41_ステラはお腹が強い子
その瞬間、シルヴァン様に勢いよく肩を掴まれる!
「むぐっ!?」
「何をしているんだステラっ!?どれに毒が含まれているか分からないのに不用意に口にするなんて……!そ、そんなに喉が渇いているのか?それなら僕が水魔法で今すぐ飲み水を用意することもできる!というか今すぐこれを飲んで今飲み込んだものを吐き出すんだっ」
シルヴァン様、風魔法がお得意なのはなんとなく分かっていましたけど、水魔法も得意なんですね?
水魔法の中でもただ水を出すだけや、水を使っての攻撃や防御なんか以上に、人が飲める水を作り出すのは実はもっと難しいと言われているのだ。
って、そうじゃなくて。
「飲み込んだのを吐き出すのは、ちょっと、難しいかとっ?」
「何を呑気なことを!」
「待って待って、シルヴァン様、勢いがすごいです!今飲んだフルーツジュースは毒物の混入はなかったようなので大丈夫ですから!」
「は……」
私が必死に制止すると、ようやく力が抜けるシルヴァン様。
心配してくれるのは嬉しいけど、まさかこんなにも慌てさせてしまうとは。はーびっくりした。
「いや、しかし、今のがたまたま毒物じゃなかっただけの話だろう?心臓に悪いからやめてくれ……!」
「だけど本当に毒の場合、どれに混入されているのかも特定した方がいいでしょうし、何よりもなんの毒が使われたのかは知るべきですよね?」
「それはそうだが」
こういう時こそ私の出番!
「私、お腹がとっっても強くて毒を飲んでもなんともないので大丈夫です!ただ、味は分かるので、こうして実際に口にしてみるのが手っ取り早いんですよ」
「いやいやいや、待て待て」
うすうす気づいていたけどシルヴァン様って心配性よね。
だけど今は待っている余裕はないので。
一番気になっていた、大量の瓶の残りを素早く手に取ると、シルヴァン様に制止される前に一気にふたを開けて口に含む!
「ああっ!?ス、ステラッ!!!」
「んんっ!」
こ、これだわーーー!!!
間違いない、やっぱりこれだ。完全に毒が入っている。
呪いのように見えたり匂ったりするわけじゃないのに、妙に気になったんだよね。私の動物的勘ってやつだろうか。
森を中心に魔物狩りに出ていた頃に色んな感覚も研ぎ澄まされていった気はしたけど、そういう部分も磨かれたのかもしれない。
真っ青になり、ぶるぶると震えて私を凝視しているシルヴァン様にはちょっと申し訳ないけれど、今度はきちんとテイスティングしてなんの毒が使われているのかその正体を探る。
そもそもこれは栄養ドリンク的なものだったようだ。だからこそ余計に職務の合間であるメイドや騎士様たちがこれを多く手に取ったのね。お疲れの仕事中に飲むにはぴったりだもの。
ドリンクそのものの味の中に、明らかに異質な風味が混ざっている。
ワインを味わうように舌の上で転がし、それが何かを考える。
(苦みが少し、少しピリッとする。それ以上に妙な甘ったるさと……ドリンクに本来入っているものとは別の種類の薬草っぽさも感じる。ふむふむ。結構おいしい!)
だから皆なんの疑問も持たずに飲んでしまったんだろう。苦みは甘ったるさにほとんど打ち消されていて普通に飲む分には分からないだろうし。
すぐに分かるほど変な味の毒だったらひとくち口に含んだ時点で毒だと分かり吐き出すだろうし、飲んですぐに症状が出て倒れるような即効性のあるものならばこんなに大人数が毒に侵されることはない。
これは……
「シルヴァン様、毒の正体が分かりました!」
「ほ、本当か!?」
「はい!解毒剤を作るためには材料が要ります!私、とってきます!」
「待て!僕も一緒に行く」
「いいんですか?」
「治癒魔法が使えない僕がここにいてもあまり役には立たないからな。それならステラと一緒に行った方がやれることはあるだろう」
それは心強いのですごく助かる!
あと、私が有能で使える人間であることをアピールする大チャンスでは???
すぐに材料を手に入れるために仕分け部屋を出ると、まだスカーレットは到着していないようだった。
どうやらこんな日に限ってお忍びで両親とともに街に遊びに出てしまっているらしい。
そうだった、元義両親も王都にいるんだったね……全然会わないからすっかり忘れていた。
倒れている人の数はじわじわと増えているようで、あまり時間的余裕はない。
とりあえず、王太子殿下にはまた魔法の便箋で連絡を入れて、私とシルヴァン様はすぐさま騒ぎの続く王宮を出た。
……の、だけど。
私が探そうとしている材料がどこにいるかが分からない……マーファス家の近くの森にはよくいたんだけど、そこまで向かうには時間がかかりすぎるし……。
探すのは、比較的森などによくいる『白い蛇』だ。
「シルヴァン様、この辺で白い蛇のいる場所を知りませんか?」
「蛇……?普通のものならば知っているが、白いものは……どうだったか」
討伐にでることはあっても、魔術師団が出るような討伐時にはそれなりに強い魔物がいるわけで。そういう時に普通の生き物は魔物のオーラにあてられて姿を見せなくなることがほとんどだ。
そのせいで、特に意識することのない白い蛇が通常どこで見られるか、シルヴァン様は把握していないようだった。
(そうだよね、あんまりあれが必要になることってないもんね……!)
特殊な毒には、特殊な解毒剤が必要になる。
『白い蛇』はそこまで珍しい生き物ではないけれど、他の薬などの材料にはならないもので、需要がほとんどないのだ。
治療院や薬草院でも売られているのは見たこともない。
とにかく近くにある森に行ってみるか……と思ったところで、足元にするりと擦り寄る黒い影が。
「にゃーん」
「あらっ!あなた、こんなところで何をしているの?」
それは、私が治癒魔法で助けた黒猫ちゃんだった。
黒猫ちゃんは私にすりすりと体を擦りつけると、少し歩いてこちらに振り向く。
「にゃーお!」
「……ひょっとして、ついてきてって言ってる?」
「みゃん」
そうだと言っているようにしか見えないその姿に、引き寄せられるようについていく。
「なんだ……神聖な黒猫が、道案内をしてくれているのか……?」
「そうかもしれません」
シルヴァン様の戸惑いも無理もない。もしも本当に案内してくれているなら、私達の会話もすっかり理解しているということになる。そんなことがあるんだろうか?
けど、相手は黒い毛並みを持つ猫ちゃんだもの。向かう先には森があるようだし、どうせ行き先が同じならダメもとで信じてみよう。




