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HIGH FIVE!  作者: ねこたんめん


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15/18

山吹色の予感

この作品には自死表現が含まれます。

苦手な方はお控えください。

 土曜日の夕方に差しかかるいつもの公園。

 キーホルダーを受け取ったあとも、誰もすぐには帰ろうとしなかった。


 ベンチに腰掛けたまま、四人はたこ焼きをつついていた。

 マロンは満足したのか、足元で丸くなっている。


「冷めたな」

 大輝が言う。

「いちこ来るの結構遅かったからな。珍しく」

「私!?」

 突然話を振られたいちこが目を丸くする。

「え、私そんな遅れてないよね?」

「十五分」と大輝。

「盛るな」と響。

「十四分五十九秒」とさらに返す大輝。

「ほぼ十五分じゃん」と晃平

「えーそもそも今までずっと話し込んでたからじゃん!」

 ぷーと頬を膨らますいちこ。

 四人が笑う。

 くだらない。

 でもその時間がやはり心地良い。

 どこか久しぶりだった。

 丈がいなくなってからも集まったことはあった。

 けれど、こうして何も考えずに笑えたのは初めてかもしれない。

 風が吹く。

 色付き始めた葉が一枚、ひらりと舞った。

 その時だった。

「そういえばさ」

 晃平が何気なく言った。

「響、バイオリンどうなったんだよ」

 響の動きが止まる。

 たこ焼きを咥えたまま固まった。

「あー」

 小さく唸る。

「それ訊く?」

「訊く」

「私も気になる」

 いちこも言った。

 大輝も視線を向ける。

 響はしばらく黙ったあと、一言だけ言った。


「辞めた」

 沈黙。

 風だけが吹く。

「え?」

 晃平が聞き返す。

「辞めた」

「マジで?」

「マジで」

 また沈黙。

 そして。

「だから最近めっちゃ暇」

 響はそう言って笑った。

 あまりにもあっさりしていた。

「暇って」

 晃平が呆れる。

「もっとこう……ないのかよ」

「何が」

「感傷とか」

「ない」

 即答だった。

「めちゃくちゃ怒られたし、めちゃくちゃ泣かれたけど」

 たこ焼きを口へ放り込む。

「でも辞めた」

 それだけだった。

 けれど、響の顔はどこかすっきりして見えた。

 無理に笑っているわけじゃない。

 本当に晴れやかな顔だった。

 それを見れば十分だった。

「すげぇな」

 晃平がぽつりと言う。

「何が?」

「いや、お前」

 響は少し首を傾げた。

 晃平はそれ以上言わなかった。

 でも。

 大輝には何となく分かった。

 晃平は褒めていた。

 自分で選んだことを。

 親と向き合うことから逃げなかったことを。

「まあ暇になったし」

 響が空を見上げる。

「何か始めたいんだよね〜」

「何かって?」

 いちこが聞く。

「分からん」

「適当すぎるー」

「でも何かやりたい」

 響は笑った。

「来年は高校最後の一年になるし」

 その言葉に。

 みんな少しだけ黙る。

 高校最後。

 言われてみればそうだった。

 あと数か月で三年生になる。

 卒業だって遠くない。

 時間は思ったより少ない。

「じゃあギターやる?」

 晃平が言った。

「は?」

「俺教えるぞ」

「いらない」

「即答!?」

「だって指痛そうだし」

「理由が小学生」

 いちこが吹き出す。

 響も笑った。

 マロンが目を覚まして顔を上げる。

「そういや」

 大輝が言った。

「晃平って結構弾けるんだっけ」

「まあ」

 晃平が少し照れたように頭を掻く。

「親父の影響で」

「そういえば晃平のギター、聴いたことないかも」

 響が興味深そうな顔をする。

「そりゃそうだ。見せたことないし」

「何で?」

「恥ずかしいから」

「晃平らしい」

 みんな笑った。

 晃平も苦笑する。

 そして。

 少しだけ間が空いたその時だった。

「丈くんさ」

 いちこがぽつりと言った。

 みんなが顔を上げる。

「歌好きだったよね」

 風が吹く。

 木々が揺れる。

「あー」

 晃平が笑った。

「好きだったな」

「カラオケ行くと毎回同じ曲歌ってた」

「WANDSの『世界が終るまでは…』だよね。『バスケ好きは皆好きだぜ』とか謎の持論言ってた」

 響も思い出したように笑う。

「しかも妙に気持ち入ってるんだよね」

「バンドのボーカルになりきってたなあいつ」

 大輝も小さく笑った。

 あいつらしい、本当に。

「久しぶりに聞きたくなったな」

 誰ともなく呟く。

 その言葉にみんな少しだけ黙った。

 もう聞けない。

 それは分かっている。

 痛いほど分かっているけれど。

 聞きたかった。

「……俺」

 晃平がぽつりと言う。

 みんなが顔を向ける。

「ギターなら弾けるかも」

「何が?」

 響が聞く。

 晃平は少しだけ肩をすくめた。

「ジョーが好きだった曲」

「.....あいつ喜びそうだな」

 大輝が小さく笑った。

「うん」

 いちこが頷く。

「絶対調子乗る」

 響が言う。

「『やっぱ俺の選曲センス最高だろ』とか言いそう」

 晃平が真似をする。

 四人が少しだけ笑う。


 風が吹く。

 山吹色の日差しがベンチへ降り注ぐ。

 誰も何も言わなかった。

 けれど、その沈黙は不思議と嫌じゃなかった。

 何かが始まる前の静けさ。

 そんな気がした。

 マロンが大きく伸びをして立ち上がる。

 そして四人の周りを楽しそうに走り始めた。

 秋の空は高かった。


 まだ誰も知らない。

 この何気ない午後が半年後の夏へ続いていくことを。

 丈が残したものがこれから少しずつ形になっていくことを。

 ただ。

 その日、公園には確かに小さな種が蒔かれていた。

 山吹色の光の中で。


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