惨劇の協奏曲
最初に悲鳴を上げたのは、リーダー格の男だった。
彼が「おい、ふざけんな!」と虚空に向かって拳を突き上げた瞬間、その腕が不自然な角度でねじ切れた。いや、切り落とされたのだ。目に見えない鋭利な刃物のようなもので。
鮮血が病院の床に飛び散り、錆びた診察台を赤く染める。
「な、なんだよこれッ!!」
暴走族たちがパニックに陥る。彼らが乗ってきたバイクが次々と倒れ、ヘッドライトが明滅する。暗闇の中で、白衣を着た何十もの影、かつての犠牲者たちが、ゆっくりと、しかし確実に彼らを追い詰めていく。
彼らの手には、メスや点滴の針、硬く固まった薬液の塊。それらが凶器となって暴走族たちの肉を切り裂き、骨を砕いていく。
「おい、逃げろ!!」
誰かが叫び、出口へ駆け出そうとする。だが、病院の入り口はどこにも見当たらない。彼らが追いかけてきた廊下は、いつの間にか無限に続く手術室の通路へと変貌していた。
健太郎は、その中心に立っていた。
スマホの画面には、暴走族の絶叫、血飛沫、そして無数の白い影が混ざり合い、芸術的なまでのカオスが映し出されている。
コメント欄はもはや文字の洪水を通り越し、記号の羅列と化していた。
『うおおおお! 神回だ!』
『嘘だろ、マジで殺されてるじゃん……』
『もっと見せろ! 健太郎、近づけ!』
視聴者数は一万を超えた。
健太郎のイヤホンから、長嶋の興奮した声が割れて聞こえてくる。
「最高だ、健太郎! そのまま撮れ! あいつの絶望する顔をアップにしろ!……お前、才能あるぜ! 人生で一番輝いてるぞ!」
割れすぎて半分も聞き取れず無視する。
健太郎は自然とカメラを向けた。
目の前では、さっきまで威勢よく笑っていた若者が、壁に釘付けにされていた。点滴のチューブが血管に無理やり差し込まれ、どす黒い何かが体内に流し込まれている。男は痙攣し、目を剥き、声にならない悲鳴を上げている。
それは健太郎にとって、ただの「素材」だった。
恐怖を感じる暇さえなかった。彼にとっての音楽は、悲鳴と血の音、そしてスマホから流れる視聴者の罵声と歓声だけだった。
暴走族たちは全滅した。
肉片と、かつて人間だった残骸が、病院の床を埋め尽くす。
ふと、沈黙が訪れた。
ただ、点滴がポタポタと床を打つ音だけが、不気味なリズムを刻んでいる。
健太郎は、カメラを自分に向けた。
顔には血しぶきが飛んでいる。だが、その瞳には何の感情も宿っていない。ただ、ひたすらに、機械のように。
「……終わったぞ」
何故か健太郎だけが無事だった。
健太郎が呟くと、配信画面に「投げ銭」の通知が雪崩のように流れ込んだ。
数百万の金が、数秒の間に積み上がる。
それを見た瞬間、健太郎の中で何かが弾けた。
これが、アスカの笑顔に変わる。そう思うと、彼は死体の山の中で、満足げに口角を上げた。




