28_魅了のお菓子、浄化のお菓子?
更新再開します!
しかし、突然ランディ様の顔が歪む。
「ぐっ!がっ、ごふ」
ぎゃああ!お団子が、お団子が詰まったんだわ!
どうやら無理やり口に突っ込んだお団子を慌ててのみ込もうとしたせいで咀嚼が足りず、すんなり喉を通っていかなかったらしい。
これは完全に私のせい!
「ランディ様!お、落ち着いてください!ちょっと失礼、背中を叩きますね!」
顔を赤くするランディ様の背中を慌てて叩く!
「くっ、げほ、ごほっ!」
お団子はすぐにつっかえていた部分を通過したようで激しくせき込みだすランディ様。
恐ろしい……今度こそ王宮内お団子殺人事件を起こしてしまうところだった。
こんなことならすぐに解けてしまうトリュフチョコレートを食べさせるべきだったわね。珍しいお菓子の方が興味をもって食べてもらえる可能性が上がるかも?と思ったのだけど、選択ミスだったわ。
「どうした?大丈夫か?」
「は、はい、あの……」
私とランディ様がわあわあと騒いでいることに気づいた王太子殿下が声をかけてくる。
その目はやっと呼吸ができるようになってせき込んでいるランディ様への心配とともに、『浄化の首尾はどうだ?』と聞いていた。
「げほ!げっほ!」
「あのですね、私がお団子を」
「がはっ、ごほ!」
「だからつまり、その、私のせいで」
「げほ!はあはあ」
自分のやらかしを説明しようとしているのに、ランディ様のせき込みが長いしひどいせいでそちらが気になって全然説明できない!
だ、大丈夫かしら?咄嗟すぎてレイラの時のように治癒魔法をついでにかけておくのを忘れちゃったから、喉にダメージを負ってしまっていたらどうしよう。
今からでもかけておく……?
「はあはあ、本気で死ぬかと思った!……ハッ!」
やっと落ち着いたランディ様は荒い息を整えながら、何かに気づいてさっと顔色を悪くさせる。
そのまま目を見開き、口元を手で覆った。まだ新鮮な空気をたくさん吸いたいはずなのに。
うう、口臭を気にした行動を目にするたびに罪悪感が刺激される……!
──あれ?
そういえば、こんなにも至近距離で激しくせき込んでいたのに、いつの間にかあの酷い臭いがしない。
最初はやっぱりちょっとくさかったけど、それどころじゃなくて気にしないようにしているうちに。
(口臭が……消えている!)
まさかあれほどの口臭が本当にこんなに一瞬でしっかりさっぱり消えてしまうなんて!すごい!
そして、やっぱりあの臭いは魅了の魔力のせいだったんだ。
思わず勢いよく振り向いて王太子殿下を見ると、私の反応で浄化の成果がどうだったかを理解した殿下は、すぐに頷いてくれた。
「ランディ。君に聞きたいことがあるんだが、これから少しいいだろうか?」
◆◇◆◇
騎士団の訓練場をあとにした私達は、王太子殿下の執務室に移動した。
王太子殿下と私と、ランディ様に、すぐにかけつけてきてくれたシルヴァン様の4人だ。
殿下の護衛騎士も側近もいないのに、メイドがいるというちょっとおかしな組み合わせなうえにわざわざ執務室に呼び出されていることで、ランディ様が身構えているのが分かった。
「聞きたいことというのは、聖女の話なんだが。君は騎士の中でも聖女と親しい方らしいな」
王太子殿下がそう切り出すと、ランディ様はますます表情を硬くする。
「も、申し訳ありません」
「ふむ。なんの謝罪だろうか?」
うわあ。即冷たく切り返されて、ランディ様が息を呑んでらっしゃるわ。
「殿下。あまり意地悪しては可哀想ですよ。騎士ランディはおそらく、殿下と聖女がいい仲だという噂を知っていて、殿下の愛しい聖女との距離が近かったことを責められてしまうと考えているのでしょう」
「……っ!」
シルヴァン様がフォローのような追い打ちをかける。というか思ったよりストレートに切り込むんですね!?
シルヴァン様、それこそが意地悪では?ランディ様、絶句して顔が真っ白になってますけども。
「ああ、あの意味の分からない噂か。ランディ。私には愛しの婚約者であるアンジェリカがいるというのに、まさかお前までそんなバカげた噂を信じているのか?」
「……え?」
目を丸くして信じられないと言わんばかりのランディ様の反応に、殿下はこれみよがしに眉間に指をあて、頭が痛いとポーズする。
だけど、私には分かる。おおげさにそういう仕草をしてみせているだけと見せかけて、本当は自分のこれまでの行いのせいでスカーレットの振りまく噂に信憑性が出てしまって、ここまで真実として広まってしまっていることに本気で不甲斐なさを感じているんですよね!
不器用すぎて態度や表情が分かりにくすぎると思っていた殿下だけれど、こうやって見ていると何を考えているかまでわりと分かりやすいわね。
「先に言っておく。私が聖女と必要以上に親しいなどという事実はない。王太子として聖女に接しているに過ぎない」
「で、ですが」
「お前がそう思うに至った理由も含め、聖女の話を聞きたい。そのためにここに呼んだんだ」
まだまだ戸惑うランディ様は、それでも王太子殿下の質問にきちんと答え始めた。
やっぱりスカーレットが王太子殿下との仲を匂わせるようなことを度々話していること、自分が聖女と親しくなったのは、騎士団の訓練場を見学にきた聖女から声をかけられたのが最初だったこと、度々聖女に呼ばれて、喜んで聖女が作ったお菓子を食べていたということ……。
まあ、おおむね想像通りね。
「聖女の菓子については、どのような感想を抱いた?」
「感想、と言われましても」
「どんなことでもいい。味についてでも、その時に抱いた気持ちの変化でも」
ランディ様は思い出すように視線を動かし、やがて自分の心を振り返るように目を瞑る。
「最初はただ嬉しかったです。まさか聖女様が自分に目をかけてくれるとは、と。お菓子については……そういえば味が思い出せない。ただ、聖女に手ずから食べさせていただくという高揚感からか、とても浮足立った幸せな気持ちになりました。自分でもよく分かりませんが、その感覚が忘れられなかったのか、お菓子を頂く度に聖女に心酔する気持ちが強くなり……」
話しながら目をあけたランディ様と、ぱちりと目が合った。
「ああっ!?お前、あの時の!?」
次の瞬間勢いよく立ち上がったランディ様が私を指さし大声をだす!
ひえ!なんでこのタイミングで私に気づくの!?
しばらく毎日更新します。




