表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転がる石は回り続ける  作者: 古木花園


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

惨劇の協奏曲


 最初に悲鳴を上げたのは、リーダー格の男だった。

彼が「おい、ふざけんな!」と虚空に向かって拳を突き上げた瞬間、その腕が不自然な角度でねじ切れた。いや、切り落とされたのだ。目に見えない鋭利な刃物のようなもので。

鮮血が病院の床に飛び散り、錆びた診察台を赤く染める。


「な、なんだよこれッ!!」


暴走族たちがパニックに陥る。彼らが乗ってきたバイクが次々と倒れ、ヘッドライトが明滅する。暗闇の中で、白衣を着た何十もの影、かつての犠牲者たちが、ゆっくりと、しかし確実に彼らを追い詰めていく。

彼らの手には、メスや点滴の針、硬く固まった薬液の塊。それらが凶器となって暴走族たちの肉を切り裂き、骨を砕いていく。


「おい、逃げろ!!」


誰かが叫び、出口へ駆け出そうとする。だが、病院の入り口はどこにも見当たらない。彼らが追いかけてきた廊下は、いつの間にか無限に続く手術室の通路へと変貌していた。

健太郎は、その中心に立っていた。

スマホの画面には、暴走族の絶叫、血飛沫、そして無数の白い影が混ざり合い、芸術的なまでのカオスが映し出されている。

コメント欄はもはや文字の洪水を通り越し、記号の羅列と化していた。

『うおおおお! 神回だ!』

『嘘だろ、マジで殺されてるじゃん……』

『もっと見せろ! 健太郎、近づけ!』

視聴者数は一万を超えた。

健太郎のイヤホンから、長嶋の興奮した声が割れて聞こえてくる。


「最高だ、健太郎! そのまま撮れ! あいつの絶望する顔をアップにしろ!……お前、才能あるぜ! 人生で一番輝いてるぞ!」


割れすぎて半分も聞き取れず無視する。

健太郎は自然とカメラを向けた。

目の前では、さっきまで威勢よく笑っていた若者が、壁に釘付けにされていた。点滴のチューブが血管に無理やり差し込まれ、どす黒い何かが体内に流し込まれている。男は痙攣し、目を剥き、声にならない悲鳴を上げている。

それは健太郎にとって、ただの「素材」だった。

恐怖を感じる暇さえなかった。彼にとっての音楽は、悲鳴と血の音、そしてスマホから流れる視聴者の罵声と歓声だけだった。

暴走族たちは全滅した。

肉片と、かつて人間だった残骸が、病院の床を埋め尽くす。

ふと、沈黙が訪れた。

ただ、点滴がポタポタと床を打つ音だけが、不気味なリズムを刻んでいる。

健太郎は、カメラを自分に向けた。

顔には血しぶきが飛んでいる。だが、その瞳には何の感情も宿っていない。ただ、ひたすらに、機械のように。


「……終わったぞ」

何故か健太郎だけが無事だった。

健太郎が呟くと、配信画面に「投げ銭」の通知が雪崩のように流れ込んだ。

数百万の金が、数秒の間に積み上がる。

それを見た瞬間、健太郎の中で何かが弾けた。

これが、アスカの笑顔に変わる。そう思うと、彼は死体の山の中で、満足げに口角を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ