39_聖女様への貢ぎ物
メイドたちがなにやら集まっている様子だったので気になって覗きに行ってみると、王宮へ届けられた荷物がまず運ばれて仕分けするための部屋が大量の贈り物で溢れていた。
「わ!これはすごい量ですね!?」
驚きで思わず声を上げると、仕分けをしている先輩メイドの一人が教えてくれた。
「すごいわよね。ほとんどが聖女スカーレット様宛てよ!仕分けがいがあるわ~」
「そ、そうですか、聖女様の」
「最近、実地訓練として討伐に同行したりするでしょ?その姿を見られていたり、その途中でたまたま運よく遭遇した市井の方に治癒魔法を使ってあげたりしてるらしいのよ!そのおかげで聖女様の評判が広がっていて、こうして贈り物が届き始めたの」
なるほど。まだ聖女のお披露目式は正式には行われていないけど、すでにスカーレットが聖女であることは周知されつつあって、それに伴い市井の人達や貴族たち、はたまた他国からもスカーレット宛に贈り物が届き始めているってわけね。
「聖女様、贈り物の中のいくつかは私達メイドや騎士様達なんかに下げ渡してくれたりするのよ!直接仕分けしている私達や特に聖女様の近くにいるメイドや騎士様がその機会が多くてね。だからこそ余計にやる気が出るの!これはひょっとしてもらえるかも?なんて期待もしちゃうし、これはさすがに無理かもなあってものをもらえることもあるからさ」
うきうきとそんなことを教えてくれた先輩メイドは、あまりの贈り物の量に多少の疲れは見せているものの、目を輝かせながら複数人のメイドで協力して仕分けを行っていた。
見たところ、装飾品や食べ物が多いみたいだわ。他国からのもの、自国貴族からのもの、その他からの者を分けて、その上でものによってもわけているらしい。
お手伝いしようかとも思ったけれど、仕分けについてはいつもやっている先輩メイドたちがとても手慣れているようで、余計な手出しはしない方が良さそうだった。
仕分けした後は、食べ物ならば中身に毒や呪いなどの問題ないかを専用の魔法で確認、その他も怪しいものが混入されていないかやこちらも呪いなどを魔法を使って確認して、実際にスカーレット自身が確認することになるらしい。これはスカーレット以外への贈り物の場合も同様の流れになる。
どんな贈り物があるのかちょっと眺めた後に、すでにメイドたちで分けるように下げ渡された物を見てみる。
「ふむふむ、なるほど」
ずっと一緒に暮らしてきて、スカーレットの性格や好みをしっている私からすると分かりやすいくらいだった。
スカーレット、価格帯が比較的低い物には興味ないみたいね。あとは自分の好みじゃない物か。
それと、そのどちらにも当てはまらないものの中には同じお菓子や飲み物が大量に用意されているものもある。きっとこれは『こんなに一人で消費できないけど、皆で一緒に食べたり飲んだりする物を聖女たる私が共有するなんておかしいじゃない?』とでも思って自分はいらないって言ったんだろうなあ。だってこっちのやつは結構高価な物のはず。送り主はかなり太っ腹ね。
比較的価格帯が低いとはいえ、王宮へ贈る程のものだからもちろんそれなりにいい物で。その上いい物もこんなに多いなら多くの騎士様やメイドたちにもいきわたるはず。こりゃ先輩メイドたちが期待してやる気になるのもよく分かる。
邪魔にならないようにその場を後にすると、ランディ様に遭遇した。
「ステラ嬢」
こちらに気づいて手を挙げるランディ様。に、挨拶を返そうとして……びっくりして固まってしまった。
ランディ様の後ろにいる、同じ騎士団の仲間らしい騎士様達……
(う、うっすら汚れていないですかーーー!?)
ぎゃあ!これは、魅了の魔力では!?
今までもランディ様と顔を合わせる時に近くに別の騎士様がいたことはもちろんあった。
今思えば、その時にもうっすらと汚れていたかもしれない……。ただ、訓練後だったりしたこともあり、違和感がないほどでしかなかったんだわ。
魅了の魔力がじわじわとついていき、それが蓄積されてきてそろそろ私が気づいちゃったって感じなの!?
実地訓練が始まって騎士様達と一緒にいることが増えたから、魅了の魔力の影響を受ける人も増えているのかもしれない。
これまでは結局、私が見ることができた範囲では王太子殿下、シルヴァン様、ランディ様くらいにしか魅了の魔力は確認できなかったから、『スカーレットが特に気に入っていて積極的に接触しようとしている人』だけが対象なのかと思っていた。
そうなると、もしかするとスカーレットが意識的に魅了の魔力を使っている可能性もあったわけだけど。
接触が多くなった複数人が皆影響を受けているとしたら、無意識に使っていてスカーレット本人すら魅了の魔力を使ってる自覚がない可能性があるということになる。
その予想を裏付ける機会はすぐにやってきた。
スカーレットへの贈り物を仕分けしていたメイドたちの元に、別のメイドが顔を出したのだけど──
(あ、あれは間違いなくスカーレット付のメイドだわ……!)
なぜなら、そのメイドの全身が、真っ黒な煤に覆われているように見えたから……。
私がそのメイドを凝視していることに気づいたランディ様がこっそりと教えてくれる。
「あれはスカーレット様の一番のお気に入りで、いつも側についているメイドだな。討伐の時にも安全を確保した上で同行して、スカーレット様の身の回りの世話を一手に引き受けているんだ」
「そうでしょうね…………」
確定だわ。
これは王太子殿下に報告しなくてはいけない。
◆◇◆◇
「そうか、やはり無意識の可能性が高いか」
「恐らくですが」
さっそく殿下の執務室へ行き報告する。ある程度はそうだろうと予想していたような反応だった。
ちなみに魅了の魔力についての報告なので、渡されていた魔法の便箋を使ってシルヴァン様とアンジェリカ様にも報告したため、シルヴァン様もすぐに執務室へやってきて、アンジェリカ様もこちらに向かっているらしい。
「武器庫の呪われた武器と魅了の魔力の見え方が同じようなものだったことからも、恐らく魅了の魔力がついている状態は呪われているのと同じような状態だと考えられる。……つまり、放置しておくのは危険でしょうね」
シルヴァン様がため息をつく。
極端な話、ただただ魅了されてスカーレットへの好意が増幅されるだけならば放置していても問題はない。
聖女は大切にされるべき存在だから、その聖女を妄信的に好きになるのは一概に悪い事とは言えないし。
ただ、それが呪いと同じ状態ならば話は別だ。
呪いは、呪われた状態が長く続けば続くほど、その身も心も蝕まれ、最悪の場合やがて死に至ってしまう危険性もある恐ろしいものだから。
だからこそあの呪われた武器たちも、絶対に人が触れてしまわないようにあの武器庫に封印されていたわけだ。
まあ、私が解いちゃったけど。
「スカーレットには近づかないようにしていたので、スカーレット付のメイドの状態に今日まで気づきませんでした」
というか、神官ザエル様が魅了の魔力の影響を受けていなかったから、無意識のうちに油断していたかもしれない。
やっぱりザエル様は神官だから、呪いやそれに類するものへの耐性が強いとかってことなのかな……?
「とにかく、聖女が魅了の魔力を使ってしまっていることについて今後どうしていくべきかは考えなければならない。とりあえずはステラ嬢に飴を量産してもらい、私からのものとして支給して浄化するか……」
「ただ、自分では食べない者も出てくるかもしれませんね」
「飴以外にも浄化の手段を用意して、取りこぼしのないようにしなければならないな」
そんな風に、殿下とシルヴァン様が浄化について相談している、その時だった。
「王太子殿下!失礼いたします!」
慌てた様子の騎士の一人が、殿下の執務室に駆け込んできたのだ。
「一体どうした?」
入室許可も待てずに飛び込んできた無作法に片眉をあげながらも、ただならぬ騎士の様子にぴりりと空気を引き締める殿下。
「王宮内で、次々と人が苦しみ、倒れていっているのです……!」




