47_降ってわいたミラクルチャンス
順調に出世できていると思っていた。
王太子殿下付きになって、魔術師団所属への夢にもぐんと近づいたのでは?と嬉しかった。
だけど、だけど、その役職を外されるということは、つまり降格ということでは?
王太子殿下付きにしがみつきたいわけじゃないけど、単純にショックだった。明るい未来へ続く道に灯った灯りがいくつか消えてしまった気分だ。
「ステラ嬢、本当に申し訳ない。事件解決に尽力してくれたのは君だというのに」
「い、いえ、仕方ありませんから」
そういうしかない。スカーレットにバレたくないとお願いしたのは私だ。
だけど、こんな風にスカーレットの目を気にすることで出世ルートから外れていくこともあるんだとしたら、ひょっとして私の魔術師団所属の夢はあまりにも果てしないいばらの道なのでは?
神様。どうして私にこのような試練をお与えになるのですか??
心が迷える子羊モードになっていく。
おお、神よ……神様よ……。
心の中で膝をつき嘆く私に、殿下は続ける。
「しかし、君の活躍にはきちんと報いたいと思っている。ステラ嬢の能力は評価されるべき素晴らしいものだからね。だから、今日の面談の主題はここだ。ステラ嬢。君の希望を聞かせてほしい。どこか行きたい部署はないだろうか?王太子付きに戻すことはできないが、それ以外ならできる限りその希望を叶えたいと考えている」
おお!?神よ!!!!!やったー!!!!嘘、本当に!?いいんですか!?
「ほ、本当ですか?本当にいいんですか!?どんな希望でも……?」
「ああ。とはいえ、絶対に叶えられると約束は出来ないが」
とはいえこの空気、もしも結果がダメだったとしても無理そうな希望も口に出してみることだけは許されそうな雰囲気である。
つまり、つまり、魔術師団を希望できる……!!
それに、却下されたとしても私が『魔術師団に入りたい』と思っているということだけは知ってもらえる。そうなれば、また評価が上がって『ステラを出世させようかな』と考えてもらえる機会が来たときに、その行き先が魔術師団になる可能性がぐっとあがるはずに違いない!!!
降ってわいたミラクルチャンスに興奮で頭が爆発しそうになる。あ、だめだ、鼻血が出そう。
「ステラ嬢?大丈夫かい?顔が真っ赤になっているけど」
「ありがとうございますシルヴァン様、大丈夫です。あまりに予想外の展開にちょっと体が熱くなっているだけです」
「むしろ心配なんだけど……でもその反応、行きたい部署があるってことかい?」
「は、はい。じ、実は……」
ごくりと喉がなる。
えーい!言うだけタダ!
「私、私、魔術師団を希望します!!!!」
「おお」
「えっ!」
どこか面白がるような殿下と驚くシルヴァン様の反応に、ついに言ってしまった!とドキドキする。
いや、本当にドキドキする。心臓が耳の奥に移動してしまったのかと錯覚するくらいに自分の鼓動が聞こえてきてうるさいほどだ。
「ほ、本当に?ステラ、魔術師団でいいのかい?」
「本当です!ちなみに魔術師団でいいのではなく、魔術師団が!いいのです!」
シルヴァン様の反応、感触良し!これはいけるかも!?
「~っ!嬉しいよステラ!殿下、もちろんよろしいですよね?」
「ふふ、そうだな。魔術師団ならば問題ないだろう。シルヴァンもいることだし、私としても助かる。王太子付きは外れても、こうして今のようにシルヴァンとともに行動してもらえばここに呼んで浄化の依頼などもしやすいしな」
「え、え、じゃあ」
「ああ、ステラ嬢の希望を叶えるよ。正式な所属の準備を整える。2日ほどゆっくり休んで心の準備をしていてくれ」
頭の中で祝福の鐘がなり、その衝撃で目の前がクラクラと揺れる。
まさか、本当にこんなに急に夢がかなうことになるなんて……!
「や、やったー!!わー!やったー!うそ、嬉しいです、ありがとうございます!」
叫んで走り出したくなる衝動を必死に抑えてその場で小躍りしてしまう。嬉しすぎて全部抑えるのはちょっと難しかった。
「ステラ、そんなに喜んでくれるなんて……!これからは今まで以上に側で仕事をすることになるけど、改めてよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
今日は人生の最良の日よ!スカーレットが聖女になって私が元家族から解放されたあの日が二番!
◆◇◆◇
ステラが退室した後、王太子ハウイルドはシルヴァンを横目に面白そうに笑っていた。
「はは、シルヴァン、顔が緩みまくっているぞ?」
「うるさいです、殿下。これはもう仕方ないでしょう」
「まさかステラ嬢が自ら魔術師団を希望するとはな。……よかったな。ずっと自分の側に置きたがっていただろう?」
ハウイルドは知っていた。シルヴァンがステラを自分の近くに望んでいたことを。
今回このような事態になり王太子付きを解除すると決まったあと、シルヴァンが望めばステラに聞くまでもなく行き先を魔術師団にすることは当然できたのだ。
ステラの能力的にも申し分ない。
しかし、シルヴァンがステラがそれを望むかどうかわからないから、と口を噤んでいたことにも気づいていた。
(ステラ嬢の能力は計り知れない。シルヴァンの側でその真価を確かめてもらうと言う意味でも、この決定は私にとっても幸運だったな)
聖女スカーレットとステラの確執には悩むところであるし、毒の件についてもこれから警戒していかねばならない。これから魔王復活に向けて国が荒れていくことが考えられる中で、今の王宮には問題が山積みであることは間違いない。
(魅了の魔力の問題も解決には程遠い上、聖女の性格には少し手を焼きそうではあるが……)
とはいえ、順調にその能力を伸ばしていると神官ザエルには報告を受けているし、ステラの行き先が魔術師団であるということは、これまでより聖女スカーレットとの距離も取りやすくなる。
「それにしても、まさかステラが解毒剤入りの水を飲ませたことで、解毒だけでなくついでに浄化もされるとは予想外でしたね」
「そうだな」
実は、まだ可視化されていなかっただけで、騎士やメイドの中には聖女スカーレットの魅了の魔力がついた者がいたらしい。面談の中で『目が覚めた気分だ』『これまではどこかおかしかった』などと話す者が多数いたことを不思議に思い、正式に調査した結果、聖女と関わるようになってからあの毒入り事件までの間の行動の変化やおかしさと本人の証言を併せてそういう結論が出たのだ。
証拠はないが、これは確実だろうとハウイルドは確信していた。
そして、その者たちが突然魅了の魔力を取り払い正気に戻ったのはどう考えてもステラの解毒剤のおかげだと考えられた。
「恐らくステラが解毒剤を作る際に魔力を使いその手で調合を行ったことで、浄化効果が付与されたのでしょう。ランディ殿がステラの作ったお菓子で魅了が浄化されたのと同じ原理ですね」
「思わぬ副作用だった。聖女も浄化を使ったが、魅了の魔力が聖女のものである以上、本人の浄化でその魅了が解かれることはないからな。そもそもステラがいなければ、魅了にも気づかなかっただろう。……彼女の力は本当に特別だ」
「はい。……僕はまだ聖女がステラではないことが信じられないくらいです」
「しかし、スカーレット嬢が聖女であることは彼女が能力を覚醒させていっていることからも間違いないだろう。そしてこれまで聖女が二人存在したことはない」
とはいえ、王太子にとって聖女の他にもステラのように特別な力を持つ者がいるという事実は、間違いなく僥倖だった。
「まあ前例がないといってありえないとは言えない。引き続き、ステラ嬢の能力についても様子を見ていく」
そんな会話が繰り広げられているなど、ステラは知らないまま……。




