表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HIGH FIVE  作者: ねこたんめん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

夕暮れ色の涙

この作品には自死表現が含まれます。

苦手な方はお控えください。

  あの丈くんの字を見た瞬間、もうだめだった。

 どうしようもなく泣き叫びたくなった。

 堪らなくなって、皆を教室に置いて飛び出してきてしまった。

 走れば走るほど涙が溢れ出してくる。

 手で拭っても拭っても止まらない。

 こんな顔、皆に見せられない。


 何も考えずにがむしゃらに走っていたら、気付けばいつもの公園に来ていた。

 とりあえず落ち着かなきゃ。

 端のほうにある木陰のベンチへ腰掛ける。

 両手で顔を覆った。


 どうしてこんなに涙が出るんだろう。

 しゃくり上げながら泣いていると、

「いちこ……! ここにいたんだね」

 聞き慣れた声がした。

 顔を上げる。

 飲み物を二本持った響が立っていた。

「まだ全然暑いのにガンダッシュ決めちゃって!」

 息を切らしながら笑っている。

「水分補給しないと脱水症状で死んじゃうよ?」

 その言葉に思わず吹き出しそうになる。

 こんな時なのに。

 響らしいな。


「……ありがとう」

「なーんの、これしき!」

 響は私の隣へ腰掛けた。

 差し出されたのは紙パックのミルクティー。

 いつも私が飲んでいるやつだ。

 こういうところ、本当に優しいな。

 ちゃんと見ていてくれる。

 ストローを刺そうとして、ふと、さっき見た文字を思い出した。


 いちこ

 頑張り屋


 胸の奥がまた熱くなる。

 丈くんも。

 ちゃんと見ていてくれたんだ。

 私のこと。

 涙がまた溢れそうになった。

 慌てて顔を逸らす。

「皆を置いてきちゃって……」

 声が掠れた。

「片付けしなきゃいけないのに、ごめんね」

「大丈夫だって」

 響は炭酸水をゴクゴク飲む。

 そして、

「ぷはぁっ!」

 と盛大に息を吐いた。

 おじさんか。

 少しだけ笑ってしまう。

「ほとんど終わってたし。あとはあの二人に任せよう!」

 そう言って笑う響を見ていると、少しだけ心が軽くなる。


 響は綺麗だ。

 黒髪のロングヘアで背も高い。

 でも全然気取らない。

 誰にでも同じように接する。

 それに面白い。

 私みたいな引っ込み思案な子にも自然に話しかけてくれる。

 だから私は響が好きだ。

 友達として、本当に。


「急に夕陽に向かって走り出したからさぁ」

 響が肩をすくめる。

「青春ドラマでも始まるのかと思ったよ」

 そんなわけあるかい。

 思わず小さく笑う。

 でも、笑ったら。

 少しだけ気付いてしまった。

 ずっと見ないふりをしていたことに。

「丈くんさ」

「うん」

「私のこともちゃんと見ててくれたんだね」

 響は何も言わない。

 ただ聞いてくれる。


「なんか……嬉しくて」

 喉が詰まる。

「私、みんなみたいに上手く話せないし」

「うん」

「目立たないし」

「うん」

「だから、頑張らないとって思ってた」

 声が震え始める。

「でも」

 涙が落ちた。

「丈くんは見ててくれた」

 ぽたり。

 また一滴。

「頑張り屋って」

 視界が滲む。

「そんな風に思ってくれてたんだ」

 響は黙って聞いている。

 否定もしない、慰めもしない。

 ただ隣にいる。

 それがありがたかった。

 私はずっと苦しかった。

 丈くんがいなくなってから。

 苦しくて。

 寂しくて。

 どうしてこんなに苦しいんだろうって思ってた。

 みんな悲しいはずなのに。

 なんで私だけこんなに苦しいんだろうって。

 その答えが。

 今になって分かってしまった。

「あぁ……そっか」

 涙が止まらない。


「私」


 言葉にした瞬間、全部終わってしまう気がした。

 それでも。

 言わなきゃいけない気がした。


「丈くんのこと」

 息が震える。


「大好きだったみたいだ」


 堪えていたものが全部溢れた。

 顔を覆う。

 嗚咽が漏れる。

 もう止まらない。

 響がそっと肩を抱き寄せた。

「うん」

 震えた声だった。

「うん」

 響も泣いていた。

「辛いよなぁ」

 私は頷くことしかできなかった。

「私も辛い」

 丈くんは。

 いつもみんなの真ん中にいた。

 笑わせてくれた。

 明るくしてくれた。

 夕陽みたいな人だった。

 だから彼がいなくなった今。

 こんなにも世界が暗くなってしまった。

 夕陽を背にして笑う君が恋しい。

 もう会えないんだね。


 気付けば空は群青色へ変わり始めていた。

 オレンジ色だった景色が、少しずつ夜に飲み込まれていく。

 それでも私たちはベンチに座ったまま、子どもみたいに泣き続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ