46_余計な告げ口反対!
集団が毒に倒れた事件から二日が経った。
毒がいつ、どうやって混入されたかを調査しているみたいだけど、まだ何も特定に至っていないらしい。
ひとまず、今後は毒や呪いが混入していないかの鑑定は荷物の受け入れ後と実際にそれを飲食する直前のどちらも実施していくことになった。
毒が入れられたのはスカーレットへの贈り物の中だったこともかなり問題視されている。
そりゃそうだよね、王宮内に聖女様を害そうと企む誰かが出入りしている可能性が高いわけだし。
メイドや下働きの下男、文官や騎士様や魔術師様、その他にも王宮に勤めるすべての人が面談を実施することになったんだとか。
面談相手は直属の上司になるとは思うけど、結構大変そうで王宮内は少し騒がしい。
そして、私の面談はなんと殿下が直々に行ってくれることになった。
メイド長じゃないんだ!?とちょっとびっくりした。まあ王太子殿下付きってことになっているし、おかしくはないんだけど。
そしてその面談が今日これからなのである。
「失礼いたします」
昨日もスカーレットへの報告体制についてお話しするために殿下の執務室には来ているので、そこまで緊張することもなくいつも通りに入室したんだけれど。
(あ、あれっ!?なんでこんなに空気が重いの!?)
なぜかすごく室内の空気がどんよりしている!
というか面談なのに今日もシルヴァン様が同席している。いつも通りでより安心できるしそれは別にいいんだけど、なんだか殿下もシルヴァン様も暗い雰囲気で表情も硬いような。
ええっ、なんだか急に緊張と不安が襲って来たんですけど……!
「ステラ嬢、まずは改めて二日前の騒動ではシルヴァンとともによく頑張ってくれた」
「い、いえ、ありがたきお言葉でございます」
空気にのまれていつも以上に丁寧な言葉で返事をする。
「もう一度事実の整理をさせてくれ。君は毒を口に含みその種類を特定し、解毒剤に必要な材料を王家の近くの森にてシルヴァンとともに採取し、解毒剤を作り上げ、聖女スカーレットの活躍を邪魔しないように水に混ぜてさりげなく全員に飲ませ、回復に貢献した」
「は、はい」
「殿下、『回復に貢献した』のではなく、正しくは『ステラこそが全員を回復させ、助けた』のです。ステラの行動がなければ誰一人として助かってはいませんから」
シルヴァン様がすかさず全ては私の行動の結果だと主張してくれるけど、その声もいつもより低く怒りを含んでいるように聞こえる。
なに、なんでこんなに不穏な空気なの?
「分かっている。すまないな、ステラ嬢。今のは何もこの内容を疑っているわけではないことは分かってほしい。そのために、私は事実を正確に把握していると伝えたかっただけなんだ」
「は、はあ」
なんだかすごく回りくどいことを言っているような。ひょっとして、そうするほどに何か言いにくいことをこれから言われるということなのだろうか。
果たして、その予想は当たっていた。
「……聖女スカーレットが、自分が浄化魔法にて王宮の人々を救う際に君が余計な行動をとり邪魔をしていたと申し出てきた」
「なんで!?!?」
ハッ!もう!今日はお行儀よくしておこうと思ったのに驚きすぎて普通に反応してしまったではないか。
でも、本当になんで?不思議すぎる。状況的には私はスカーレットが魔法をかけて回復した後の人にお水を渡して回っただけなのに。おまけに『殿下の指示』だったのに!そういうことになっているだけだけど!
ていうかそもそも、変装していたうえでスカーレットには見えないようにこっそり行動していたのにどうして気づいたんだろう?
「どうやら君が水を配っていた姿が神官ザエルの目についたらしい」
神官ザエル様!お前かー!
殿下によると、神官ザエル様は『浄化魔法のあとに水を飲む必要性はないのに、あの非常事態にわざわざ全員に配って回るなどおかしいのではないか?おまけにスカーレット様にバレないようにこそこそ行動していた!怪しい!』とスカーレットに告げ口し、それを聞いたスカーレットが憤慨し、殿下に直訴して来たらしい。
なんでも、
「あのメイドを王宮、ひいては王都から追放するべきではないかと……」
「ぎゃあ!最悪の想像が現実にっ」
さすがねスカーレット、何かあればすぐにそういうことを言い始めると思ってた!予想を裏切らない展開!
だけど、こんなことで私ってば王都から追放されちゃうの?
王都から追放されるということは、王宮所属である魔術師団に入る夢はもちろん絶たれることになる。
ああ、やっぱり隣国に渡って隣国の王宮魔術師団を目指すしかない……。
隣国にはスカーレットはいない、わざわざ変装する必要もないし、こそこそスカーレットの目を気にする必要もない。うん、いいかも?
ただ問題は他国の人間である時点でスパイを疑われる危険性があるってこと。認めてもらうために時間がかかるかもしれないし、そのために辛い思いをすることやきつい試練がふりかかることもあるかもしれない……。
でもまあ、反対にこんな風にメイドから下積みをつむ必要もなく、すんなり魔術師団に入れてもらえる可能性もあるし。うんうん、前向きに行こ。
思考すること瞬きの時間。私の心は決まった。
「……それでは、今までお世話になりました。短い間でしたが、私なんぞが魔術師団副団長のシルヴァン様や、王太子殿下と関わる機会を頂けて本当に光栄でした」
「ステラ!待て待て!早まらないで!?殿下!あなたの話し方が悪いからステラがこの国を諦めちゃっているじゃないですか!」
「す、すまない」
ん?どういうこと?慌てるシルヴァン様の反応に首を傾げる。
「もちろん、ステラ嬢を追放するなど以ての外だ。いくら聖女の要望だとしても私が王太子としてそんなことは決してさせない。聖女にもザエル神官の誤解であり、君の行動は私の指示によるものであると説明した」
「そ、そうですか、よかったあ……」
でも、スカーレットはそう簡単に納得しなかったんじゃないだろうか。
そんな風に思う私の考えを肯定するように、説明したというわりには殿下の表情が暗い。
「王宮からの追放はできないとして返答したし、君の行動は正当なものだったと理解してもらった。しかし、聖女はあの時水を配ったメイドと私のお気に入りとされているメイドを気にしている」
ほらね!やっぱりね!!
「もちろん悪感情でもってだ。一応『それでもやはり怪しいと感じられるので、これ以上殿下のそばに置いておくのは危険ではないか?』という心配の体をとってはいたがな。ちなみにどちらもステラ嬢なわけだが、それはバレていないようだ。……よって、これ以上ステラ嬢を私つきのメイドとしておくのは聖女の暴走を危惧する意味でも、君の正体がバレる危険性があるという意味でも、難しいと判断した」
それってつまり……。
「ステラ嬢。私としても本意ではないし、君に全く非がない中で本当に心苦しいのだが、君には王太子付きの役職から外れてもらうことになった」




