27_くさい騎士様浄化大作戦
その後、すぐにメイド長と騎士によって連れていかれた不敬メイドことメラニーさん。
レイラとは別れて、王太子殿下とアンジェリカ様とともに別室で待機していると、メラニーさんに対する尋問結果が報告された。
本当に驚きなんだけど、彼女がスカーレットの魅了の魔力に影響されているなんて事実は全く確認できなかったらしい。
「ええっ!?それじゃあ、本気であんな不敬が許されると思っていただけだったんですか……?」
「聖女様は一体、いつもどんな話をしているのかしらね?」
アンジェリカ様はそう言って笑っていたけど、私はドン引きだ。
メラニーさんが短慮で短気すぎたのもあるだろうけど、それにしても……
「これじゃあ魅了の魔力がついていておかしくなっている人と、ただスカーレットに傾倒しておかしくなっている人の見分けがつかないのでは……?」
途方に暮れた気分で思わず呟くと、王太子殿下が「ふむ」と思案する。
「ステラ嬢。君はずっとあのメイドが魅了の魔力にやられていると思っていたようだけど、そういう疑いを抱くような何かを感じたのかい?」
「え?ええっと、それは、あの理不尽で難癖をつけてくるみたいな様子はランディ様に詰め寄られた時を彷彿とさせるものでしたから……」
何か、と言われれば『様子のおかしさ』につきる。
おっと。何度もあの時のことを思い返していたらうっかりあの悪臭もよみがえってきちゃったわ。うぐぐ、思い出し臭ですらちょっときつい。
うっかり食事中とかに思い出しちゃわないようにしばらくは気をつけないと、その時食べているものが食べられなくなっちゃいそうなレベルだわ!
「いや、そうじゃない。私のように汚れて見えたり、シルヴァンのようにホコリのようなものがついていたり、ランディの時のようにきつい臭いがしていたり……そういう類のものだ」
「あ、そういえばそういうことは何もなかったです!」
ホコリもついていなかったし、汚れも匂いも正常だったわ!
そう思いながら、ふと気づく。
「ひょっとして、魅了の魔力は私の視覚か嗅覚で感知できるなにかとして現れている……?」
「もしもそうなら、探しやすくなるな。ホコリと汚れの違いもある、決まった形とは限らないかもしれないから、少しでも疑問に思うものを見たり嗅いだりした場合は念のため報告してくれ」
「わかりました」
そういう分かりやすい着眼点があるのは助かる。
ちなみにお菓子は騎士様の毒見(という名の試食?)のあと、王太子殿下とアンジェリカ様にも食べてもらい、無事に合格をもらった。
「ステラ!このお団子、すごく美味しいわ!もちろんトリュフチョコレートもクッキーもキャラメルも最高よ!」
「うん。これなら王宮専属のシェフに教わってもらう必要はなさそうだな」
えへへ、ありがたき幸せ!
このラインナップなのにはもちろん理由がある。どれも一口で食べられること。小さめで、食べづらさやあまりお腹がすいていないことなどを理由に手を付けない、なんてことがないように。
◆◇◆◇
いつもとは違う眼鏡と髪型で別人メイドを装い、大量のお菓子をのせたワゴンを押しながら王太子殿下のあとについていく。
向かった先は──騎士団の訓練場。
「皆、いつもご苦労。今日は労いを兼ねて差し入れを持ってきたから、よかったら食べてくれ。疲れた時には糖分の摂取がいいと聞いてな」
突然の王太子殿下の登場に驚いていた騎士様達がワッと歓声を上げる。
その中にはもちろんランディ様もいるのだけど……なんだか他の騎士様たちとちょっと距離がある。休憩中には皆で談笑したりもしているみたいだけど、その輪には入っていないみたいだ。
あああ、分かってます!口臭を気にして、誰かと近い距離で話すのにためらいを覚えているんですよね!
私のせいで!!
もちろんその匂いは私しか感じないものなので気にする必要など全くないわけだけど、ランディ様はそのことを知らない。可哀想なランディ様。
とにかく、浄化が無事に完了したら謝罪とともに全てきちんと説明して、口臭を気にする必要は全くないのだと教えて差し上げなければ……!
(このお菓子を食べて口臭が消えれば、魅了の魔力を浄化できたってことだよね)
王太子殿下の合図でワゴンの上のお菓子たちにかけていたクロスを取り、騎士様達にお披露目した。
「わ!クッキー好きなんです!ありがとうございます!」
「王太子殿下にこんなお心遣いをいただけるなんて感激です!」
「これ……なんだ?」
「俺知ってるぞ!これ、お団子ってやつだ!すごい、こんな珍しいものにお目にかかれるとは!」
「んぐ!初めて食べたけどちょーうまいです!」
本当は訓練後はゼリーとかさっぱりしたものの方が良かったかもしれないけど、騎士様達はみんな喜んで食べてくれている。
……こんなに喜んでもらえるなら、さっぱりしたものは今度個人的に差し入れしてもいいかも。浄化が成功したら、私のお菓子は魅了の魔力の予防になるかもしれないのだし?
殿下に相談してみよう。
しかし、一番食べてほしいランディ様は相変わらず少し離れたところにぽつんと立っていて、なかなか近づいてこない。
ひょっとして、口臭を気にしすぎてお菓子を食べるために口をあけるのも気になるのかも……!
このままではまずい。
私は声色と喋り方を変えてランディ様に近づく。
「そちらの騎士様もどうぞ~せっかくの王太子殿下からのお菓子なのでぇ。ほら、こちらのお団子は東の国のお菓子で、とっても美味しんですよお~」
「い、いや、俺は──……」
「アッ!ソッカ!訓練後で手が汚れているのが気になるとかですか!?それでは、僭越ながら。はい、あーん!!!」
口を閉じ気味に声を出しすぐに顔を背けようとするランディ様の口元に無理やりお団子を押し付ける!
「むぐっ!?」
「ネッ!美味しいでしょう~」
正直、口を閉じ気味にしたって「俺は──」の時点でくさかったし、顔を背ける動きでも臭いがふわっとしたし、むぐっ!の口の隙間からもれた息もくさい。なんかこの前よりもくさいのでは?
しかしそんな激臭に襲われているなどとおくびにも出さず、ドキドキしながら咀嚼するランディ様を見守る。
(どうか、どうか浄化が成功しますように……!)
そうじゃないと今すぐにこの場から逃げ出したいくらいくさいので!
この匂い、私以外は感じていないの、やっぱり信じられないんですけど!




