44_とてもじゃないけど指摘はできません!
ありゃ!やっぱり、さすがにスカーレットの方が早かったか。
でもそれならそれで皆が無事に治って一件落着するならそれでいい。
実際、いちメイドが用意した解毒剤で治るよりも、自分の期待通りに聖女様の解毒魔法で治してもらう方が嬉しいだろうし心理的にも安心できるだろう。
そう思ったのだけど。手を大きく広げ、声高らかに演説するスカーレットの次の言葉を聞いて、雲行きが怪しくなった。
「私の聖女としての能力も日々向上しています。こんな呪いはすぐに解いてみせますから、どうかもう少しだけ頑張ってくださいね!」
ええっ!今スカーレットははっきり『呪い』って言ったわよね?
呪いじゃなくて毒なのに!
すぐにスカーレットの近くに神官ザエル様の姿を探す。
いた。スカーレットの少し後ろに控えている。
よかった、きっと神官様ならこれが呪いではなく毒だと気づくだろうから、こっそりスカーレットに教えて訂正してくれるだろう。
そう思ってホッとしかけたけれど、なぜかザエル様は真剣な眼差しでスカーレットを見つめるばかりで、一向に動く気配がない。
というか、スカーレットの発言に驚いている様子も、戸惑っている様子もない。
これってつまり……ザエル様もこの騒ぎの原因が毒であると気が付いていないということ……?
(それじゃあスカーレットは本当の原因に気づかないまま、呪いを解く浄化を発動するばかりになってしまうじゃないの!)
そうじゃない!毒の症状に呪いへの浄化をかけたって治せないし意味がない!
……でも、実際毒に倒れている人達も呪いだと信じ込んでいるようだし、毒と呪いどちらのせいなのかは分かりにくいものなのかもしれない。
たしかに私も実際に自分の舌で毒を確かめたから原因に確信を持っているけど、呪いだと言われればそうとしか思わないのかも。
でも、そしたらどうする?
「ステラ、これはまずいな。聖女殿は呪いのせいだと思い込んでいる。これだけ皆が同じように勘違いしているから無理もないだろうが。すぐに毒だと伝えよう」
「ま、待ってください」
すぐに動こうとしてくれたシルヴァン様の袖を咄嗟に掴み、引き止める。
もちろん、指摘するべきだ。スカーレットの能力が今どんな状態なのかは分からないけど、解毒の魔法ももう使えるのかもしれない。もしもまだ使えなかったとしても今ここに解毒剤はある。どうとでも解決できる準備はあるのだ。
だけど──今ここで、スカーレットの間違いを指摘したらどうなる?
頭の中に鬼の形相のスカーレットが浮かび上がる。
『あのメイド、私に恥をかかせたわ!今すぐ首!そして国外追放よ!じゃなきゃ聖女の仕事をしてあげないから!』
──あああ、ありえる!スカーレットならありえるわ!
簡単に想像できる未来に全身が震えあがる。いや、これは最悪の場合で、実際には多少マシな展開になるかもしれない。だけどどっちにしろ私が目をつけられるのは確実に思えた。
これは、普通に指摘するのは絶対に悪手だ。
「この大勢の目がある中で大々的にこれは呪いではなく毒だと指摘するのはスカーレットを刺激してしまうと思います!どうせここに解毒剤はありますし、今回は緊急事態なのでスカーレットにはこのまま魔法を使ってもらって、私がこっそり皆に解毒剤を飲ませます……!」
「しかし」
「お願いします!スカーレットの機嫌を損ねたくないんです!」
私は隠れておいて、シルヴァン様に指摘してもらうこともできるけれど、その場合でもスカーレットは自分の間違いを恥じるだろう。そうすると、表面上はどうであれ絶対に機嫌を悪くする。
きっとその矛先がシルヴァン様にむくことはない。となると、どうなるか。
私が関係していると知らなくとも、最近気に入らないメイドである私に矛先が向く可能性は十分にある……!
スカーレットはそういうタイプだ。私はよく知っている。
私の必死な態度に、シルヴァン様はどこか痛ましいものを見るような切ない表情を浮かべる。
「ステラ、過去のことがそこまで君のトラウマになっているのか……わかった、今回は君の言う通り、聖女殿をたてて解決はこっそりこちらでしよう」
あ、あれ。なんだか私がとても傷ついてスカーレットの機嫌をうかがっているように思われているようね。まあいいか?
「だが、そうとはバレないように解毒剤を皆に飲ませなければならない。どうする?」
「それなら、私に考えがあります」
とにかく飲んでもらえればいいのだ。難しく考えることはない。
だって私はメイド。皆のためにせっせと働くのみです!




