揉みしだく。その度に、布擦れの微かな音と、彼の手のひらの熱が直接伝わってきて、頭の芯がくらくらと揺れた。
(ど、どうしよう……これ、完全に最後までいっちゃうやつじゃないの!?)
頭の中では警報が鳴り響いているのに、私の身体は瑛の下で金縛りにあったように動かなかった。
冗談めかした『宇宙人の実験』という設定のせいだけじゃない。
心のどこかで――本当に心のずっと奥底で、私は、こうなることを少しだけ期待していたのかもしれない。
私たちは、ずっと幼馴染だった。
『うっそーんw』と言って照れ隠しの嘘をつき、彼をからかっては逃げ回る日々。それが私たちの当たり前で、心地よい関係だった。
でも、あの心中塚でのドタバタを経て、晴れて恋人同士になってから、私の中で瑛に対する感情は確実に変化していた。
かっこよくて、面倒見が良くて、でもたまに意地悪で独占欲が強い瑛。
彼に触れられると、どうしようもなく嬉しくて、胸の奥が甘く締め付けられる。いずれは、もっと深い関係になりたい。彼だけの特別になりたい。そう願う自分が、確かに存在していた。
(でも、こんな急展開……心の準備が……っ!)
私がぐるぐると葛藤している間にも、瑛の手は止まる気配がない。
それどころか、彼は私の胸元で遊ばせていた手を一旦離すと、今度は私の身体をベッドに押さえつけるようにして、顔を近づけてきた。
「……次ノ実験ニ移行スル。地球人ノメスノ、皮膚感覚ノ感度ヲ測定スル」
宇宙人の無機質なトーンを装いながらも、その声は微かに熱を帯び、かすれていた。
「えっ……?ちょ、次って……んぁっ!?」
私が聞き返すよりも早く、瑛の唇が、私の敏感な首筋へと落とされた。
チュッ、と微かな水音が鳴り、彼から漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「ひゃうっ……!え、瑛ぇ……っ」
ただのやさしいキスじゃない。
私の脈打つ首筋に唇を押し当てたまま、彼は小さく吸い付き、そして舌先で肌をなぞるように味わってきたのだ。
「あ、ぁ……っ、だめ、そこは……っ」
「黙レ。コレモ重要ナ、データ収集ダ……」




