橙色の残像
この作品には自死表現が含まれます。
苦手な方はお控えください。
丈の葬儀が終わって最初の月曜日、おれはいつもより三十分も早く目が覚めた。
なのに身体が重かった。
学校へ行く支度をしている間も、何かを忘れているような気がして落ち着かない。
玄関で靴を履いていると、マロンが近寄ってきた。
尻尾を振っている。
「行ってくる」
頭を撫でる。
「ワフッ!」
ハッ ハッと息をしながらマロンは玄関の外を見た。そして首を傾げた。
誰かを探しているみたいに。
胸が少し苦しくなった。
教室へ入る。
いつも通りの朝だった。
友達の話し声。
椅子を引く音。
誰かの笑い声。
何も変わっていない。
何も。
変わっていないはずなのに。
変わってしまった。
丈の席だけが空いていた。
思わず目を逸らす。
でもまた見てしまう。
誰も座っていない机。
誰もいない椅子。
当たり前だ。
だって丈は死んだんだから。
そう思った瞬間、頭のどこかが拒否した。
いや。
今日はたまたま休みなんじゃないか。
そんな馬鹿なことを考える。
『起きたら9時過ぎてちゃってた!まじ焦った〜』って、おどけて現れるんじゃないか。
「ガラッ」
教室の扉が開く。
反射的にそっちを見た。
違うクラスの生徒だった。
自分でも驚く。
今、おれ。
何を期待した?
HRが始まる。
木村先生が入ってくる。
先生の目の下には濃い隈ができていた。
「……みんな、おはよう」
いつもみたいな元気な声じゃない。
先生の視線が一瞬だけ丈の席へ向かう。
そしてすぐ逸れた。
みんな同じなんだと思った。
見てしまう。
でも見たくない。
そんな感じなんだ。
お昼休み。いつものメンバーで集まる。
四人だった。
誰もそのことを口にしない。
響が黙々と弁当を食べている。
大輝は雑誌を開いている。
いちこはほとんど箸が進んでいない。
静かだった。
今までこんな昼休みあったっけ。
「なぁ」
気付けば口を開いていた。
三人がこちらを見る。
「今日、公園行かない?」
沈黙。
誰も返事をしない。
行ってどうするんだ。
そう言いたい顔だった。
それでも。
「……行く」
最初に答えたのは響だった。
「私も」
いちこが小さく言う。
大輝はため息をついた。
「行かなかったら晃平、一人で行くだろ」
図星だった。
放課後。
四人でいつもの公園へ向かう。
夕陽が眩しい。
バスケットゴールが見える。
丈が最後にいた場所。
誰も喋らない。
風だけが吹いていた。
そして。
ゴールの下に転がる古いバスケットボールを見つける。
「あ……」
いちこが声を漏らした。
丈のだ。
みんな分かった。
ボールには見覚えがあった。
晃平はゆっくり近づく。
拾い上げる。
手に伝わるざらざらした感触。
その瞬間。
『なぁ、自分の人生に色が付けられるとしたら何色にする?』
丈の声が蘇った。喉の奥が詰まる。
聞けなかったな、結局。
オレンジの理由。
なあ、また笑いかけてくれよ、おれに。みんなに。
風が吹く。
誰も遊んでいないゴールが夕陽に染まっていた。




