カーシーとの時間。
「じゃあ、お義姉ちゃん。これを持って、其処に座ってね。」
「…何これ。」
「何これって、花束のこと?庭師に頼んで作ってもらったんだ~!」
「何をやらせてるの…。」
庭師の仕事は、公爵家自慢のあの美しい庭園を造り上げ、維持することだ。決して花束を作る仕事ではない。
カーシーは、そのことを分かっているのかいないのか。流石だよね~などと脳天気なことを言っている。
私は、はあ…と溜め息をついた後に、カーシーの指示に従う。絵を描くことだけに意識が行ってしまっている彼に、何を言っても無駄だと思ったのだ。
カーシーの絵は、芸術家タイプだと自負するだけあって、今年で9歳になる子供が書いたとは思えない程、見事な腕前だ。だから、モデルになること自体に嫌という感情はないのだけれど、如何せん、描かれている間が暇なのだ。
今日は描き終えるまで、どれ程の時間がかかるだろうか。
そんなことを思っていれば、カーシーが手を動かしながら、話し掛けてきた。
「うちにドロシー・オーウェンズが来てたみたいだけど…、お義姉ちゃん、会った?」
「さっき偶然会った。」
「ふーん?何か言われなかった?大丈夫?」
「別に何も。茶会に誘われたぐらい。」
「え、茶会?行くの?」
キャンバスに筆を走らせていたカーシーの手が、ぴたりと止まる。
私が、オーウェンズ様の茶会に行くことを良しと思っていないのか、顔を上げたカーシーの眉間には皺が寄せられていた。
王宮主催のパーティーにすら興味がなかった私が、何故茶会に行こうかと思ったか。その答えは極めて単純で、ヒューゴの言うように経験になると思ったからでもあり、いい加減に他の貴族との交流を持つべきだと思っていた最中の誘いだったからでもある。
先頃のパーティーにてヒューゴが私を 義妹だと紹介してくれたけれど、その場に居たのは、一部の人間に過ぎない。
未だ私がウィンストン家の養女となったことを知らない者も大勢居る為、この誘いをきっかけに、交流をしてみるのもありだと思ったのだ。
「やめておいた方がいいと思うけど。」
「…何故?」
「んー、僕があんまりドロシー嬢が好きじゃないから?」
「理由になってない。」
「外面はいいけど、あの女、絶対性格悪いよ。」
「あの女…。」
「行っても、お義姉ちゃんが傷つくだけのような気もするけどな~。」
カーシーの発言は、後に的中することになるのだが、このときの私は、そんな事態になる筈が無いと思っていた。




