↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/45

第12話 暗闇の墓ドン

「……おい、萌真?どうした?お腹でも痛いのか?」


 瑛が心配そうに覗き込んでくる。

 私はゆっくりと、まるで錆びついた機械のように首を持ち上げた。

 そして、できる限り低くてドスの効いた、肚《はら》の底から響くような声を出した。


「……ときにお前さん、ご機嫌はどうだい?」

「……はっ?なに、その喋り方」


 瑛が怪訝な顔をして、半歩後ろに下がる。

 私はさらに一歩踏み出し、完全に男の霊になりきったつもりで言葉を紡いだ。


「何って、いつも通りでぃ。そんなことより、オ、オイラはお前さんの事が!」


 私は勢いよく瑛の正面に立ち、両手を伸ばして彼の両腕をガシッと掴んだ。

 ドサッ。

 その瞬間、何か軽いものが地面に落ちる音がした。

 ……あ。

 両手で瑛の腕を掴んだ反動で、制服のポケットに入れていた『カンペ』のメモ用紙が、うっかりこぼれ落ちてしまったのだ。


「え?」

「ん?なんか落ちたぞ」


 瑛は私が腕を掴んでいるにもかかわらず、あっさりと私の手を振りほどき、足元に落ちた紙切れを拾い上げた。


「あ、ちょっと待って!それは見ないで!」

「なんだこれ。メモ?……えーっと、次は……『逃げ場はないぜ、オイラと恋仲になれ!』……って、言う予定だった?」


 瑛はスマホのライトでカンペを照らし、一字一句、超絶冷静な声で読み上げた。

 その目は、完全に「こいつ、またアホなことやってる」という冷ややかなものだった。


「……っっっ!!」


 極限の恥ずかしさ。

 全身の血が一瞬で沸騰したかのように、顔がカッと熱くなった。

 見られた。菜乃ちゃんに教えてもらった、恥ずかしすぎるセリフのカンペを、当の本人に冷静に音読された!

 無理。死ぬ。今すぐこの心中塚の地面に穴を掘って埋まりたい。


(逃げたい……!全力疾走で、この場から逃げ出したい!)


 バドミントン部で鍛え上げた瞬発力が、私の両足に逃走のサインを送る。

 そして、いつもの逃げ癖が顔を出し、私の口は勝手に動こうとした。


「う、うっ……」


 言いかけたその瞬間。

 私は両手で、バシンッと自分の口を必死に押さえた。

 ダメだ。

 ここで「うっそーんw」って言って逃げたら、また同じことの繰り返しになる。

 先日、瑛に背中を向けられた時の、あの冷たい拒絶。

 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 嘘に逃げないって、さっき誓ったばかりじゃないか!


「も、萌真?お前、大丈夫か?顔真っ赤だぞ」


 瑛が呆れ半分、心配半分で声をかけてくる。

 私は両手で口を押さえたまま、涙目で瑛を睨みつけた。

 そして、情緒が完全に崩壊していくのを感じながら、私は残された最後の手段に出た。


「逃がさ、ない……!」

「は?おい、お前――」


 私は瑛の胸ぐらを両手でガシッと掴み、強引に前へ押し込んだ。

 ドガンッ!

 瑛の背中が、すぐ後ろにあった古いお墓の石塔に勢いよくぶつかった。

 『墓ドン』だ。


「いっ!?ちょ、痛ぇ!お前、何すんだよ!バチ当たるぞ!」

「うるさーい!!」


 私は顔面を火が出るほど真っ赤にしながら、瑛の顔のすぐ近くまで顔を寄せた。

 もう、台本もカンペも関係ない。

 無理やり男口調で押し通すしかない!


「オ、オイラはな!お前さんにぞっこんだ!!」

「はあ!?」

「惚れ申した!!」

「だからなんなんだよその江戸っ子みたいな喋りは!?」


 瑛は完全にパニックになりながらも、的確なツッコミを入れてくる。

 でも、私は止まらない。

 恥ずかしくて、情けなくて、でも好きで好きでたまらなくて、目からポロポロと涙がこぼれ落ちてくる。


「っ、違うもん!オイラは悪霊だもん!お前さんが他の女にあーんされてるのを見て、悔しくて化けて出たんだもん!」

「悪霊が『だもん』って言うな!お前、完全に素に戻ってんじゃねぇか!」

「うるさい、うるさい!お前さんはオイラのものだ!逃げ場はないぜ、オイラと恋仲になれーっ!!」


 私は泣き叫びながら、カンペに書いてあった台詞を強引に叫んだ。

 真っ暗な心中塚で、墓ドンをしながら、幼馴染に号泣して迫るホラー。

 客観的に見たら、狂気の沙汰だ。

 でも、これが私の、嘘偽りのない「本気」だった。


「お願いだから……オイラを、一人にしないでよぉ……」


 最後は完全に男口調も崩れ去り、私は瑛の胸に額を押し付けて、ポロポロと泣きじゃくった。

 瑛は石塔に背中を預けたまま、呆然として固まっていた。

 私の不器用すぎるアプローチは、最悪の形で幕を開けてしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。