2023年 8月某日 厄介
2023年 8月某日編(1/4)
連続エピソードになります
今はまだ小さな違和感が、徐々に大きな厄災になる。
黒い水を巻き込みながら、それはゆっくりと大きくなり始めていた。
ジメジメっとした真夏の雨を感じながら通勤の車を走らせる。
俺の家は支部に近いため通勤手当は出ない。その代わり駐車場申請さえすれば、車でも自転車でも徒歩でもどんな通勤も許されていた。
今日はあいにくの雨、そんなときは無理してカッパなんて着ずに、車で通勤している。
渋滞する道なので、自転車通勤の日よりも早く出ないといけないのが少し面倒だが、気分で通勤スタイルを変えられるのはありがたかった。
「おはよう宮部。今日は車通勤なんだな!」
「おはようございます。七尾さん。」
後ろから声を掛けてきたのは、同じ班の七尾 和希。三十路を目前に控え、おじさん自虐が最近止まらないが、班のムードメーカー的な明るさを持つ先輩だ。
「カッパ着て自転車漕ぐ若さは高校に置いてきました。」
「んだよ、また三十路いじりか!」
「まだいじってないですよ。まだ。」
「あー!宮部が俺のことイジメようとしてる!班長に言ってやるー」
「いいですよ。どうせ相手にしてもらえないっすから。」
「最近ツッコミのキレ凄くなってないか宮部……」
「お盆休みに、関西人と九州に行って来たからっすかね?」
「あー!応援に来てくれた宮部の相方!」
「違います。」
どうにか軽快な会話をして、どうしようもない蒸し暑さを頭から排除しようと、七尾と会話を楽しみながら更衣室へ向かった。
着替えてミーティングルームへ向かうと、班長の村越と副班長の阿部が話し合っていた。
あいさつをしてから部屋に入ると、嫌でも2人の会話が耳に入ってくる。
「バキュームも持っていくべきじゃないか?」
「そうだな……まだ詳しい状況が分かっていない以上、持っていくか……」
2人の会話から、今日は朝から出動することが分かった。
雨だからトレーニングならエアコンの効いた室内でできたのに……
今日はついていない。
始業時間になり、村越が全員を見渡してから話し始めた。
「おはよう。今日は朝から出動になる。詳しい状況はこの後の出動ミーティングで話されると思うが、事前に分かっていることだけ伝えておく。」
そう言って村越は手元の紙に視線を落とした。
「出動先は市内S区A地域の河川敷だ。昨日より頻発している竜巻が、エニグマによるものとの調査結果が出た。通常風は木属性とされているが、原因によっては他の属性の可能性もある厄介なエニグマだ。こちらもコアの形状の予測がしづらく、出動時の装備を決めかねている状況だ。現在、先発班がコアの形状も含め調査中なので、報告が来次第、こちらも対策を考えてから積み込みを行う。」
視線を班員へ戻した村越は、阿部とアイコンタクトを取った。
「俺と阿部は、これまでの風関係のエニグマのコアの傾向を資料を見ながら話し合う。他のみんなは、ウォーミングアップをして出動に備えていてくれ。指示出しは柚木に一任する。」
「はい。」
村越・阿部に次いで年長の柚木 愛が、村越の言葉に返事をする。
「柚木、体育館は取ってあるからよろしく。みんな、出動は昼くらいを予定している。気を引き締めておくように。」
「「「はい。」」」
ミーティングが終わり、体育館へと移動を開始した。
「宮部さん。風のエニグマってそんなに厄介なんですか?」
今年から入った新人の高木が恐る恐る俺に聞いてきた。
「んー、コアが分かりにくいってことと、単純な風じゃなくて実は火属性の熱風でできた竜巻だったとか、他の属性にも左右されやすいんだよね。だから見つけて直ぐ出動がし辛いエニグマだよ。めったに発生しないけどね。」
「俺、入隊してから数年に1回が2回あったし、もう先輩方の“数年に1度”と“めったに”は信じられないですよ……」
「ホント、高木に対してはソレなんだよな……」
あからさまにため息をつく後輩の肩を叩き、軽く励ました。
体育館では、ストレッチから開始されたウォーミングアップをしながら、みんなエニグマに対する予想を話し合っていた。
火事が起こるからと言って出動したら水のエニグマと対峙する事になったこともあった、予想からはみ出るエニグマも多いのだ。
話しながらも、こうしている間にも被害が出るかもしれないという緊張感が、付きまとっていた。
体育館の窓越しに先発班が帰ってきたのが見えた。
出動が近い――ほのかな緊張が体の奥を震わせた。
次回は 4月 22日 (水) 21時更新です。
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書いてて新人の高木に申し訳ないなと思ってる。
がんばれ!色んな所の新人たち!!
次回もお楽しみに!




