43_でーきた!
巨大白蛇はゆっくり近づいてくると、私の腕の中の白い蛇におでこをこつんとぶつける。
その瞬間驚くことに弱っていた白い蛇の体が淡い光を放ち、ぱちりと目を開いた。
白い蛇はそのままするりと私の腕から抜け出すと、巨大白蛇の頭の上にちょこんとのる。
「今、巨大白蛇が回復したの……?」
そうとしか思えない光景に驚いてしまう。
白い蛇は自然豊かな森にはよく生息していて、珍しい種族でもなんでもない。だけどこんなに体の大きな白い蛇がいるなんて知らなかったし、回復魔法?が使えるなんて聞いたこともない。
私だけではなくシルヴァン様も驚いているようで、私が知らないだけ、なんていうことでもなさそうだった。
とはいえ、白い蛇が元気になったならよかった。
ホッと一息ついていると、巨大白蛇が少し距離を取り、大きな体をぷるぷるとふるわせ始める。
なんだろうと思う間もなく、やがてその体から皮が浮き始め──巨大白蛇は私たちの目の前であっという間に脱皮してしまった。
(ええーーっ!?)
おまけに、すっかり新しい姿になった巨大白蛇は、今脱いだばかりの皮を私の方に押し出してくるではないか。
「もしかして、私にくれるために脱皮してくれたの?」
そう尋ねると、数秒私の目をじっと見つめ、頭の上に白い蛇をのせたまま巨大白蛇はくるりと後ろを向き、あっという間にその場から去ってしまった。
「……どうやらそういうことのようだな。まさかこういう展開になるとは」
「びっくりしましたね。白い蛇は助けられたけど弱っていたから、皮をもらうのは難しいかもしれないと思っていました」
難しいどころか、想定の何倍も大きな皮が手に入ってしまった。
「とはいえこれで解毒剤がすごくたくさん作れます!すぐに王宮に帰りましょう!……って言っても、さすがに大きいな……どうやって持って帰ろう?」
ちょっと悩んだものの、結局シルヴァン様と一緒にせっせと皮を折りたたみ、抱えて持つことになった。
◆◇◆◇
王宮に戻り、すぐに他の材料を集めると、解毒剤を作る作業に入る。
材料をそれぞれ決まった分量、決まった手順であわせ、魔力で混合していく。
本当は緻密な魔力操作が得意なシルヴァン様にお願いした方が、大雑把な私がやるよりも質のいい解毒剤が作れるかもしれない。
けど、今はとにかく力任せの早さ重視で!
「できたー!」
白い蛇の皮が少量だった場合はもう少し計算をしながら無駄が出ないように掛け合わせなければ十分な量の解毒剤は作れなかっただろう。だけど、今回は幸運なことに余るほど白蛇の皮があるので、多少雑に作ってもどうにかなった。
落ち着いたらあの巨大白蛇にはおいしいご飯を貢ぎに行こう。
「早い……それに、間違いなく確かな解毒剤だ。ステラはどうしてこんな解毒剤の作り方まで知っているんだ?」
瓶に分けた解毒剤の一つを手に取り、確認のための鑑定をしてくれたらしいシルヴァン様は驚いていた。
たしかに、普通に過ごしていたら解毒剤を自分で作る機会なんてそうそうないもんね。
「胃腸が強くなる前は毒に困ることもあったので、街の薬草院で教えてもらったんです」
おばあさんが一人でやっている薬草院で、初めて毒を口にしてしまったときにふらふらになりながらなんとか辿り着いて助けを求めた私を見かねて、『そんな風にいろいろ口にするなら野垂れ時ぬ前に自分で薬の一つや二つ調合できるようになっておけ!』と知識を叩き込んでくれたんだよね。口は悪いし厳しかったけど、とっても優しくて大好きだった。
元義家族に疎まれ蔑ろにされていた私の家族のような存在だったのだ。
今度お休みの日に久しぶりにゆっくり会いに行こうかな。
「ステラ……君は本当につらい日々を送っていたんだな」
あれ!?なんだかシルヴァン様が私をつらそうに見ているような?
たしかにマーファス家を早く出たいとはずっと思っていたけど、あの生活も今に生きることばかりで役に立っているし、なによりも辛いわけじゃなかったんだけど。
でも今はそんなことを話している暇はないので。
「とりあえず、この解毒剤を早く皆さんに飲んでもらわないと!」
こうしている間にも、毒を摂取してしまった人は苦しんでいるはずだから。
いや、もしかするとスカーレットがすでにどうにかしている可能性もあるのかな?
とはいえ、解毒剤が必要ないレベルならシルヴァン様がそう教えてくれるか。
こうしてみるとよくわかるけど、私って本当にスカーレットについて知らないことばかりだ。
実地訓練を始めていることは聞いたけど、今の時点でスカーレットがどれくらい聖女としての能力を覚醒させているか全然わからないんだよね。
今度からもう少しスカーレットについての情報は把握しておいてもいいかもしれない。
そう思いながら、とにかく解毒剤をかごに詰めるだけ詰めて、仕分け部屋の方に急ぐことにした。
すぐに白い蛇の皮を手に入れて戻ることはできたけど、それでもやっぱり多少時間は経ってしまっている。
だからこそできる限り急いで戻ったのだけれど。
「皆さん!私が来たからにはもう安心してください。すぐに助けますから!」
私たちがついたのは、ちょうどスカーレットが到着したばかりのタイミングだった。




