第5話 マナとユカ
西暦2025年。
「よっ!」病室のドアを開け、満面の笑みでユカがひょっこりと開いたすき間から顔を出した。ユカの笑顔を見ると私も自然と笑顔になれる。
「また来たの?アンタちゃんと学校行ってないでしょ?」私が笑うとユカは病室に入りドアを閉める。
「午前中の授業は出たし。出席日数ギリでも卒業できるんだからちゃんと計算してるって」そう言ってユカはカバンを私のベッドの足下辺りに放り投げ、慣れた手つきでパイプ椅子を出してそれに座った。
「学校に行けるんだからちゃんと行きなよ」
「でた!難病少女の自虐説教」楽しそうにユカはケタケタ笑う。「センセもさ、私が消えたらどうせマナのとこだろってわかってるから何も言わないの。むしろ早退してるの見て見ぬふり」
「私をサボるダシにしないでよ」私も笑う。
「どうせヒマでしょ?私も授業がかったるいし、お互いWIN-WINでいいんじゃね?」これでユカは中学生の時から成績優秀なんだからワケがわからない。
確かにユカが来てくれることは嬉しい。他の誰よりも嬉しい。他の友達もありがたいんだけど、正直お互いに気をつかうから何となく気が重くなる。何だか悲壮感を出しつつも悟られないように無理して笑ってます。でもダメ、感情が漏れちゃう...みたいな感じで来るし、そう来られたら私も窓の外を見つめて微笑みながら「来年の桜は、もう見られないのね」みたいな雰囲気にならざるを得ないのよね。
ユカといる時みたいにケラケラ笑ってたら「何だ意外と元気じゃん。コッチはめっちゃ気を使ってるのに」か「こんなに元気に笑ってるのに、もうすぐいなくなっちゃうなんて...ウルウル」になる。
馬鹿馬鹿しい。結局みんな何を期待して見舞いに来るかって、「薄幸の女子高生」なんだと思う。
「ヤッバ、マナひねくれすぎ」前にそんな気持ちをユカに話したらユカは腹を抱えて笑った。「まあわからなくもないけど」失礼なくらい大笑いだ。
「でもユカはこうして笑ってくれるし、なんて言うか、以前と全然変わらずじゃん。一緒にいる時はこの病気も大したことないんじゃないかって思えるくらい」
「いやいや大したもんなんだけどな」
「そうだった」二人で笑う。
「ま、健康体の私が言うことじゃないけどさ、なっちゃったもんは仕方ないし泣こうが喚こうがコレもうしょーがないじゃん。そんなアンラッキーガールなとこも含めてマナはマナなんだし。最後まで何も変わらないユカ&マナっしょ」
「ありがと、ユカ」少し涙目になる。
「あ!薄幸少女になった!」
「ちょっと!良いシーン良いシーン!」
病室が個室で良かったなって思えるくらい二人で笑った。
「でもさ...」涙目で笑うユカに私はちょっと躊躇いながらも真顔に戻って本音を口にした。「正直ね、日に日に悪くなってるの自分でわかるじゃん?やっぱ怖いし、悔しいし、淋しい。ユカが帰った後にあと何回会えるのかなとか考えちゃうし...泣いちゃうことも結構ある」やばい泣きそう。「うん、薄幸少女になってるよ」笑ってみせる。
「そりゃそうだ」ユカはこちらを見てなかったが真顔だった。「誰だって普通はそうなるよ。私だってここからの帰り道、実は泣いちゃってたりする。でも良いんじゃない?泣いて笑って。それが自然だし、ありのままだし」
「...うん」不覚だ。泣いてしまった。
「それに、確かにマナはアンラッキーガールだと思う。何の因果かわけわからない難病指定?みたいなもんになってて。でもさ、他の子らはアンラッキーガールじゃないって言えなくない?クラスの誰かがマナのお見舞いに来るじゃん?可哀想な子だなあって帰ってたらトラックが突っ込んできて即死とかさ、なくもないわけじゃん。そっちの方がよっぽどアンラッキーよ。マナはさ、こうして一緒にいられる時間あるけど、そういう死に方のが私的にはアンラッキーね」
「そっか...かもね」
「そ。本当の不幸は気配も足音も感じさせずに喉元掻き切るプロのヒットマン」ユカは親指を立てて自分の首を掻き切る仕草をして「ぐわぁ」と言ってから笑う。
「じゃあ私のとこに来たヒットマンは二流ね、とりあえず仕事はこなせそうだけど」私も笑う。「今更だけどユカって本当わからない。授業中は寝てばかりなのに成績良いし、何か軽いようで意外と言ってること深いし」
「長く生きてるからね」ニッと笑って親指を立てるユカ。
「同じ年でしょうが」笑う私。
「実は私は転生チートなのだ」
「だったらもっと無双しちゃえよ」
「それがそうも都合良くいかないんだなコレが」ユカは天井を見上げて目を閉じため息をつく。
「そうなの?」私は笑いながら話に付き合う。
「だってさ考えてみ?未来の知識で無双するって普通に無理っしょ」ユカが身を乗り出す。
「うーん...どこからが無双なのかだけど...ちょっとは有利じゃないかなあ?」
「だって知識あったって道具や材料ないわけじゃない?ラッキーにも材料あったとしても、それをどう使うのか?とか分量だとかさ素人にできるわけないじゃん?物によっちゃできる物もあるかもだけどさ、見本もない世界でトライ&エラーを繰り返してすごく時間もかかるし、材料使うし、事故なんかも起きそうだし。時代が古ければ古いほどそう。文字すらなくてみんなで田畑耕して、狩りして、そんな世界で一人『火薬の作り方何となく知ってます。マヨネーズ作れます』って何の役にもたたないわよ、普通は。なんだよ、マヨネーズって。なんですでに酢があるんだよ?その卵生で使って大丈夫なのかよ?てかそんだけすでに揃ってたら未来の知識なくったって誰か作ってるわよ」ユカがちょっと本気でマヨネーズに怒っているのが面白くて笑ってしまう。
「なんでわざわざ転生先でマヨネーズつくるのよ」
「知らないわ。なんかそんなマンガ読んだのよ。醤油作りましたとか。身寄りもない若僧が事故で死んだらなんで味噌や醤油が普通に作れるんだよって。転生ナメんな」
「ハハハ、確かに」
「せいぜい授業中寝てても以前習ったから試験楽勝くらいね、転生チート。ただし歴史は除く」
「歴史は駄目なんだ」
「なんか微妙に変わってるのよ、年号とか人名。まあ私みたいな異物が紛れ込んだんだからそうなるんじゃない?知らないけど」
「ん?それって自分が転生した時代からまた未来に転生してるじゃん」
「そ。私はそういう転生者」ユカはそう言ってニカッと笑った。
何よ、その歴史が苦手な言い訳。それに他に比べてってだけで全然人より成績良いじゃない。私も笑った。
「でも本当に生まれ変わりがあるなら、別にチートじゃなくて良いから生まれ変わりたいな。健康な体に。




