お喋りアイヴィ。
「この傷が原因でお嫁に行けなかったら、私を王宮で雇ってくださるということですね?」
「……ん?」
私が倒れたのも、傷を負ったのも、決してアリソン殿下のせいではないけれど、本人が責任を感じるというのであれば、その責任を取ってもらおうではないか。
何故か、ぴしりと固まって動かないアリソン殿下に『ありがとうございます』とお礼を言えば、にっこりと。それはそれは輝くばかりの笑顔を向けられた。
そして、ぎゅう、と強く抓られる頬。
容赦なく抓るものだから、一瞬、頭の傷の痛みを忘れた。
「何しゅるんですか。」
「ほんっとに、他の令嬢を見習いな?」
「は?」
「普通、責任を取るなんて言われたら結婚を思い浮かべるでしょ?!ていうか、俺が責任を取るって言うのもおかしな話なんだよ。」
「責任を取れなんて私は一言も言ってませんけど。」
抓られた頬を擦りながら、アリソン殿下を睨みつける。
「だから、それだよ。傷なんか負わせようものなら、普通の令嬢は、俺に責任を取って結婚しろって言ってくる筈なの。それなのに君は、なんッにも言ってこない。」
「言いました。王宮で働かせてくれって。」
「…頭痛い。」
「大丈夫ですか。」
「君の熱が移ったかもね。」
「私の熱は疲労からくるものなので移りません。」
「今日の君はよく喋るね…。」
はぁ…、と頭を抱えて溜め息をついたアリソン殿下。
なんだか私が話の通じない馬鹿な子みたいな反応だ。やめてほしい。
「まあいいや。傷が残ったら、王宮で働きたいわけね。分かったよ。覚えておく。」
「ありがとうございます。」
「でも、これだけは覚えといてくれる?」
「はい?」
「俺は第一殿下という立場だからか、承認欲求が強いんだよね。皆から、認められたいわけ。そして、自分が一番で居たいわけ。」
「はあ。」
「その“皆”には、当然君も含まれているんだよ。」
にっこり。再び、それはそれは輝くばかりの笑顔を向けられた私は、さっと自分の頬を庇う。
またあんなに強く抓られたら、たまったものじゃない。
「王宮で働くことよりも、俺のお嫁さんになる方がいいってこと。絶対に認めさせてやるからな。」
「…え。」
それはいったいどういう意味だと聞く前に、私の前髪に触れ、ちゅっとガーゼの上に優しく唇を落としたアリソン殿下。
想定もしていなかったトチ狂った行動に、私は、目を見開いて固まる。そんな私を見て、アリソン殿下は、満足そうに笑う。
「君でもそんな反応出来るんだ?意外。」
「お戯れが過ぎます。殿下。」
「別に遊んでるわけじゃないよ?割と本気。」
さっきは思い切り抓ったというのに、私の横髪を耳にかけるその手つきは、とても優しい。厭味の化身であるアリソン殿下からこんなことをされては、調子が狂ってしまう。
「これからは、もう少し君に優しくすることにするよ。」
「今まで通りで結構です。」
「ほんと可愛くない。」
五月蝿いです。そんな思いを込めて、キッと睨みつける私に、アリソン殿下はケタケタと笑ってみせた。




