会いたかった。
これは後にスザンヌから聞いた話なのだけれど、この日の屋敷内は、かなり慌ただしかったという。
特に公爵様がパニックになってしまったそうで、私が死なないか、何度もお医者様に確認していたらしい。それを見た奥様が、縁起でもないことを言うなと怒ったことで、普段仲睦まじい2人が喧嘩をするという珍しい事態にまで発展したそうだ。
この場合、夫婦喧嘩というよりかは、奥様が一方的に怒っていたという言い方の方が正しい気がするが。
疲労が原因で倒れた私は、3日もの間、高熱に魘された。
正直、意識が朦朧としていたこともあってよく覚えてないのだけれど、夢を見ていた気がする。お母様との夢。
たとえ夢の中であろうと、お母様に会えてとても嬉しい筈なのに、目を覚したときの私の胸は、締め付けられていたかのような苦しい感覚が伴っていた。
夢の中での私は、笑ったり、泣いたり、怒ったりと忙しかったように思う。
この国の王太子に“鉄仮面”と言われるような私だけれど、お母様が生きていた頃は、感情豊かな子だったのだ。
これが夢だと気づいたのは、お母様の顔を見た瞬間だった。
最初の頃は、お母様が亡くなったことこそが、夢なのではないかと思っていた。夢の中でお母様に会う度に、『ほら、やっぱり夢だったんだ』なんて、ちぐはぐなことを思っていたし、そんな夢を見せてくる神様を酷いと責めたこともあった。
私にとって唯一寝ているときだけが、現実から逃げることの出来る時間だったのだ。
目を覚ますと、お母様は当然、何処にも居ない。それが、とても悲しくて、切なくて、苦しくて。胸の痛みが、幸せだと思えていた夢よりもずっとリアルで。
ああ、これが現実なんだ。お母様はもう夢という世界でしか生きていないんだと、受け入れたくもない現実を、無理矢理受け入れさせられた。
だから、お母様を見る度に思うようになったのだ。今は夢の世界なのだと。
「アイヴィ。貴方また木に登ろうとしたわね?駄目じゃない。男爵家の令嬢として生まれたのだから、そんなことをしては。」
「お母様…?」
「何?アイヴィ。お母様は今、怒っているのだけれど。」
「ッお母様…!」
怒られている最中だというのに、目の前に居るお母様が恋しくて、堪らず抱き着いた私。その存在を確かめるかのように、お母様に強く強く抱き着く。
突然の私の行動に、お母様は困惑した様子だったけれど、いつもと様子が違うことに気づいたのか、決して私を離そうとはしなかったし、私も離れようとはしなかった。
「アイヴィは甘えん坊ね。仕方のない子。」
トン…トン…、と一定のリズムで、私の背中を優しく叩いてくれるお母様。
既に枯らしたと思っていた涙が、どんどんと溢れて来る。
最初こそは静かに泣いていた私だけれど、あまりにも夢の中のお母様が温かい存在だから、声を抑えることが出来なくなり、最終的にはわんわんと小さな子どものように激しく泣いた。
お母様は私が泣き止むまで、ずっと背中を叩いてくれていた。




