第8話 実験と考察
「ユカは5度目の卑弥呼を実験に使いました。4度目が終わって生まれ変わった彼女は医者になったんです」
なるほど。ユカが勉強ができたわけだ。
「考えたね。医者になれば亡くなりそうな人を見つけるのに苦労しない」
「そうです。だから医者になったって。その時のユカは狂ってたって言ってました。卑弥呼システムに呑まれてたって」
「前々世の旦那さんを愛してたんだろうね」
「はい。ユカは言わなかったけど、私も今はそう思えます。旦那さんを巻き込んだ挙げ句にズレた時代の、しかも中国に送り込んでしまったことでそうなったんだろうなって。彼女、医者になってわりとすぐに自殺したそうです」
「患者の中で亡くなりそうな男性を見つけて力を使ったんだね?」日巫女は頷く。
「できる限り近くで近い時間に。彼女が力を使った相手はその4日後に亡くなり、その直後に病院の屋上に上がって飛び降りたって」確かに狂っている。
「5度目の卑弥呼を実験に、てより5度目の2008年からの人生を卑弥呼システムのためだけに生きたって感じだね」
「ですね。そして結果は成功。卑弥呼として生まれて9年後に男の名前と場所が頭の中に入ってきた」
「その情報が頭の中に入ってくるって言うのは?君も僕で経験したんだよね?」だからトウリのことを知ったんだろう。
「はい。不思議なんですがスーと頭の中に...トウリ、東南の方、ミナギの集落って。そこの景色もまるでその場にいるように。そしてわかっちゃうんです。あ、未来の記憶を持った人だって。私の場合は半信半疑ながらもそういう人が現れるって知ってたから前もってクニ中の集落の該当しそうな子ども達を記録していたからトウリさんが記憶を戻したこと感じてすぐに使者を送れたんです」
「卑弥呼の能力?」
「というよりは卑弥呼システムの一端、うん。たぶんそうかな。不思議な力です」
「生まれ変わった後の力とは別に卑弥呼は卑弥呼で力を持っているってこと?」
「はい。ただ、卑弥呼の力ではやはりないと思います。どちらかと言えば『御告げ』なんじゃないかなって。ほら魏志倭人伝に卑弥呼はシャーマンみたいな人だってありましたよね」
「まあ、それユカさんなんだけどね。うんでも確かに今の君である日巫女様も僕らには神様の言葉を預かる人だって認識だね」
「はい。ただいつでも色々なことが御告げとしてあるかってことはないです。私が知る限りは三つ。同じ未来人のこと、自分の誕生日、日食がおこる時です」
「誕生日と日食?」
「はい。毎年誕生日にスーと。1年経過したって」
「日食は?」
「皆既日食だろうが部分日食だろうが私が見ることができる日食が近づくとわかるんです。これまたスーと。太陽が欠けるシーンが浮かんで、不思議と10日後だみたいにわかります。それからはカウントダウンで毎日あと9日、8日って」
「未来人を見つけるのはシステム上の仕様としてわかる気はするけど、誕生日と日食...か」
「たぶんですけど、卑弥呼システムがゲームみたいな仕組みだと考えたら誕生日は経過時間。クリアタイム的なもののためにじゃないかなと」
だとしたら本当にいよいよゲームだな。
「いや、推測だけどクリアタイムを競うゲームじゃないはずだよ、たぶん卑弥呼システムは。ユカさんが6度挑戦してまだ終わってないんだ。聞く限りユカさんは馬鹿じゃない。そんな人が何度も繰り返して『遊びじゃない。明確な目的があるはず』って感じてたんだ。どちらかと言えばタイムリミット、つまり寿命を意識させるためと考えるべきだよ。1年経過したぞ、どんどん寿命に近づくぞって」
「確かに...」
「ただ日食はなんだろうね。それにもおそらくは意味があるとは思うけど」
「でも確か日食と卑弥呼ってわりと関係ありません?私も一応予習して、というかまあユカの話にのっかるためだったんだけど卑弥呼とか邪馬台国の本を色々読みましたけど、なんかそんなことが書いてたと思うんです」
「確か卑弥呼が死ぬ前に日食があって、そのあとまた国が乱れたみたいなことだよね?」
「はい。それに太陽って卑弥呼システムに凄く関わっている気がするんです。だって卑弥呼って中国の人が勝手にあて字で書いたんでしょ?現に私もユカもここでは日巫女、太陽の巫女ですもん」
確かに卑弥呼の字も邪馬台国の邪も蔑んだ名称だ。中国の王朝は代々自分たち以外は蛮族とするから明らかにその意図で当てた字だろうな。
「御告げの主は日神様。つまり卑弥呼システムを作ったのは日神様...になるね」
「そう...なりますよね...」
「で、君は日神様は天照大御神じゃないかと?」
「太陽の神様って言ったらそうじゃないかなって」
そんな神話上の神様が?何か目的があって卑弥呼システムを?なぜ?
「あるいは」ふと思う。「神話上の神様ではない何か別の存在がいる?」
「それって?でも御告げもそうだし、転生させる力とかも絶対現実的なものじゃないですよ。そんなの神様でしょ?」
僕は首を横に振る。
「わからないけど...。ふと、ね。ごめん。話を戻そう。実験で送り込んだ男がちゃんとこの時代に現れたんだね。でも旦那さんの時は卑弥呼になってすぐにわかったのにその男のことは9年後に?そんな近場で時間差もさほどなく死んでも時間にズレがあったの?」
「いえ。あ、確かに多少のズレはあったみたいですが、これもトウリさんの質問の答えになります」
「10歳」
「はい。私達日巫女は生まれた時に全ての記憶を持ってます。でもなぜか送り込んだ男性はこの時代で10年経過しないと記憶が戻らないみたいなんです。これはユカが6度目、最後の転生時に改めて確認したみたいです」
「男性を転生させても日巫女にはならないし、日巫女みたいに優遇措置はないってことだろうね。もしかするとシステム的にはバグなのかもしれない。魂はこの時代に転生できるけど、記憶が戻るまでは時間がかかる。御告げもない」
「そうかもです。卑弥呼転生は女性限定。でも無理やり男性に使ったら中途半端な結果が起こる。うん、確かにバグかも」
「それで、9年経過して男の存在を感知したってことはひとつ男が年上だったと」
「です。ほぼ直前でも1年。でも旦那さんの時の何十年よりはかなり近くです。そして時間だけじゃなく場所も。彼はクニの中の集落にいました」
「僕と同じ」
「はい」
「つまり前世の僕は前世の君と同じ病院にいたんだね。そして僕と君は4歳差。死んだのは直前ではない。ただユカさんの力を考えたら君が亡くなってから次の新月までの間。君が亡くなった日にもよるけど少なくとも10日程はズレてない」
日巫女は大きく頷く。
「そうです。ただ先に私が死んだからトウリさんがいつ亡くなったかは正確にはわかりません」
「なるほど。ただひとつ大きな矛盾?疑問?があるんだけど」
「はい」
「君はひとつ嘘を言ってるよね?」




