37_相変わらず不安そうですね?
スカーレットの実地訓練がついに始まったらしい。
そのため、日帰りでも日中の間、長くて2、3日王宮を不在にすることが増えてきた。
スカーレットとうっかり遭遇する危険がゼロになるだけで私の心の落ち着き具合が全然違っている。
それはシルヴァン様も同じだと思っていたのだけど。
「あの、シルヴァン様?」
「どうしたの、ステラ」
「スカーレットは実地訓練で不在にしていますよね?ということは、王宮に残っているシルヴァン様とは接触のしようがありませんよね?」
「うん、そうだね。おかげでここ最近は安心して過ごせる日が増えているよ。聖女相手にこんなことを思うのは間違っているとは分かっているけど、やっぱりあまりに近い距離に精神がどうしても疲弊してしまうからね」
「それはよかったです。……よかったんですけど、どうして毎日私に会いに来ているんでしょうか?」
そう、シルヴァン様は実地訓練が行われている間も、なぜか毎日私に会う時間を作っているようなのだ。
最初の2、3回は偶然かな?と思ったけど、4日目でわざわざ呼び出されて確信した。
今も、すっかり慣れた様子で私を抱きしめているけど、今日もスカーレットは不在なのに!今回の戻りは確か明日だっけ?
疲れていない分、声は機嫌がよさそうだけど。
私に会いに来て触れ合う時間を作っているのは、スカーレットとの接触で魅了の魔力にやられる可能性があるから、その予防のためだってことじゃなかったっけ?
それなら、スカーレットと接触しない日は私にも会う必要がないんじゃないかと思うのだけど、これは一体どういうことだろう?
当然の疑問を口にしただけなのに、途端にシルヴァン様の声が少し低くなる。
「ステラはひどいな。君とこうしているのが安心材料になっているうえに、もうすっかり習慣になってしまっている。聖女と会わないからと控えると、どこか気持ちが落ち着かないんだ。そんな気持ちを分かってくれないの?」
「なるほど?」
たしかにいつもしていることを突然やめるのは少しそわそわする。
それに魅了の魔力の影響はシルヴァン様には確認できないから、絶対に大丈夫だと思う日でも念のため予防をしておくと安心できるのだと言われれば、そんなものなのかな?と納得できた。
(まあ、シルヴァン様は王太子殿下の変化も、ランディ様の変化もしっかりその目で確認しちゃっているわけだし、余計に不安になっちゃうのかな?)
魅了の魔力による暴走はなかなか理不尽で、殿下もランディ様も浄化して魅了の魔力の影響が抜けた後はちょっとショックを受けているようだったし。そうなるかもしれないと思うと怖いのかもしれない。
「私としてはこうすることになんの問題もないので、それでシルヴァン様が安心できるのならいくらでもかけつけます」
どうせ、王太子殿下つきのメイドのお仕事は正直そこまで忙しくない。元々殿下のお側についていた上級メイドもそのまま働いているから、私は手の空く時間もあって、合間に殿下にお願いされてお菓子を作る時間もあるくらいだもの。
あと、ふと気が付いた場所のお掃除をしたりとか。
私としては早く出世して魔術師団に入りたいから、もっともっと忙しくしたいくらいなんだけど。
でも、レイラにも『職務以上のことをしてクビになった人もいるから、余計なアピールはしちゃダメ』って教えてもらったしなあ。
うーん、ちょっともどかしい。
「ありがとう、ステラ。助かるよ」
でもまあ、ちゃんと役に立てているならひとまず良しとしよう。
シルヴァン様の甘え具合にももうすっかり慣れたしね。
◆◇◆◇
今回の実地訓練が終わり、騎士団の一人として同行していたランディ様も戻って来た。
ちょうど殿下の元へ訓練の報告に来たランディ様と執務室に入る前に鉢合わせして驚いてしまった。
うわあ!とっても疲れてますね!?これはいつかのシルヴァン様の疲れ具合を思い出すレベルだ。
「実地訓練って、そんなに過酷なんですか!?」
「いや、訓練自体はまだ聖女様が慣れている途中だから、そこまで過酷ではない。ただ、口臭が気になって気になって、精神が全く休まらなかったんだ……!」
「わ、わあ」
ランディ様のトラウマは相変わらず重症のようで胸が痛む。初めて口臭に気づいたあの時、私がもう少しマイルドに伝えてあげられていれば……!
後悔とともに、またランディ様との距離をつめる。くんくん、うん、臭くない!
「ランディ様!大丈夫です、全く臭くないですよ!ほら!平気!」
「ああ、ステラ嬢……ありがとう……飴を持っていったのが良かったのかな。あれを舐めている間だけは心もよく落ち着いたんだ」
「それはよかったです」
不安がるランディ様に、飴を作って持たせてあげたんだよね。お菓子と同じく浄化効果があるかもしれないと思えば、気休めくらいにはなったようだ。
これからも訓練の度に用意してあげよう。
「ランディ様、そこまで怯えなくとも大丈夫ですよ。聖女様の作ったお菓子を手ずから食べなければいいんですから。それにもしも匂いがしたとしても誰もが感じ取れるわけじゃないですし、訓練中はそんな余裕もないでしょうし」
「そうだよな……」
「それに、もしもの時も私が浄化できますから!ひとまず魅了の魔力のことは気にしなくて大丈夫です!」
ただでさえ訓練で疲れも溜まるだろうし、そんなことで精神的にも疲れていたんじゃ、いつか怪我をしてしまうかもしれない。
そう思い励ましていると、執務室のドアが勢いよく開いた。
「何をしてるんだ!?さっきから話声がすると思ったら……!」
「あら、シルヴァン様。今日も先にいらしてたんですね?」
「うん、ステラ、前にも言ったけどランディ殿との距離が近すぎると思うんだ」
嫌そうな顔をしたシルヴァン様は私を肩を引き寄せるようにしてランディ様から引き離す。
「最近はわりとシルヴァン様との距離の方が近い気がしますけど……」
「僕はいいけど、他の者にはだめだ」
「えええ?」
「さあ、ランディ殿。殿下がお待ちだから、はやく中に」
シルヴァン様はランディ様の背中をぐいぐい押して執務室の中に誘導する。
疲れきったランディ様はシルヴァン様の勢いに圧倒されているみたいだけど、大人しく言われるがままに従っていた。




