36_小さなことからコツコツと?
それからというもの、シルヴァン様は毎日のように私に会いに来るようになった。
仕事中にばったり会うこともあれば、殿下の執務室で待ち構えていることもあるし、こっそり呼び出されることもある。
前も結構よく会うなあ?と思っていたものの、それでも数日おきという感じだったけど、今は本当に毎日だ。
ん?ちょっと待って?つまり、スカーレットとも毎日接触しているということだよね?
それにモヤモヤを感じつつも、なんだかんだとシルヴァン様に会えるのは嬉しいのも本音である。
「あー、本当に疲れた……どうして聖女に会うとこんなにも疲れるんだろうか」
それにしても、こんなに疲れると言われているスカーレットもなかなか不憫だ。まあ、本人に問題がありすぎるから自業自得なんだけど。
普通に節度を保って関わる分にはシルヴァン様はとっても優しいし気やすく接してくれるし、きっとすぐに仲良くなれるはずなのに。ある意味もったいない。
シルヴァン様、最初からスカーレットのぐいぐい具合に引き気味だもんね……。
「お、お疲れ様です」
それにしても、毎回こうしてハグする必要が本当にあるのだろうか!?
最初に殿下の執務室で抱きしめられた時は咄嗟すぎて気づかなかったけど、シルヴァン様っていつもいい匂いがするんだよね。ちょっと甘さのあるなんとも言えないいい匂い。
この匂いがしているうちには、少なくとも匂いに現れるタイプの魅了の魔力はついていないということになる。
(わ!想像しちゃった。シルヴァン様がひどい口臭を放ち始めたら結構ショックかも?)
そう思うと、予防的な意味でこうしてシルヴァン様と触れ合うのはいいことのように思う。
私もしっかりこたえなければ。
気を取り直してシルヴァン様の背中に私も手を回すと、なんだか不満そうな声がふってくる。
「……ステラはこうしていることになんとも思わないの?」
「え?」
なんとも、とは?
ああ!私が嫌じゃないか気にしてくれているのかな?
「全然なんとも思わないですよ!だって魅了の魔力対策ですもんね」
「……はあ。なんとも思わないのか。まあ、それなら遠慮する必要もないか」
本当に嫌じゃないとアピールするために満面の笑みでそう伝えると、なぜか盛大にため息をつかれてしまった。おまけに何やらぶつぶつ言っている?抱きしめられているから顔は見えないけど。
まさか、私が気にしなくともシルヴァン様が本当はすっごく嫌なのに我慢してるんだったりする!?
「あの?もしもこうして触れるのが嫌でしたら、もっと別の方法でも大丈夫だと思います。なんなら、スカーレットと顔をあわせているだけなら、私とも顔を合わせるだけでも効果があるかもしれませんし」
「なんで?なんとも思わないってことは嫌っていうわけでもないんでしょう?他の方法で失敗しては大変だから、こうするのが一番効率がいいと思うけど」
「シルヴァン様がいいんなら、私は問題ありませんが……」
嫌なのに我慢しているってわけでもないのかな?そうじゃなかったら、少しでもマシな方法を探すよね?
いつもこうしてシルヴァン様が『魅了の魔力の対策はばっちりだ』と安心できるまでハグしているのだけれど、今日のシルヴァン様は一味違っていた。
私を抱きしめたまま椅子に座る。つまり、私はシルヴァン様の膝の上にのせられた形だ!
「ええっ?あのっ?」
「すごく疲れているんだ。こうしていると疲れが取れる気がするから、嫌じゃないなら受け入れてほしいな」
そう言って、目を瞑ると、私の首元に頭を寄せて、甘えるように擦り寄ってくる。
「い、いやじゃありませんけど」
とはいえ、さすがに少しは戸惑ってしまう。
こんなになるまで疲れているなんて、本当に大丈夫だろうか?魅了の魔力以外にもスカーレットが何か疲れるエネルギーみたいなものを発していたりするんじゃ?
そんな風に心配になるくらい、シルヴァン様の様子がちがう。
うーん、疲れていると甘えたくなるタイプっているよね。イライラするタイプより楽だけど。
でも、こんなに甘えん坊になるタイプなら、今まで疲れ切った時には近くにいた女の人とかがとびきり甘えられてびっくりしてしまう、なんて場面もあったんじゃないだろうか。
シルヴァン様、結構隙が多くて心配になるわね。ご自分の顔の良さや色気をもっと自覚して気を付けた方が良いと思う。いつか悪い女の人に引っ掛かりそう。
それにしても近い距離で見るシルヴァン様、まるで芸術品のようだわ。
長い睫毛、通った鼻筋、形の良い唇……ちょっとうらやましいくらい整っている。
すごいなあ。こんなに麗しいのに可愛さも併せ持っているなんて。なんてずるい人なんだろう?
これが魅了の魔力対策じゃなかったら間違いなくドキドキしているところだよね。シルヴァン様の恋人になる人は心臓に悪い毎日を送ることになりそうだなあ……。
「そんなに熱心に見られると恥ずかしいな」
「あ、すみません、あんまり綺麗なお顔なのでつい見とれちゃいました」
「ス、ステラ、君ってば本当に……」
目を閉じているから気づかれないと思ってじろじろ見てしまっていたのだけど、私の視線をビシビシ感じていたらしい。
シルヴァン様は本当に恥ずかしいみたいで、ちょっと頬を染めて眉をひそめた。
いけないいけない、心休めるための時間なのにこれじゃあリラックスできないよね。
そう思い素直に目を逸らす。
「シルヴァン様、浄化が使えるのが私でよかったですね」
私じゃなければいくら魅了の魔力対策のためとはいえ、なにやら良からぬ勘違いをしていたかもしれない。もちろん、私は自分の役割をしっかり分かっているので、そんな勘違いは絶対にしませんよ!ご安心を!
「ああ、本当に。ステラで良かったよ」
シルヴァン様にもばっちりその辺が伝わっているのか、ちょっと嬉しそうに笑いながらそう答えてくれた。
『ステラ、有能!』をアピールし続けているかいあって、私が仕事熱心で真面目なタイプだとそれなりに信頼をよせてくれているらしい。
この調子で、いつか魔術師団にいれてもらえるかもしれないと信じて、これからも頑張ろう!
小さなことからコツコツと!




