第18話:雫の決意と、復讐の「最終法則」
極秘魔力炉心。九条刹那の身体は、影山特務部部長の『対時間魔術兵器』から放出された、強烈な魔力の逆流によって痙攣していた。彼の『時間逆転』は、兵器の防衛機構によって魔力暴走へと変換され、魔力回路が焼け焦げる激痛が全身を襲う。
「ふははは!無駄だよ、刹那!私の兵器は、君の能力を破壊するために、二年かけて設計されたものだ!君の復讐は、私の『予測』の中で終わる!」
影山は、狂気的な高笑いを上げた。
刹那は、意識が途切れそうになる中、かすかに声を聞いた。 「刹那くん!」
炎と風の複合魔術で影山の部下を圧倒していた霧島冴子が、刹那の窮地を見て、駆け寄ろうとした。しかし、影山の部下がそれを阻止する。
その時、奥の通路から、一之瀬雫が現れた。彼女は冴子の隠れ家にいるはずだった。
「雫!なぜここに……!」
冴子が驚愕の声を上げた。
雫は、その瞳に一切の迷いをなくし、静かに頷いた。
「ごめんなさい、冴子さん。私、刹那くんを一人にさせたくなかった。私を狙っているなら、私がここに来るしかないと思ったから」
雫は、影山に向けて、両手を差し出した。彼女の身体から、眩いばかりの緑色の光が溢れ出す。
「影山さん。あなたの言う通り、私の『回復魔術』は、あなたの兵器のバッテリーになるかもしれません。でも、私は、その力で人を救うことしかできない!」
「――『究極治癒』!」
雫は、自らの魔力全てを、周囲の空間に放出した。その回復魔術の波動は、まず魔力暴走を起こしている刹那の身体へと向かう。
「雫!やめろ!そんなことをすれば、お前の魔力は全て……!」
刹那は、止めようとするが、声が出ない。
雫の回復魔術は、攻撃能力を持たないが、その純粋な『生命の法則』は、影山の兵器から逆流してきた『破壊の法則』と激しく衝突した。
キィィィィン!
空気が裂けるような高音が鳴り響き、兵器と刹那の間で、緑と黒の光がせめぎ合う。
「馬鹿な……!この純粋な魔力は、兵器の設計を上書きしようとしている!?回復魔術は、こんな出力を出すはずがない!」
影山の顔から、笑みが消えた。
雫の回復魔術は、刹那の魔力回路を、破壊の瀬戸際で強制的に安定させた。そして、兵器に接続されていた魔力炉心のパイプに、逆流する『癒やしの魔力』を叩き込んだ。
兵器の黒い光が、一瞬で緑色に染まった。
バチバチッ!
兵器の内部回路がショートし、機能停止した。
「私の兵器が……!私の『クロノ・デストロイヤー』が、たかが回復魔術で……!」
影山は、絶望的な叫びを上げた。
雫は、魔力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。刹那は、回復した魔力回路と、雫の安否への強い怒りとともに、立ち上がった。
「雫の『法則』は、お前の『悪意』に勝った。そして、ここからは、僕の『復讐の法則』が始まる」
刹那は、再び、増幅器を構えた。兵器は停止したが、影山はまだ残っている。
「許さないぞ、刹那!お前も、あの女も、ここで死ね!」
影山は、自ら隠し持っていた、極秘の『特務部用破壊魔術』を刹那に向けて放った。
「――『時空断層』」
刹那は、もはや躊躇しない。彼の中のクールな感情は、守護の決意によって、絶対的な力へと昇華されていた。彼は、風見から学んだ『空間干渉術』を、影山の破壊魔術に対して応用した。
刹那は、『時間逆転』の魔力を、影山の魔術が空間を通過するルートに、極めて微細に打ち込んだ。
ビィン……
影山の破壊魔術は、空間の「流れ」が逆転したことで、発射された瞬間の状態へと、巻き戻された。
「馬鹿な……!私の魔法が、無効化されただと!?」
影山は、自分の魔法が消滅したことに、恐怖で言葉を失った。
刹那は、影山の目の前に、音もなく移動した。彼の瞳は、冷徹な復讐の炎を宿している。
「貴様を、僕の『時間』で断罪する」
刹那は、増幅器を影山の額に押し当てた。そして、最後の、そして最も危険な奥義を発動する。
「――『時間封鎖』」
それは、『時間停止』を、個人の体内の魔力回路と、その記憶に限定して行う、不可逆的な時間魔術だった。影山の体内の魔力は、その記憶と共に、永遠に『二年前の事件直前の時間』に封鎖された。
影山の顔から、全ての感情が消えた。彼は、生きたまま、時間の檻に閉じ込められたのだ。
刹那は、その場に崩れ落ちた雫を抱きかかえ、冴子と合流した。
「影山の悪意は、これで終わった」
その時、魔力炉心に、冷徹な空間の裂け目が開いた。
神崎零司の登場だ。
「……遅かったか。刹那。影山は、法による裁きを受けることなく、君の私的な復讐によって断罪された」
零司は、周囲の光景――停止した兵器、崩れ落ちた部下、そして時間の檻に閉じ込められた影山を見て、静かに言った。彼の瞳は、怒りではなく、悲痛な失望に満ちていた。
「君の『時間封鎖』は、法を無視した私刑だ。君の復讐は、悪だ。今、君を断罪する!」
零司は、刹那に向け、全身全霊の魔力を込めた『空間断裂』を放った。刹那は、雫を庇い、その冷徹な刃を受け止めようと、静かに目を閉じた。




