第6話 卑弥呼の力
「少しはゆっくりできましたか?」
昼間にしっかり寝てしまって、日が落ちても起きていた僕を、改めて朝の幼い方の女官が日巫女様の使いとして呼びに来た。
で、朝と同じ流れで日巫女様の部屋に行き、年上女官が「日巫女様の御前です」とこれまた同じ流れで入室した。
「食事の後すぐに寝ちゃってました。起きたら晩御飯までいただいてしまって」起きてすぐに、女官が来て食事を用意してくれた。たぶん部屋の前で起きるのを待っていたんだと思う。起こしてくれて良かったんだけど。
「ではまた簾を上げていただけますか?朝の続きです」
「あの...結局なんで僕がここにいるのか、なんで昨日で10歳になって記憶が蘇ったのかってのを聞けてないままだったんですが」そもそもそれを聞いたはずだったんだが、先代卑弥呼に転生させられたくらいしか聞けてない。
「ですね。あ、話し方は朝みたいな感じで大丈夫です。私もそっちの方が話しやすい...というか、ずっと偉ぶってしか喋れなかったし、気楽に話しかけられてこなかったからちょっと嬉しいんですよ、実は」
なるほど。
「偉い人に生まれ変わると大変だね」
「ホントそれです」日巫女は笑う。「で、質問の答えですね。凄く言いづらいんですけど...まず貴方がこの時代に生まれ変わった理由は...あの、言ってしまえば私のワガママなんです」日巫女はちょっと俯き、上目で僕を見た。
「ワガママ?」
「はい。まずユ...前の卑弥呼の力について話します」
「例の同級生?」
「はい」
「思ったんだけど君たちは2008年生まれなんだよね?君はいつ亡くなったの?」
「貴方と同じ2025年です」
「17…随分若いね」高校生。
「自己炎症性疾患って言う指定難病だったんです。それで残念ながら合併症になっちゃいまして」
「そいつはツイてなかったね」僕の言葉に日巫女は目を見開き、そして笑った。
「アハハハ、うん。ツイてなかったです」
「あ、何か言い方まずかったよね」
「いえいえ。嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい。普通みんなかわいそうだとか大変だねって言うんですけど...アハハ、ツイてなかったって」
「あぁ...うん。同情?みたいなのは何か違う気がして」
「アンラッキーガール」
「ん?」
「私が病気のこと話したらあの子、前の卑弥呼が付けた私のあだ名。アンラッキーガール」日巫女はクスクス笑う。
「なんか凄いキャラ...だった...のかな?」
「アハハハハハ凄いキャラって。トウリさんもじゃないですか」日巫女は大笑いする。「でも良かったです。あの子に近い感性の人みたいで。ハハハあーおかし」
「いやいや、ほらもう亡くなっちゃって生まれ変わってるわけだから。そりゃさすがに17歳の女の子にそんな病気のこと言われたらまた違うよ、きっと」
「えー。どうかなあ?朝からちょっと思ってたんだよね。トウリさんって生まれ変わりだとか邪馬台国だ卑弥呼だって話してもなんか『そんなもんか』って感じで飄々と受け止めてるし。たぶん普通はもっとパニクるよ、絶対。その後も普通にご飯食べて寝ちゃってるし。てか、記憶が戻った日も普通に過ごしてたんでしょ?」日巫女はまた大笑いする。「ユカは人生7周目だからなんかなあとか思ってたんだけど、トウリさんって実は何度か転生してません?アハハハハ」
いやいや。ちゃんと驚いているし混乱しているんだけど。
「ウォホン。話を戻してくれ」
「そ、そうですね。ごめんなさい話が逸れちゃって」まあ話を逸らしたのは僕なんだが。「えっと...そう前の卑弥呼の力ですね」
「ユカさん」
「え?」
「いやさっきユカって言ってたから。そっちの方が『前の卑弥呼』より話しやすいだろ?ユカさんでいいよ」
「ありがとうございます。じゃあ、ユカは私の知る限り2つの不思議な力を持ってました。まずひとつは転生させる力です」
「僕と君に使った力」
「ですね。でもこの力は本当はもっと限定的なんです」
「限定的?」
「はい。本当の力は転生させるではなく『誰かを卑弥呼にさせる力』なんです」
「でもユカさんは6度ずっと卑弥呼に生まれ変わってたんだよね?」
「ええ。実はユカもこの力で別の人に卑弥呼にさせられたのがはじまりだったそうなんです」
先々代卑弥呼...。
「今の君もできるの?」
「...できます。2008年には、ですが」
卑弥呼は鬼道、つまり呪術を使ったみたいなことが魏志倭人伝にあったけど。実際には『卑弥呼が生まれ変わったら呪術が使えるようになってる』ってことかな。
「先々代卑弥呼...」
「まあ、また話が逸れちゃいますから、それは別の機会に。とにかく卑弥呼だった人間は次の卑弥呼を指名して魂を送り込むことができるらしいです」
「で、生きている間に次を指名しないとまた自分が卑弥呼になる」ユカさんは6度卑弥呼をやった。つまりそういうことなんだろう。
「はい。ただ条件があるらしくて、近く死が確定している人にしか使えないそうなんです」
「つまり目の前に死にそうな人がいないといけないってことだよね、それ」日巫女は頷く。
「そこで、『もうひとつの卑弥呼の力』があるんです」
「もうひとつの力?」
「はい。次の新月までの間に死んじゃう人が見たらわかるらしいんです」
満月から新月の間。つまり最大で余命15日以内。
「じゃあ卑弥呼を交代しようと思ったらその力で15日以内に死ぬ人を見つけて、その人にもうひとつの力を使う必要があると」日巫女はまた頷く。卑弥呼の力って言うより純粋に卑弥呼を交代するためだけの力だよな、それって。卑弥呼システムのリタイア機能か?
「ユカは時々夜中に病院に忍び込んで遊びに来てたんです。面会時間後も病院内に隠れたりして。わりと高頻度で来てたけど、思えば私の余命の確認もしてたんだろうなって」
「なるほど。で、君の余命が15日を切っていると分かった時に君に力を使ったと」
「あ、でも卑弥呼を譲られたのは私の意志でユカが勝手にやったんじゃないんです。まあ、私も正直信じてなかったんだけど」
ふむ。しかし卑弥呼転生はわかったが...。
「で、卑弥呼ではないトウリ転生がなぜ起きてる?」
日巫女は項垂れるような格好で下を向いた。そしてそのまま話始める。
「あの...そもそも私、信じてなかったんです。入院中に何かの話から転生とか生まれ変わりとかの話になって。そしたらユカがその卑弥呼だとか邪馬台国とかの話を聞かせてくれるようになったんです。私を楽しませるためにしてくれてるのだろうって。頭の良い子だったから、話しながら即興で設定作ったりして。私も面白くて邪馬台国や卑弥呼の本とかたくさん読んで、コレは?って色々質問して。あの子、ケロッとした顔でそれを答えてくれて。それこそ九州と近畿どっちだったの?とかも両方やったとか...」
「...」
で、僕はいつ出てくるんだ?




