居心地の悪い空間。
――2週間後。
私は、ウィンストン公爵家に送られてきた招待状を持って、オーウェンズ侯爵家が主催の茶会に参加していた。
「お待ちしておりましたわ。アイヴィ様。」
「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。」
「とんでもないですわ。」
赤味の強いピンク色のドレスに身を包んだオーウェンズ様が、にこりと微笑む。
茶会は、オーウェンズ侯爵家の庭で行われるらしく、その場には既に、10人程の令嬢が集まっていた。
「皆さん。こちら、ウィンストン家の養女になられたアイヴィ様ですわ。お義兄様に当たるヒューゴ様に聞いた話なのだけれど、アイヴィ様にはまだお友達はおろかお知り合いも居ないみたいなの。可哀想だったから、皆さん。仲良くしてあげてくださいませね。」
“可哀想”という言葉に引っ掛かりはしたものの、オーウェンズ様が言っていることに間違いはなかった為、特に訂正をすることもなく挨拶を済ました私に、周りに座っていた令嬢達が、クスクスと笑う声を向けた。
何かおかしな言動をしたかとも思ったが、ここ最近の私の礼儀作法はマナー講師であるジェームズからのお墨付きだ。何も間違ってはいない筈。
「やだわ、皆さん。知り合いすら居ないアイヴィ様が哀れだからって、笑っては失礼よ。」
「そうですわね。アイヴィ様、失礼致しました。私は――。」
そして、何故かこのタイミングで始まる自己紹介。
私と同じテーブルを囲う令嬢は、オーウェンズ様を除くと3人だ。3人の内2人は伯爵令嬢で、残りの1人は子爵令嬢だそう。
挨拶を終えた途端に、私を除いて仲良さげに会話を始めた4人。
人と関わるのがあまり得意でない私は、会話に交わることも出来ず、ただ黙々と用意されていたサンドウィッチと紅茶を口にする。
パンに挟まれたキュウリがシャキシャキとしていて、瑞々しい。
確か、キュウリは貴重な食材だった筈だ。それをパンに挟んで、招待客に振る舞うなんて。ウィンストン家よりも下の爵位とはいえ、流石は侯爵家。財力がお有りのようで。
「そういえば…。私、失礼ながら、アイヴィ様のことをウィンストン公爵家の養女になるまで存じ上げませんでしたの。元は何処のご令嬢でしたの?」
オーウェンズ様からの質問に、言葉が詰まる私。
言いたくない。
それが本心だった。けれど、質問された以上は答えなければいけないし、招待された側の私が『言いたくない』と言って空気を悪くすることも許されない。
ぎゅっ、と着ていたドレスを握り締め、意を決して口を開く。
「エルズバーグ伯爵の元で暮らしていました。」
シーン…と静まり返るこの場。その反応からして、エルズバーグが子供好きの変態伯爵だったことは、周知の事実なのだろう。
「あら…、そうだったの。」
笑いが含まれたその言い方に、はっきりとした悪意を感じる。冷ややかな笑みを浮かべるオーウェンズ様を見て、もしかしてこの人は最初から知っていてわざと人前で聞いてきたのではないかとすら思えて来た。
「でも、変ねぇ?確かエルズバーグ伯爵には夫人が居なかった筈。彼は、子供に興奮するような変態伯爵だったから、エルズバーグと誰かの間に出来た子でもなさそう…。もしかしてアイヴィ様って、実のご家族から…。…いえ、これ以上言うのは野暮ですわね。失礼。」
うふふ、と可憐に笑ったオーウェンズ様だったが、私にはその笑みが、醜く見えて仕方がなかった。




